ErogameScape -エロゲー批評空間-

sweets443さんの虚ノ少女《NEW CAST REMASTER EDITION》の長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
虚ノ少女《NEW CAST REMASTER EDITION》
ブランド
Innocent Grey
得点
93
参照数
140

一言コメント

過去から現在に至るまでの長い時系列と、前作とは異なり主人公を含めた数多くの登場人物の視点で物語が進む群像劇形式の物語。 まとめるのが難しい内容でありながら、事件の風呂敷を畳みきりながらも、殻ノ少女の最後の物語へと繋ぐ傑作だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

殻ノ少女とは異なり、主人公の視点だけでなく第二の主人公とも呼べる真崎を中心に様々な登場人物の視点で物語が進んでいくのが印象的だった。

断片的に綴られる出来事がやがて一本につながっていくのは、読んでいる側としても感嘆させられた。紫視点で見られる百合っぽい描写なども玲人視点では見られないものであるし、物語に深みを持たせられる方針転換だったと思う。

村の因習にまつわる殺人事件はミステリーにおける鉄板だが、虚ノ少女ではこれまでのシリーズと同様に狂気と偏執による歪んだ愛によって引き起こされるものであった。

ぐり子は告白の失敗シーンで死ぬことが予想できた。シリーズごとに元気で快活な女性が死ぬのはもう定番になりつつある気がする。わかっていてもつらいものがある。

「被害者は基本的に全員かわいそうなんだけれど、名前間違えられて殺された由果が一番かわいそうに見えるんだよな……犯人は別だけどすべての殺人が秋弦の下半身問題(悪筆含む)につながってるのに何の裁きも受けないのにちょっとモヤっとする」

今作では前作のメインヒロインであった冬子は玲人の記憶の中にいる彼女のみが登場する。

玲人の記憶の中にいる冬子はまるで年相応の女子高生のように声を含めて意図的に変質して描かれていた。あの光景は玲人の理想を反映したものであることがわかる。

結局のところ、他人の記憶のみに生きる人間は当人の知り得る精神性しか反映されず、時とともに当人の感情で変質していくものなのだろう。直前の雪子の他人を取り込む行為が表層的なものであるという事実により説得力を持たせるものとなっている。

過去の村の因習から、現在の天恵会につながり、その悲劇から誕生した1人の少女へと至る物語はひとまずのところ幕を下ろした。そして、玲人は冬子を見つけ出すことになるが、冬子と自分の子供が存在していることを知り、理人の友達でもあった尚哉と赤子の失踪とともに最後の話へと続いていくことになる。

一作目の出来を超えて、ここまで面白い三部作の二作目は初めて見たかもしれない。ゲーム内容・システムはこの作品で完成したといっても良いので、結末を描く天ノ少女が楽しみで仕方がない。