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shiratoriさんのQUALIA ~約束の軌跡~の長文感想

ユーザー
shiratori
ゲーム
QUALIA ~約束の軌跡~
ブランド
PURESIS
得点
70
参照数
616

一言コメント

購入前一言で述べたとおり、タイトルは『デウス・エクス・マキナ』がピッタリだと、改めて思いました。(追記:7/2,3,4,12。修正:7/16,27)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

履歴
7/1:初版(○はじめに、○発売前の私の感想、○SF作品としての本作の位置づけ、○スタッフコメント、○おわりに)
7/2:追記(○総合評価)
7/3:追記(○シナリオの重要性)
7/4:追記(○作品の完成度、○その他、気になったことあれこれ)。「○スタッフコメント」に「瞳の色のギミック」について追記
7/12:追記(「○おわりに」に「最終結論」を追記)
7/16,27:修正(「○おわりに」を少し修正)

○はじめに
私は最初、発売日に即、ダウンロード(つまり26日の午前0時に)しようとしたのですが、途中まで購入処理を進めて、やっぱりパッケージ版の予約特典、特にスタッフコメントが気になってしまい、パッケージ版の購入に切り替えてしまいました。発売日じゃ予約にならないだろうって突っ込みは置いといて、どうせ初回版が完売なんてしているわけがないのだから、予約特典、ゲットできるだろうと。まぁ、のんびりやれば良いよねって。そもそも内容なんて、最初から期待してなかったし。

どうせ、オープニングムービーまでに仲良くなって、オープニングムービー後は、ばんばんセックスしまくってっていう、いつものパターンでしょって高を括っていました。まして廉価版だし、シナリオのボリュームも少ないだろうと……。

そして、2日後にパッケージを入手して、やり始めたのですが、最初に驚いたのが、予想に反して、シナリオが相当に真面目、AIについて懇切丁寧に平易な内容で説明するのです。これについては、後で、予約特典でのスタッフコメントを踏まえて考察したいと思うのですが、まぁ、とにかく真面目なのです。あまりにも真面目すぎて、途中で嫌になってしまい、最初の日は、そこで一旦、保存。翌日から新たな気分でやり始めたら、即オープニングムービーが始まり、どうやら私は、オープニングムービー直前で心が折れてしまっていたことが判明したのでした。

その後も、真面目な話が淡々と続いて、否(いや)、こんな暗めな真面目なストーリー、想定と違うゾ!っと。確か、オフィシャルWebページのコンセプト説明では、

「人間とアンドロイドであるがゆえに、お互いの性質の違いや絆を試される運命を前に葛藤しながら、影響し合い、成長し、愛し合っていく切なくも温かい純愛ストーリーです。マキナとの愛を掴み取るまでの軌跡を、その目で見届けてください!」

となっていた筈。それなのに、葛藤も有るような無いような、しかもぜんぜん温かくないし、雰囲気ちょっと暗め、切なくは合っている気もすれど、正直、ダメだなこりゃって感じでした。しかもこの時点で、既に私は、11時間も費やしていたのです。一体全体どうなっているのって思ってそうこうしているうちに、突然、主人公が……。エッ!? エッ!? 吃驚仰天とは正にこのことです。「マキナとの愛を掴み取るまでの軌跡」って、どこいっちゃったの~!って感じですよ。そこから、怒涛のリバース(reverse & rebirth)。ここで、やっと目が覚めました。あっ、物語が動き出したって……。

注)本作、私にとっては、ネタバレを許容しないと感想を書くのが困難なため、これから本作をプレイする方々は、これ以上、本感想を読むのは、お止めください。責任持てません。


○発売前の私の感想
私、そもそもSF大好きっ子なのですが、ロボットもの(巨大ではない)は、それほど好きなジャンルではありません。私は、壮大な法螺話による世界の情景を見るのが好きなのです。何しろ、私にとってのSF魂とは「SF作品なら、空想の世界描写を存分に見せてナンボでしょう」なもので(現在、NHKで再放送中の『未来少年コナン』を見て、宮崎駿はやっぱり分かってるって、改めて思った)。

