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sayuraさんの黄昏のシンセミアの長文感想

ユーザー
sayura
ゲーム
黄昏のシンセミア
ブランド
あっぷりけ
得点
96
参照数
3330

一言コメント

【全√クリア】流石、あっぷりけ。練り込まれた世界観は前作を越えたと思います。ただ前作の”泣き”要素は無いためにそう言った期待はしてはダメでしょう。ああ、やはり黒髪ヒロインはエロゲー界の至宝ですね

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

評点変更92→96

”コンチェルノート”という名作で惚れ込んだ「あっぷりけ」というブランド。

始めてこのブランド名を見たときは「あっぷりけ?期待出来なさそうなブランド名だなあ」と
思った物ですが”コンチェルノート”をクリアしてからその考えが一新されました。

そんな自分のお気に入りブランドである「あっぷりけ」の新作”黄昏のシンセミア”。

発表された時からもう期待度マックスでした。
※黒髪妹もツボでしたしね。

発売前の期待度と言う面では本年度の現時点でリリースされた作品の中では一番楽しみにしていた
作品と言えるかもしれません。

ただ、「あっぷりけ」というブランドはあかべえの姉妹ブランドという側面もあります。

ここ最近のあかべえ系列の作品は正直、商業優先主義ばかりが目立ち、面白い作品を提供して
ファンを楽しませようという意志を感じなくなってきていたのでこの”黄昏のシンセミア”も
そんな媚びた作品になってしまうのかなあ、、、と期待度が高い分だけ心配度も高く実際に
プレイをするまでは、かなり気をもんだものです。

しかし、実際にプレイをしクリアした今、そんな不安は杞憂だったことが分かりました。

エンディングを見る事が出来るヒロインは非常に多く、皐月以外はきちんとしたエンディングが
用意されています。

しかし、サブヒロイン(美里・朱音・沙智子)のエンディングは非常にあっさりしていてエンディング
そのものはおまけと言える作りになっていますのでサブを目当てに購入される方は要注意です。

各ルート毎に謎の回答が少しずつ用意されており、天女伝説の真実が少しずつ明らかになっていく
構成の為、全クリアしないことには意味を成さない物語だと思います。

かなりボリュームがありますので、時間をじっくりとかけれるタイミングで一気にクリアする方が
良い作品と言えるでしょう。

また、コンチェルノートと違い、特定のキーアイテムが無いとフローチャートの先に進めないという
トリックは無いため、純粋に物語に没頭出来るのも良かったと思います。

純粋に天女物語という伝奇的な物語の真実を追いかける話のため、コンチェルノートのような
泣き要素はありません。

前作をクリアしたかたはそういった部分に期待している方もいるかと思います、そういった方はご注意を。
※私は結構期待してましたので、少し残念です。


そしてここから少し気になった点です。

本作全般的に感じましたが、つきあい始めや結末などで場面の転換時で説明不足を感じました。

例えば普通、付き合うには”告白→葛藤(動機)→受諾”という流れになると思うのですが葛藤部分が
描写が非常に少なく唐突に付き合いがはじまるよう感じます。

また、サブヒロインで特に顕著に現れますがエンディングを本当に唐突に迎えます。
「俺たちの未来はこれからだ、さあいくぞ!」で終わっちゃう。

こういった傾向が全体的に見られ、若干消化不良気味に感じ、フラストレーションが溜まりました。

全体的に丁寧な作りですので、この部分が余計に目立ち残念ではあります。

以下、個別ルートの感想(ネタばれ有ります、ご注意を)

なお、クリア順は

美里→翔子→沙智子→朱音→いろは→銀子→さくや→シンセミア





■美里√

伏線の回収は孝介の失った記憶部分について少し語られるだけです。

そして、すごく唐突に付き合い始めます。
正直言ってびっくりしました。

天女伝説と全く関係無い展開で進んでいき、エンディングでも特に謎については
語られません。

美里というキャラへのサービスシナリオと言ったところでしょうか。



■翔子√

結末が2種類用意されている翔子。どちらの結末もある意味ではバッドエンドと言えるかもしれない。

かなり、真相に対して重要な謎を抱えている翔子ルート。
個人的にはそれ程好きなヒロインでは無いので最初の掴みと思ってさらっと始めたため、赤い石の謎が
他の√で語られ、真相が分かってくるたびに、もっと真剣に読み進めれば良かったと後悔しました。

また”体を食べられれる”という夢の意味、「みんな死ねばいいのに」の意味も後に分かりはするのですが
意外な事実にひたすら驚くばかりでした。

クリア後、他のシナリオを見た後に納得する、そんなシナリオだと思います。



■沙智子√

意外な形で発見された母親からのメッセージ。

沙智子のような暴走娘は正直好きでは無いのですが、母親からのメッセージはすごく好きな展開でした。
正直言って沙智子√で描かずにさくや√でやって欲しかった気がします。

