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sweets443さんの天ノ少女《PREMIUM EDITION》の長文感想

ユーザー
sweets443
ゲーム
天ノ少女《PREMIUM EDITION》
ブランド
Innocent Grey
得点
94
参照数
230

一言コメント

ミステリージャンルのエロゲという枠を超え、芸術作品に昇華した本作。殻ノ少女の最後を締めくくる物語としては最高の作品だったと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

すべての作品において画風が変化してきた殻ノ少女シリーズだが、今作は死体を含めて全体的に芸術作品を意識したようなデザインに落とし込まれている。

以前の作品を含めて猟奇殺人の死体であっても、どこか美しさを感じるところがあったが、天ノ少女は見立て殺人を含めて芸術であった。

今作は天国をテーマに、殻ノ少女シリーズに登場する人物たちの幸せを描くことが主題となっているので、そこに合わせた方針であると解釈した。

R18のゲームであることは間違いはないが、Hシーンは0、ミステリー要素は虚のほうが完成度も高かったため、作品に対して何を求めるかによっては評価がわかれるところではあると思う。

事件内容は、間宮の未発表作品である「天罰」を巡る、現在の時間軸から6年後の未来の時間軸まで続く連続殺人事件。最終的な解決は未来になることは変わらないものの、千絵の逮捕や八木沼の生死など、プレーヤーの行動で変えられる点も多かった。

この事件の解決後、二人の主人公がそれぞれ因縁の相手と決着をつける。

六識はやはり殻ノ少女のさまざまな事件に関わってきたこともありラスボス感があった。彼もまた殻ノ少女のパラノイアに囚われ続けていたことから玲人と重なるところがあった。

尚織は法に触れることはしていても悪と断ずることはできない人間で、真崎とは立場や境遇は違えど罪を犯し、彼と違って誰にも助けられなかった人間だったのだろう。

六識も尚織も2人の主人公達の狂い方によっては、同じような末路を辿った可能性もある成れの果てなのかもしれない。

この作品では、殻ノ少女シリーズの登場人物たちの幸せを描く内容であり、杏子さんは一番幸せになれそうな魚住とくっついて安堵し、紫は真崎と一緒になることを示唆するエンドがあった。ステラの扱いが賛否分かれるところではありそうだが、それ以外は納得できた。

虚ノ少女の最後で存在を知った冬子と玲人の娘である色羽(瑠璃)、彼女をその手で守った玲人は冬子と出会ったあの場所で成長した自分の娘と邂逅する。

玲人はもちろん、プレーヤーもまた冬子のパラノイアに囚われる感覚になる本作であるが、このシーンを見たとき声にならない声をあげて感情が昂るまま涙を流してしまった。

玲人の心情とプレーヤーの心情がリンクするシーンで、ようやくパラノイアから解放されたような満足のいく最高の結末だった。