そのため、人間の心とかをテーマにされるジャンルは若干苦手です。そもそもワクワク出来ませんから。本作のコンセプトように、「お互いの性質の違いや絆を試される運命を前に葛藤しながら、影響し合い、成長し、愛し合っていく切なくも温かい純愛ストーリー」なんて、かったるくて読めるかよって感じなのです。しかも、本作、真面目に丁寧に、それを実践するものですから、本当に参ってしまいます。とにかく主人公の一大転機が訪れるまでは、半端なく辛いです――色々な意味で、本当に……。

そもそも、発売前の私の本作への期待は、『ちょびっツ』的な何かだったのです。つまり、「人間と機械は恋愛できるのか」というテーマですね。にも拘らず、本作、ガチですからね。ガチ過ぎて、ぜんぜんSFらしくないわけです。そもそも、ストーリー上、人間とアンドロイドである必要性なんか、まるで無いのです。ヒロインが人間だったとしても、ストーリー上、いくらでも成立してしまう内容なのです。私なんか、最初から最後まで、ヒロインのマキナが、アンドロイドだと認識することすらできなかったですよ。普通の人間にしか思えなかったのです。それが、この作品の最大の欠点だと言えます。

ただ、別のSF的な仕掛けで、本作がSF作品だと認識することができました。それが、リバース(reverse & rebirth)なのだと思いました。私は、発売前コメントで「ヒロインの名前を『マキナ』にするなら、私ならデウス・エクス・マキナばりの大どんでん返しを考えたいところ(というよりタイトルは『デウス・エクス・マキナ』で良くない?)ですが、99.999%無理」と書いたのですが、実際にやってみて、最後の「99.999%無理」が間違いで、結果的には『デウス・エクス・マキナ』で正しかったのだと再認識できたのでした。


○SF作品としての本作の位置づけ
これまで述べてきたとおり、人間とアンドロイドとの関係性は希薄だったのですが――ここからは壮大なネタバレになるのですが――作品の半ばで「主人公が交通事故で死ぬ」という、正しくターニングポイントによって、本作が平行世界でのループものとしての位置づけに変容したのでした。いや~、ビックリしました。何しろ、死んでからも、暫くそのまま話が進行するので、いやいや、主人公、死んじゃって、「マキナとの愛を掴み取る」って何だったの?って感じになるのですから。

そうこうするうちに、いきなり、別の平行世界で、過去からやり直すって、何、この設定。お花畑通信によって、一瞬、異世界転生ものに話が転換したのかと思ってしまいましたよ。そこからは、普通の恋愛作品として楽しめたのですが、対比構造としてのループ前の話が、あまりにも真面目すぎて、もうちょっと何とかならなかったのかと思ってしまいました。

「『人間とアンドロイドの関係』+『平行世界での人生やり直し』+『仮想世界OASISでの統合』」という三段構えのSF構成で、ある意味、とても贅沢な作りの作品なのですが、その結果、最大の問題は、廉価版のボリュームでは、それらのテーマをきちんと受け止め切れず、作品として“消化”&“昇華”できなかった点でしょうか。

それにしても、突然の驚き設定でのループって、最近だと『ソーサレス*アライヴ』なんかと似ているのかなって思いました。今、流行ってるんですかね、こういう手法。ただ、この手の手法って、ターニングポイント前後でのストーリー対比において、前半が後半より出来が落ちるという傾向がある気がします。対比構造上、比較対象がイコールの出来だと、対比として成り立たないってことなのかな。出来の落差の必然性が求められるってことなのでしょうか。後半はラストスパートをかけるから、前半より面白くなるのは当然? でも、何か違う気がしますよね、やっぱり……。


