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slav23さんの九十九の奏 ~欠け月の夜想曲~の長文感想

ユーザー
slav23
ゲーム
九十九の奏 ~欠け月の夜想曲~
ブランド
SkyFish
得点
80
参照数
1234

一言コメント

風呂敷をたたみきった伝奇ミステリー物

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「るいは智を呼ぶ」などの暁worksの数々の代表作を手がける
さえき先生の原画と物語の世界観のよさ、OPの力の入れように
期待して購入。上越の田舎町を舞台にした和風伝奇物です。
以下、物語の概要とネタばれをできるだけ抑えた評価を。

故郷の田舎の村興しイベントの手伝いに帰郷した専門学校生の
主人公と友人たち。帰郷したばかりの夜に不気味な少女の仕向ける
大蛇に憑依されてしまう主人公。さらに、主人公の姉が猿の
妖に憑かれ、記憶を失った犬の妖の力を使う少女が出現。主人公と
関係者たちは村に伝わる伝説の九十九神の謎に挑むことに...。

シナリオですがまずマイナス面から。事前に雑誌やHPでヒロインとして
攻略可能と思われた姉キャラの鳴と裏ヒロインと想定された人気キャラ
玉梓が個別√なし攻略不可能(-10点)。同メーカー他作品と同様文章による
ストーリー展開のテンポが遅め(-5点)。ボイスの大小のばらつきが
キャラによってかなり大きい(-5点)。

次はプラス面を。前述のマイナスにもかかわらず、甘いかもしれませんが
高得点をつけたのは同メーカーのこれまでの作品と比して成長した点がある
ためです。それは次の2点です。

①設定上大きな役割を果たす九十九神が次々お披露目されていき、
かつ能力を活かした展開が用意されています。
②また、伏姫と玉梓の関係、町村の歴史などが語られることで大小の謎、
伏線は最後までプレイすればきっちり回収されます。

この2点が高く評価されるのはこれまでの作品をプレイした際に
感じていた設定や舞台の意味への疑問が大きいです。

過去にプレイしたソレイユシリーズやprimaryなどの作品も世界観
はよかったのですが、設定における北欧神話の神々や魔法といった
要素があまりにも強力すぎ、問答無用の大逆転が比較的安易と感じていました。
一方、今作では九十九神ごとの能力が決まっており、例えば回復係の主人公、
バトル係の伏姫、ヒント係の鳴がそれぞれの力の範囲で問題を解決しようと
するため九十九神使いの力の使い方がちゃんと重要になってきます。

世界観と舞台展開に関して言えば、ソレイユシリーズの北欧神話は話が
壮大すぎて異世界にまで話が拡大するため細かい話が置き去りに
なり、はるとまやprimaryはキャラが特殊な舞台空間(水に沈んだ世界、
海外の魔法学園都市)を必要とする密接な背景を感じさせないのに
対し、今作は葛折町という土地の歴史が、子孫であるこの地に縁を持つ
人々(名家の万青丈など)に今回の事件に巻き込まれる動機を
提供していることが徐々に明かされていきます。これは南総里見
八犬伝と葛折町というモチーフと舞台双方を限定したためにストーリーと
キャラに仕込む伏線や謎が明確化されたことが可能にしたと考えられるでしょう。

原画や音楽、CGなどの技術のハイレベルに対してシナリオが弱かったSkyFish
にとりこれらは大きな躍新です。エロはやや薄めも塗りの美麗なCGやOPに代表
される音楽の質のよさはいつも通り。シナリオ面の強化が続いていくようならば、
今後も期待して見守りたいと思います。

お気に入りキャラは、ダメ姉参謀の鳴。非攻略キャラながらヒントをくれる
彼女が弟の主人公との関係も含めラストでどうなってしまうのか気にしながら
プレイしていました。