とても綺麗なお話
大昔に読んだジュブナイルSFを、また読み返しているような、とても懐かしい感覚でした。
目新しい設定は何一つないけど、ともかく丁寧に書きましたという作品です。
丁寧すぎて、序盤はちょっとかったるいくらいですけど。
それでも感動のラストまで、見事に描ききっています。
人間と被造物との恋愛は、ギリシア神話の時代からありますが、ハッピーエンドで終わるほうが少ないですね。たいていは人とロボットの境界を結局は超えらない、というような悲劇的な終わり方をしています。
そういう意味でこの作品の終わり方は、今風と言えるでしょうね。
正直、第1部と第2部のつなぎ方は、かなり強引だと思いましたが、それをエンディングに、ああいう風に活かして終わらせるとは。本当に美しい終わらせ方でした。
まあ、派手な設定を出してきた割に、小さくまとめて終わらせた感はありますけど。あくまで二人の恋愛を描きたかったとするなら、ありではないでしょうか。基本主人公視点の第1部と、マキナ視点の第2部、それをつなぐ舞台装置でしかないと考えれば、上手くまとめたほうだと思います。
タイトルから判断すると、[クオリア]、量子脳理論と、量子力学の多元世界解釈、それに人格のAI化を組み合わせる事で生まれた設定と読めるのですが、そのあたりをほとんど説明せずに進めたのは、やはり強引としか言えません。特にSFに不慣れな人には不親切に感じたのは、無理もないでしょう。
ただ[クオリア]について詳しく説明すると、たぶん冗長になるだけで終わるでしょうけど。なにしろ客観的な言語化ができないと言われている感覚の問題ですから、話が面倒くさくなるだけで面白くするのは難しい、というか恋愛とは別ベクトルの哲学的な話になりますし。
でも、タイトルにして置いてふれないというのは、いいのか? という気も少々しますw。
北見六花さんに惹かれての購入でしたが、なかなか良い出会いでした。