○スタッフコメント
予約特典のデジタルコンテンツ『マキナの秘蔵メモリー』でのスタッフコメントから本作の意義を、確認したいと思います。私は、このために、ダウンロード版を止め、2日間プレイを延期し、数百円プラスのパッケージ版入手を断行したのですから。因みに、本スタッフコメントは「制作陣による特別なコメントを、インタビュー形式で掲載」となっております。「特別なコメント」ですからね、ちょっとワクワクしてしまいましたよ。

実際に読んでみると、大して特別でもなかったのですが、本作を理解する上で、自分の感想を補完する材料は、いくつか入手できました。因みに、スタッフコメントの構成は次のとおりです。

 ◆キャラクターデザイン・原画:鈴城 敦先生 からのコメント
 ◆マキナ役 声優:北見六花様 からのコメント
 ◆シナリオ・SDイラスト・デザイン:さえ からのコメント
 ◆シナリオ・ディレクター:秋野すばる からのコメント
 ◆原案・プロデューサー:シン からのコメント

各人、いろいろなQ&Aをしているのですが、私が気になった点をいくつか挙げて考察してみたいと思います。

「キャラクターデザイン・原画」
Q.キャラクターデザインや原画でのこだわりポイントは?
A.デザイン面でパーツの接続部分やコードが見えてるといったメカっぽい部品の描写はどこにもないので、どこからどうみても人間の女の子に見えることが逆に いいのかな?と疑心でしたね(笑) 結果可愛いと愛されるヒロインになったのでよかったのですが、心残りだったメカ要素はプロトで描きたいと思ったのが伝わると思います。
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はっきり言って、笑ってる場合じゃないと断言します。「○発売前の私の感想」でも書いたとおり、最大の失敗だったと言っても良いでしょう。この結果、作品のテーマである『人間』と『アンドロイド』の関係性が、『人間』と『人間』の関係性に成り下がってしまい、単なる純愛物語になってしまうのを、キャラクターデザインとして後押ししてしまったのです。
 私は、自分の発売前コメントで「マスターアップ記念イラストのヒロインと空中に浮かぶ球体ロボット?を見た瞬間、その全てを把握できました――『ちょびっツ』的な何かを……」と書いたのですが、『ちょびっツ』だと各種コードを接続する入出力端子を収めた耳的デザインを採用していました(「人型パソコン」という設定だから)。これで人間と区別させていたわけですね。やっぱりCLAMPは偉大だった。大体、私が『ちょびっツ』的な何かを感じたのも、「空中に浮かぶ球体ロボット?」がイラストにヒロインと一緒に描かれていたからであって、もし描かれていなかったら、何も感じなかったでしょうね。
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「マキナ役 声優」
Q.ヒロインの印象や、演じる際のポイントは?
A.今回演じる上で一番気を遣ったのが「時間経過によるマキナの変化」です。 登場したての無垢なマキナ。新しい言葉や感情を覚えていくマキナ。悲しみ苦しみから強さを身につけていくマキナ。 物語の時間軸が大きく変化していく中で、マキナの純粋な心だけは変わることなく、けれど常に前向きに成長していく過程に気を配りながら演じさせていただきました。
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 まぁ、きっと気を配ったのかもしれませんが、マキナは最初から流暢に言葉を話していたので、私には、最初から人間にしか見えませんでした。実際、見た目は人間そのままだし。ここで、極端にロボット的な声色で喋ったのなら、アンドロイドだと認識できたかもしれませんが、初登場シーンから、普通に喋っていましたからね。その後、どんどん普通度がアップしていくのだから、シナリオがそもそも失敗したとも思えます。これが『ちょびっツ』だと最初は幼児程度からだんだんと普通に喋る過程が描かれるのです。やっぱりCLAMPは偉大だった。
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Q.ユーザー様へのアピールコメントをどうぞ!
A.私たちが忘れかけていた「ひたむきに、純粋に、誰かを想い続けること」。そして、その強さや美しさ。AIであるマキナが、人間以上に人間の本質を教えてくれる、優しくて温かい作品です。 ビジュアルも世界観も美しくて、男性だけでなく女性がプレイしても楽しんでいただけるのではないかと思います。 また、マキナの可愛いネイルや、瞳の色のギミックなど、繊細な部分にもとても気を配って制作されていますので、そういった部分も楽しんでいただけたらと思います(^^
