僕の話を聞いてほしい。“僕”と彼女と彼女の恋の話を。
僕は美雪が好きだった。そしてアオイが嫌いだった。
黒髪ロング幼馴染が好きだったし、デンパ女は嫌いだった。
だから最初に決めたのだ、美雪を攻略しようと。
たとえパッケージ裏で血塗れのバットを手に微笑んでいたとしても。
一周目、と言ってもOPの後だから解釈によっては二週目かもしれないが、とにかく僕は美雪を攻略した。
可愛かったし、永遠の愛を誓った。選択肢で。
ぶっちゃけて言えば、アオイなんて攻略したくなかった。
だってデンパ系は嫌いだから。いやほんとに。
今まで電波ヒロインで好きになれたのなんて『荒川アンダーザブリッジ』のニノさんくらいだ。
だけどゲームだから。進めなくては。
エロゲーマーの性でもあるし、公式HPにあるメイド服美雪Hシーンまだ見てないし!
という訳で渋々、アオイ攻略に乗り出した。
攻略は簡単で、普通に選択肢を選べばたどり着ける。
もちろん、屋上でアオイと話をする時の「美雪のこと/アオイのこと」という選択肢は美雪を選んで一度やり直したけど。
屋上でエッチもした。おいおい卑語無修正かよ。「お○んこ」連発じゃん、とちょっと心が揺れたことは白状しましょう。
それでも僕は美雪の方が好きだった。ていうか無修正「おま○こ」なら桐谷華さんのが聞きたい。ハルに言わせてください。
とか思いつつ適当にアオイを攻略したら、大好きな美雪に殺された。
画面の向こうの“君”は誓ったはずだと。永遠の愛を。それなのにアオイとエッチした。裏切りだ。
ちょっと待ってくれって、思った。いや僕は徹頭徹尾、美雪の方が好きなんだって!
もちろんそんな叫びが届くわけもない。というよりも、そんなのそもそも誠実じゃない。
もし本当の本当に、美雪だけが好きだと言うなら、美雪√が終わった時点でアンインストールも出来たわけだから。
現実なら、リセットして別のヒロイン攻略なんて出来ない。
むしろ「美雪のことが好きだ」って言いながらアオイを攻略する、こんなの不誠実の極みだろう。
まだアオイも好きになったって言う方がマシだ。
この時点で結構心にキていた。
第四の壁を越えて、こっち側に話しかけてくる美雪は正直怖かった。
さっきまでの選択が間違っていたなら、やり直させてほしかった。
と思った矢先、既にセーブもロードも出来ないと言う。
じゃあ決めた。それならもうこれから、このゲームをアンインストールするまで。
美雪のことしか攻略しない。アオイ寄りの選択肢なんて選ばない。
だからバグった空の下、狂った景色の校舎の中、消えたアオイを呼び戻すためのコールナンバーを。
僕はわざと、間違えた。
誕生日?五月二十三日?そんな数字はもう、要らない。
ちょっとしてやったりな気分だった。多分普通に忘れてた扱いでシナリオは進むんだろうけど。
その後、アオイがかけた“呪い”のシーン。
「美雪は誰にもネトラレないの」
心一以外の人とは結ばれないという呪い。
その呪いを止めるための選択肢「アオイを止める/アオイを止めない」
僕はもちろん、止めなかった。
誰にもネトラレて欲しくなかったから。
僕以外と結ばれない運命なら、僕と結ばれればいい話だろ。
“僕”とのセックスのシーンは興奮したとしか言えない。
「これ催眠音声じゃないの?」とか一瞬思ったけれども。
しかしこれだけ時間をかけて催眠してくれるなら、まさにそれでこそ美少女ゲームってものだろう。
同時に射精できなかったのだけが心残りです、ほんと。
そしてまた繰り返しのセカイへ戻る。これは幸せなのかもしれない。
だけどこれは終わりがないから。終わりがないゲームなんてない。
バッドエンドでもエンドなんだ、終わりがないことだけはありえない。
ということはちゃんとあるはずなんだ、彼女を救えるエンドが。
だから僕は、彼女の制止を振り切って、電波ネコを追いかける。
アオイに会いたいからじゃない、美雪を救いたいからだ。
そして最後の選択肢、究極の二者択一。
僕が選んだのは、美雪です。これは、僕と彼女の恋の話。
いやー批評空間史上、最悪の長文感想を書いてしまった自覚はあります。
つまり、ゲームと現実を混同するほど面白かった、ということです。
消費されるヒロインに対する警鐘だとか、サイトを見ながら攻略することを鼻で笑ってるとか。
とっかえひっかえヒロインを攻略するという冒涜に物申してるとか。
そういうことじゃなくて、僕に対してはただただ“恋愛シュミレーション”させてくれたゲームだなぁと。
そこをとても評価しています。
好きになった相手を画面の向こう側で一途に想うこと、それが恋愛シュミレーションゲームにおける誠実さだと思いました。
それがたとえアンインストールまでの短い間だとしても。エンドロール後のFinの文字と共に消えていく想いだとしても。