ErogameScape -エロゲー批評空間-

shostakoさんのク・リトル・リトル ~魔女の使役る、蟲神の触手~の長文感想

ユーザー
shostako
ゲーム
ク・リトル・リトル ~魔女の使役る、蟲神の触手~
ブランド
BLACKCyc
得点
99
参照数
2912

一言コメント

伊藤ヒロはやっぱすごいなと思わせるゲーム

長文感想

 伊藤ヒロのクトゥルー神話ものとして、コズミック・ホラーを期待したがホラーっぽさは全然なかったなー。用語と設定のみを利用した感じかな。主題としても結局は旧約聖書を引用していますしね。ラブクラフトファンが手を出すものでないかもしれないし、ホラーが好きならまだ、夢幻回廊のほうが雰囲気が出てたな。ラブクラフトのような人名を普通名詞として使用するあたり、R.U.R.U.Rのチャペックやセーバーへーゲンみたいで良かった。あー、いつもの伊藤ヒロだと。しかしR.U.R.U.Rの時の、引用具合と比較すると、わかりにくかったかな。PHP研究所の「クトゥルフ神話」がよくわかる本を片手にプレイしたから、神々の対立関係とゲームの関連性もよくわかったし、アブホースのくだりなんて良くできてるなー!と思ったりしたが、普通いきなりク・リトル・リトル!と言われてもわかんねーよ!もっと用語説明などあったら楽しめたのにね。このゲームには副読本が必要だな。

 椎咲雛樹は夢幻回廊2あたりから少しずつ画風が変わってきたが、今回一気に変わった印象が・・・。別に文句はないのだが、マインデッド・ブラッドや夢幻回廊と比べると個性がなくなったかな。きれいのはきれいのだが。あるいは金たロウの活躍が目立ったのか、徐々に二人の絵の区別がつきにくくなっているような。

 演出はいろいろ以前のBLACK CYCの作品と比べると、劣る部分があったのが残念。
 例えば、背中から翼がはえるシーンも、銃刀の迎は気持ち悪いくらい見事にニョキッ!とはえてみせたが、今回は取って付けたようで残念であった。
 躍動感も、蟲愛のレンのサソリは飛び出さんばかりの迫力だったのに対し、今回はな止まってたなー。過去作を目の当たりにすると、本当に残念で仕方がない。

 バイオレンスなシーンもblackcycは絵でしっかり見せてたところを今回はカットした所もまた、やむをえないとしても、残念である。マインデッド・ブラッドでは麻奈の首が飛んで、蟲愛ではユーリアの首が飛んで、夢美の体は貫かれてと、いちいち心臓に悪い思いをしましたが、今回なかったなー。
 ただひとつ、マコトによるたんぽぽの復讐シーンはすばらしかった。
その迫真の演技は、非常にリアリティがあった。Hシーンやレイプシーン、拷問シーンなど、今まですごいなと思ったことはあったが、
今まさに!目の前で!本当にそんな目にあっている人がいると錯覚してしまうほどの名演技である。
 さらにそれを際立たせる演出もよかった。普段は大人で在らんとするたんぽぽが、小学生に戻ったかのような、幼稚で、独善的で、絶望的な叫びは恐ろしく、現実的であった。たんぽぽのこれまでの言動から読み取れる彼女の人生を踏まえて、最も彼女らしい、言動であった。
 また、絵も非常にリアリティのあるもので、刃物で刺された彼女の傷口の開き具合、血の出具合は、誇張されず、日常生活で起こりえるレベルのもので、非常に苦痛を想像しやすい表現であった。
 私の持つ目と耳と想像と経験を、最大限に利用したリアリティのあるシーンであった。

 にしてもバトルはいまいちだなー。マインデッド・ブラッドや蟲愛がすごすぎたからか、比較すると、なんとあっさり。バトルを見せる作家ではないと言っても、R.U.R.U.Rの戦闘はよかったぞ。しかし、戦闘をすべて下に持っていくあたり、なんとも変態的か。キャラクターがわざわざ言っているからいまさら言う必要はないが、敵の攻撃マニアックすぎの変態すぎ!ものすごく回りくどい攻撃方法は斬新でよかった。見掛け倒しは彼らのためにある言葉だと思う。ただ主人公サイドの攻撃方法がつまらない。みんなかっこよかったのに・・・

 キャラクターはみんなキャラづけがしっかりしてたのに、感情表現が少ないのが残念だわー。
 特にツンデレ幼馴染一人称なんて伊藤ヒロの十八番!愛らしくもどかしい彼女の姿が見れるかと思えば、うーん。やっぱりメインヒロインはオーガストなんだねと思わされた。クレオとの愛は感動的ではあった。そして彼女の大活躍は必見!もう彼女を主人公にしたらいいのに!

 オーガストにはなんだろ、思い入れがないよ。主人公ともどもインパクトが薄い。ただただ別のキャラクターたちを引き立てるのには役立ったぐらいか。ただ名乗りだけはずっと頭から離れない。かっこいいものね。

 クズコはとてもかわいらしくてよかった。夢幻回廊2の奈菜香お嬢様を彷彿させられるキャラクターでした。幼稚で子供っぽく、無邪気で幸せな彼女を見るのは心が和みます。その後はなかったことにしたいです。まあ仕方のないことですが。あぶりしゃっぐとの話をもっと深く掘り起こしてもよかったと思う。クトーニアンとクズコの信頼関係は深いものがあったと見受けられました。彼らとの愛情も、蟲愛に続く、BLACK CYCらしい展開だったのにもったいない。

 長政姉弟は悲しいくらい出番が少なかった。いいキャラしてたのに!そのわずかな出番は燦然と輝いていた!なんだかんだで触手姫の中で一番強いと個人的に思う。にも拘らず唯一、レイプすることがなかった彼女らはなんてもったいないことか!あんなに妄想だけ膨らませておいて、あっさり流しやがって!楽しみにしてたのに!おそらく二度とない、結合体ヒロイン+男の娘を!無念で仕方がない!彼女らも無念であろう!
 しかし彼らの正体をさらけ出すシーンは秀逸!妄想は無限に広がっていった。必見!

 マコトはかっこいい部類ではゲーム上、長政姉弟、幼馴染と三強だが、序盤空気、中盤無能、後半屑、終盤不憫と、残念なキャラでした。かっこいいのに。

 クレオはゲーム上唯一の心のオアシスでした。セリフは一番かっこよかった。

 こいぬは不憫で仕方がなかった。なんかもう馬鹿だねこの子は。幸せになってほしいです。ヤンデレに通じるものがあったが、そうでもなかった。

 夢幻回廊と同じシステムで話が繰り返し繰り返し進むが、それぞれ彼らの立場の違いから、思い入れや、愛情の対象、性格など多岐に変化し、毎回新しい話を楽しむことができた。同じ話を繰り返すことは非常にもどかしい部分がある反面、話の隠された伏線をどんどん推理解決していく楽しさや、キャラクターの人間らしさを味わうことができた。さまざまなIFの話を味わうことができ、黒幕は誰か?と聞かれると、全員と答えるしかないおかしさがあった。いいもんはいない、それぞれ欲望や黒い部分をさらけ出した、プレイするたびに、新たな考えや感想が出てくるゲームであった。

 なんだかんだで楽しかった。そしていろいろ考えさせられた。不思議なゲームでした。