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 声優さんが、一番、製品のちゃんとしたアピールコメントをしていて草。他の方々って、一所懸命、丁寧に作りましたみたいな具体的ではないコメントでしかないのですが、声優の北見六花さん、広報担当にでもなった方が良いのではないかと思ってしまいました。
 「女性がプレイしても楽しんで」ってのは、まぁ、シナリオのタッチが柔らかいのが原因でしょうね。
 私は、プレイし終えてから知ったのですが、「瞳の色のギミック」と書いてあったので、思わずGALLERYのCG観賞を再確認してしまいましたよ。そういうことだったのか。つまり、前半と後半でマキナの瞳の色が違う(赤と青)のです。これは、前半と後半のマキナは、過去、未来だけでなくて、平行世界の別のマキナだからということに起因しているわけですね。でも、更に捻っていて、最後は、赤と青が融合した瞳になっているのです。これは、何を意味しているのか。「OASIS」、そういうことだったのかよ。けっこう奥深いシナリオだったのですね。
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「シナリオ・SDイラスト・デザイン」
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Q.メインライターとしてシナリオ執筆をした感想をお願いします!
A.全編通してメインでシナリオを担当するということは今までなかったので、SpinnenS の相方であるすばるさんと何度も相談を重ねながら進めていきました。 個人的には『成長による思考の変化』『感情の揺れ』『それぞれの考え方』などの心情を重視して書いたので、そういった部分も楽しんでいただけますと幸いです。
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 どうも、SpinnenS の二人で執筆したということみたいですね。因みに『SpinnenS(スピネンス)』とは、フリーランスのイラストレーター「秋野すばる」が率いる、創作チームのことです。
 さて、さえさんは「心情を重視して書いた」と述べています。振り返ってみると、そうだったのかもという気もするのですが、私的には、ターニングポイントまでは、微妙にそうかもって感じでしたね。何しろ、丁寧なAI解説と淡々と進むストーリーって感じでしたから。
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Q.考案を担当したブランド名・作品名の由来は?
A.ブランド名の「PURESIS」は、Pure+Oasis の造語です。 純愛を主軸にしているブランドなので、心を潤すオアシスのような存在になれば……という願いが込められています。 作品名の「QUALIA~約束の軌跡~」は、まず第一に作品コンセプトに沿う言葉であることを重視し、たくさん候補を出しました。 本作の重要ポイントである『感覚』からクオリア、そして、『軌跡』は二人が辿る物語の道筋であり、『奇跡』とのダブルミーニングでもあります。 それぞれの言葉が持つ音の響きも重視して決定しました。
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 ブランド名の読みはピュアシスみたいですね。ただ、第一弾の本作が心を潤すオアシスを生み出したのかというと、私は、なんとも割り切れなさが残りましたね。
 作品名は、内容から考えると、主題の「QUALIA」と副題の「~約束の軌跡~」は、正しいのかと言えば正しいです。ただし、掛け詞を強調したいのなら、「キセキ」と表記するべきだったのではないかと思いました。
 私としては、ストーリー展開から名付けた方が、良かったのではないかと思ったのですけどね。つまり、『デウス・エクス・マキナ』(Deus Ex Machina:“機械仕掛けから出てくる神”、あるいは“機械仕掛けの神”)です。勿論、マキナはアンドロイドの名前と掛けています。何のためにヒロインの名前をマキナにしたんだよって話です(ネーミングや色などに意味を込めているのなら、なおさら)。
 実際問題、本作の場合、行き詰まった物語を何の前触れもなく突然解決に導いてしまうのですから、『デウス・エクス・マキナ』そのまんまでしょう。因みに、ここでは、本来の「夢オチ」的な悪い意味ではなく、良い意味での「どんでん返し」としてですけどネ! しかも、半ばと最後の二回も……。
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2020/7/2追記
○総合評価
私、最近、コンピュータソフトウェア倫理機構の倫理規程(平成23年10月1日施行版)における「制作基準」の内容が、とても素晴らしいことに気がつき、ソフ倫所属団体の作品評価は、これに基づけば良いと判断するに至りました。

では、ジャジャーン、本作の評価結果(勿論、私の主観的評価)を発表いたします。
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(1)いたずらに性描写のみを表現し、ストーリー、テーマ、展開、ゲーム的駆引き等の要素に欠けるものは極力制作しない。
 評価1:後半のエッチシーン4連発をどう評価するかですが、全体のボリュームから考えると「性描写のみを表現」には該当しないと判断しました。テーマについては、明確でストーリーにきちんと反映しようとしていることは伺えるのですが、丁寧に作りすぎてストーリー進行上のテンポは悪いと感じました。ゲーム的駆引きは、ここでは恋の駆引きが該当すると考えると、とても弱いと判断しました。ただ、「どんでん返し」は十分効果を発揮したと思いました。

(2)作品の制作に於いては裸体、セックスシーン描写に必要な場面の設定を工夫し性描写の必然性と展開方法、長さ、頻度、その累積効果等構成上のバランスには特に注意する。
 評価2:私は、連続したエッチシーンは、ストーリー進行を阻害する大きな要因の一つだと思っているので、分散またはストーリー外に出す(例『まいてつ』)のを好みます。よって、後半のエッチシーン4連発は構成上のバランスに欠くと判断しました。長さは、個人的な好みでは、1シーン25分程度の現状でも長いと感じるのですが、まぁ、許容範囲です。

(3)コンピュータソフトウェア等の特異性に留意しシステム、シナリオ、テーマ、展開、ゲーム的駆引き、音響等創意工夫に努め、作品内容の充実と向上に努める。
 評価3:これは普通の出来かなって思っていたのですが、「瞳の色のギミック」で考えを改めました。相当、思慮深い配慮がされていますね。
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今更ですが、(1)~(3)って、
 (1)シナリオの評価
 (2)18禁としての評価
 (3)コンピュータの活用度合いの評価
ということになるのかな。考えてみると、絵(映像)についての評価内容がありませんね。(3)に含まれると解釈すれば良いのですかね。評価用パッケージとするには、もうちょっと検討が必要ですかね。

因みに、同じ時間軸をループする設定って、制作する側からすると、絵などのリソースを節約しつつ、ボリュームを簡単に倍にできるというメリットがありますよね。シナリオ的にも差分だけ考えれば良いわけですから、いろいろな意味で一石二鳥みたいな。そのため、個人的には、ループものって手抜き手法じゃないのかと考えたりもしてしまいます。ループもの以外でも、同じストーリーの一人称視点の変更(例:『あざスミ』)とか、人物の性格変更(『どっちのiが好きですか?』)とかで同じ時間軸をなぞるストーリーが、最近、多くなりつつある気がします。安易なボリューム増量手法は、麻薬みたいなものだなと……。


2020/7/3追記
○シナリオの重要性
当サイトの「最近入力が多いエロゲー」を見ると、ついに上位3位までが、次のようになっておりました。
7月3日 23:00 現在
 1位:ATRI -My Dear Moments-(非18禁):2020-06-19:142
 2位:徒花異譚(非18禁):2020-06-19:54
 3位:Summer Pockets REFLECTION BLUE(非18禁):2020-06-26:43

「エロゲー批評空間」なのに、非18禁が上位3位独占って、どういうこと? つまり、ユーザーはエロなんて必要なかった、求めていなかったってことなんでしょうか。勿論、そんなことがあるわけがありません。結論から言ってしまえば、最近のエロゲーは、シナリオがあまりにも貧弱すぎて、感想を書くべき内容がないということなのでしょう。これが、シナリオを軽視してエロ水増しテンコ盛りに走った挙句の、エロゲー業界の末路なのでしょうか。そして、エロゲー市場の衰退がさらに加速されていく。というか、もう終わってますね、非18禁が上位3位独占の時点で……。 世の中の良識派知識人達は大歓喜状態でしょうね。「エロ封殺万歳!」とか叫んでいそうです。

因みに、本作の順位は、第5位です。6月発売の18禁作品の中では、まごうことなきトップです。残念ながら、入力数は非常に少ないのですが……。
 5位:QUALIA ~約束の軌跡~:2020-06-26:26

この結果から考えると、本作は、少なくとも読めるシナリオが曲がりなりにもあったということなのでしょう。実際、私もそう感じましたし――エッチシーン4連チャンを除けば。本当に、エッチシーン後半にまとめて連続ってのはやめて欲しいです。話の腰を折るシナリオって、おかしくないって、いつも思います。しかも、全く改善する気配すら、エロゲー業界にはない。その挙句が、非18禁の上位3位独占。何か間違っている気がしてならないと思っているのは、私だけでしょうか?

大体、ゲームにおけるシナリオライターの序列って、原画家か声優の後ろの3番目が所定位置って決まってますものね。例えば、本作のスタッフコメントの紹介順番でも、原画家(先生扱い)、声優(様付け)の後になるわけです(身内を後にした結果とも言えますが)。つまるところ、エロゲーにおけるシナリオライターの位置づけなど、その程度ってわけです。

ところが、本サイトでの順位は点数評価入力の数です。その評価は、たぶんにストーリーが重要視されるきらいがあるので、抜きゲーが上位にくる可能性は少なく、結果的に話の内容の強弱が順位に反映される傾向が強いと思われます。つまり、シナリオが重要ってことですね。しかし、販売数とここでの順位が連動しているとは必ずしも限らないので、もしギャップがあるのなら、それが何を意味するのかは、要検証ってことになるでしょうね。


2020/7/4追記
○作品の完成度
私は、プレイする作品において、テキストの誤字・脱字・衍字や声優さんの読み間違いを必ずチェックするのですが、本作の場合、私が唯一気がついたのは、次の1つだけです。
 誤字脱字
 ト書き:念のため今日まで大事をとって休ませてもらったが、
     明日には問題なく出社できそうだ
  ⇒文章の最後に句点がない。

相当、丁寧にきちんとチェックして制作したことが伺われます。シナリオなど二人で一つ一つのシーンを一緒に執筆したとのことですから、ダブルチェックの成果が出たというわけですね。秋野すばるさんのコメントによると、ディレクションとシナリオについて「作品としての完成度とまとめ方には特にこだわりました」とのことでしたが、最近のエロゲーの中では、品質管理という点では、素晴らしい出来だと思いました。

ただし、完成度という観点でいうと、どうなんだろう。まとまりはあったと思うのですが――キャラデザインやCG、主題歌の歌詞などからシナリオに逆輸入する形で、設定やシーンを追加した部分もあるとのこと――その分、パーソナリティはなかったといえるでしょうね。いかにも日本的というか(協調性重視)、没個性な作品になってしまったという気がします。これは、ゲームとしては致命的ではないでしょうか。これでは、数多(あまた)の作品群の中に埋もれてしまいます。

PURESISブランドとしては、これが今後の重大な改善項目だと思います。監督が、私の作りたいのはこれだっていうのを、周りに押し付けてでも従わせないと、個性的な作品などできないと思いますから。つまり、ブランドとしての「顔」を作るってことですね。


2020/7/4
○その他、気になったことあれこれ
時系列で挙げていきます。

★オープニングムービー前
・起動直後の画面
起動直後の画面は、何も動きがない静止画なので、金かけてないな~とか思ってしまいましたが、画面をマウスでクリックしたら、複数の☆マークが瞬いて消えていきました。これが細かい気配りの成果なのでしょうかね。この演出が何を意味するのか、まぁ、何も意味しないとは思いますが、ちょっと興味を持ちましたね。

・研究室
冒頭の研究室か実験室の壁側に据えつけられている、腕と足のロボット、いつの時代のだよって感じです。見た目、人間そのままのアンドロイド、マキナが存在しているのにも拘らず。変だろ、この背景画。30年前のロボット研究室って感じに見えてしまいます。どうも、背景画の担当者は、発想力が貧困みたい。残念です。

・主人公の自宅
マキナを連れて自宅へ行くのですが、主人公の自宅のリビング、現在の日本の住宅と同じなんですけど。やっぱり変でしょう。もう少し未来的な部屋とインテリアじゃないと。アンドロイドが開発された社会とのギャップが有り過ぎでしょうに。

・AIとは
ト書き:AIは、あくまで『あらかじめ与えられたデータ』をもとに動くものだ。
ト書き:ゼロの状態から何かを推測したり生み出すことは、不可能に近い。
 ⇒そうなのか。AIだから勝手に判断して自立的に向上していくのだと思っていました。

・赤い自動車
マキナ「車――研究所からこの自宅まで私を乗せてきてくれた、
    赤い自動車ですね」
ヒロ「そう。ああいうスポーツカーが好きなんだけど……
   日本の公道だと、あれはちょっと目立つかもしれないね」
 ⇒主人公は、赤いスポーツカーを持っているらしい。赤いスポーツカーって、フェラーリだよね。後から振り返ると、この時点でターニングポイントの伏線を張ってたんだなって。

・ウェルシュ・コーギー
マキナ「マスター、こちらは何でしょうか」
ヒロ「ああ、それはウェルシュ・コーギーだよ。足が短い犬種なんだ」
 ⇒ちょっと前に他のエロゲーでも、コーギーについて書いてあったような。その時調べたところでは、確か、コーギーには二種類あった筈(カーディガンとペンブローク)。こんなことエロゲーで学習なんかして、どうなんだろう、私。

★オープニングムービー後
・ミューズ
ヒロ「よく世間で“ミューズ”と呼ばれる存在とか、
   そんな感じなだけですよ」
 ⇒無知で、ミューズが何か分からなかったので、調べました。というより、よくよく考えると、以前も他のエロゲーで書いてあって調べたような。ここでは「ギリシア神話の女神の意味が転じて、特に美貌や行いに秀でて芸術家やその他の人(ファッションデザイナー、写真家等)に影響を与えたモデルや女優のこと」を意味するようです。

・自宅での映画鑑賞
オープニングムービー前の映画鑑賞シーンとの対比で、その違いを考えると面白いです。

・夢は叶う
プロト「強イ夢ハ、絶対叶エラレル!
    ヒロモソウ言ッテ、マキナノコト作ッテタ!!」
 ⇒強い夢は叶うってか。これって、強く想ったから叶うんではなくて、そのくらいの想いでいれば、それに向けて行動するから叶うんだよね。宝くじが当たることを強く想っても、宝くじを買わなきゃ、絶対に当たらないわけで。

・OASIS
マキナ「あなたが創造した世界――
    『OASIS』の中は、一体どんな景色なのでしょう」
 ⇒さり気なく、ブランド名の由来を込めていたりして、憎いねェ。

・通信機
カレン「この通信機はね。人間と違って涙が流せない――
    そんな君の支えになればと思って、このデザインにしたんだ」
 ⇒最後のこのあたりの内容が、実は神がかっていて、よく理解できませんでした。私には難解すぎますね。もっと、平易な設定にしてくれないと、感情移入できません。


○おわりに
正直な話、SF好きの私にとっては、話の出来の面は置いといて、冒頭からマキナに興味津々でした。つまり、どうやってマキナとセックスに到るのか? それ以前に、そもそもセックス可能なのか? アソコの構造はどうなっているのか? 体重は? という下世話な思いで一杯でした(笑)。18禁だもの、このゲームの最終目的はそれしかないでしょう。

しかし、実際にプレイしてみると、シナリオ、AIの話を噛み砕いて丁寧に解説しているのには、好感が持てました。これが中二病を煩った作品だったのなら、何を言っているのかサッパリな文章になってしまったでしょうから。

秋野すばるさんによると、「シナリオは、創作チーム SpinnenS としての相方・さえさんと二人で制作しました。 複数人で書くときは場面ごとに作業を分担するのが一般的かと思いますが、私たちは1つ1つのシーンを一緒に執筆し合う手法をとっています。 だからこそ全ての文章を丁寧に書き上げることができました」とのことでした。ただ、丁寧すぎてメリハリがなく、飽きちゃうってのはあるかと思います(特に前半)。

「ゲームの演出も頑張りましたので、表情や仕草などの細かい部分にもご注目ください!」との秋野さんのコメントもありましたが、映画鑑賞シーンでの主人公とヒロインの目の微妙な動き(お互いに相手をちらっと見る)が、それを端的に表していたと思いました。

また、さえさんからは、「本作は作品全体で調和することを重視していたので、それぞれの制作に他の要素を活かせたと思います。ネーミングや色など、それぞれの部分に意味を込めてあるので、そういった点に注目すると、より楽しんでいただけるのではないでしょうか」とのことで、マキナの瞳の色のギミックなんかが、それに該当するわけですね。

マキナ役声優の北見六花さんが、「女性がプレイしても楽しんでいただけるのではないか」とコメントしているのも、分かる気がします。色々とタッチが繊細なんですよね。ただ、これが男性に受けるかというと、どうなんだろうなって気がします。本作は飽くまでエロゲーなのです。18禁なんです。この本質を忘れてはいけないと思うのですけどね。

さて、このように、いろいろ配慮して丁寧に制作されたのは分かるのですが、残念だったのは、この内容とストーリー上での仕掛けを廉価版で実現するには、やはりボリューム面で無理があったと言わざるを得なかったことです。廉価版なのに、けっこうストーリー、分量的にも頑張った方だとは思いますが、フルプライス(少なくともミドルプライス)作品だったのなら、もっと作品に広がりを持たせられたと思うのです。

更に、上記でもいろいろ書きましたが、アンドロイドであるヒロインが、ぜんぜんアンドロイドに思えないのが、大問題でした。これはシナリオ、キャラクターデザインの両面で、それを後押ししてしまったのが、とても残念に思った次第です。

私の最終結論としては、内容的に、アンデルセン童話である『みにくいアヒルの子』または『シンデレラ』的なサクセスストーリー面をもっと強化するべきだったかなと思いました。仮想世界である「OASIS」を用意したまでは良かったと思いますが、最後の方は駆け足的で、良く分からなかったと思うのです。プロトに「強イ夢ハ、絶対叶エラレル!」と言わしめるくらいなら、夢を実現するための行動面を、もう少しドラマチックに演出するべきだったかなと思います。そこが改善点かなって思いました。

基本、淡々としすぎなんですよね。ジャンルは「心を繋ぎ合う純愛ノベルゲーム 」だそうですが、「純愛」とは淡々としたものなのでしょうかね。そもそも、「純愛」とは多分にプラトニックなものだと思うので、18禁とは相容れないものなのではとも思ったり。そうすると、肉欲的なセックスシーンがあること自体がおかしいのではないかとも思ったり。これってつまり、「コンセプト、間違ったんじゃね?」って思ったりなんかして。あっ、究極の最終結論を言ってしまった(笑)。


以上、shiratoriさんの『QUALIA ~約束の軌跡~』の感想でした。