短いシナリオですが母親の想いを知ることが出来た貴重なシナリオです。
親が子を想う表現ってベタではありますが、ジーンと来る物がありますよね。

手紙を見つけ、さくやに渡したときに孝介の素っ気ない態度もなにげに複雑な兄妹の心境を表しており
個人的にはかなり好きなシーンです。

ちなみにこのシナリオも本当にいきなり付き合い始めます。

年齢の問題とかもう少し葛藤あってもいいんじゃない?
本当に孝介が好きなのかどうかも怪しい感じで、その点は不満足なシナリオと言えます。

個人的にはああいう性格の子は遠慮したい所です。



■朱音√

美里√も本筋からはずれた展開でしたが、朱音√はそれに輪を掛けて本筋関係ありません。

尺の長い普通のB級恋愛ドラマのような感じ。
特に感想を書くべき点は無し。



■いろは√

春先に現れたというバケモノの正体が明らかになる、いろはシナリオ。
また、同時に彼女の頑張りの原動力、両親への想いが明かされます。

天女伝説の大筋とは少しだけ、はずれた展開ではありましたが、個人的にはかなり好きなシナリオでした。
悲しい展開だとは思いますけど・・・。

クライマックス部分の山中でのやり取り。
孝介の語った言葉を彼らはどんな風に感じ、受け取ったのでしょう。

そして、最後の山童の慟哭。
あの慟哭にはどんな想いが詰まっていたのでしょうか。
いろはの気持ちを知り、そのうえで自らの終焉を望んだ彼らの心境はどんな物だったのでしょう。

また、孝介の取った行動・決意は心底すごいと思いました。自分が同じ立場だったとしたらきっと躊躇するでしょう。

エンディングで孝介は手帳の最後に書かれた言葉をいろはに伝えています。
描かれませんでしたがいろはその言葉に何を感じ、何を思ったのでしょう。

出来るならきちんとその部分も描いて欲しかった。

残されたいろはが幸せになれれば良いなあと心底思います。



■銀子√

銀子の正体が判明する結構、重要な√。
しかし、この√でも唐突感が拭えない感じが勿体なく感じます。

銀子の正体自体、驚愕の事実だと思います。普通は・・・。

その筈なのにはっきりと私は○○ですと銀子は語らず、何時の間にか孝介は彼女が○○と認識して
いました。

キモの部分なのでもう少ししっかりと説明の描写ややり取りの風景が欲しい所だっただけに残念でなりません。

個人的には銀子はすごく好きなヒロインでエンディングでは幸せな二人の姿を見れて満足ではあります。

しかし、孝介が逝った後、銀子はどんな想いをもって生きていくのでしょうか。
幸せな想いを抱きつつ、生きていけるのでしょうか。

作中で孝介はそれでも楽しかった思い出は残ると言っていましたが、実際にはどうなんでしょうね。

彼女も幸せになって欲しいヒロインでした。



■さくや√→シンセミア√

さくや可愛いよ、さくや。

いやはや出来た妹です。私の中では「あかね色に染まる坂」の湊に匹敵するほど好きな妹キャラに
なりました。

黒髪というのもポイントが高いですね。

シナリオ的にも近親相姦に対してきちんと表現されており、満足出来る展開。
発覚後の皐月の態度も十分理解出来、スタッフが真剣に実妹に取り組んでいるのが分かります。

シンセミアへの繋がり方も非常に上手く、ラストの展開は多少の強引さはある物の十分に満足出来ました。

個人的にはごんたの扱い方が非常に好きで、湖でごんたが登場したときは「おぉ」と一人感動した物です。

エンディングで出来れば、二人の子供を見たかった気もしますが、そこは我慢という所でしょうか。

なにせ、さくやが可愛くて大満足でした。




■総 括

コンチェルノートというある意味偉大な先駆者(作品)を持っているが故に相当な気合いを入れて
作り込んだんだなあという印象。

好評だったフローチャートもプレビューがみれるようになったりとよりユーザーへの配慮を考慮した
作りは非常に好感が持てます。

また、フラグメントという新しい要素を入れることで、ヒロイン達の心理状況や、物語自体に深みや
説得力を持たせるように試みたりしているのも素晴らしいと思います。

登場ヒロインも非常に多いのですが、サブヒロインにも取りあえずとは言え、きちんとした結末を
用意したり、とにかくユーザーを満足させようと言う意識が見える作品というのは最近では珍しいと
言えると思います。

「伝奇」というテーマは世界観をユーザーにきちんと説明し、納得させるという難しい面を持っていますが
概ね、本作はそれをきちんと果たしている作品と思います。

残念なのは、ちらっと前述しましたが美少女ゲームと呼ばれる作品カテゴリにありながら恋愛に関する描写が
少し希薄に感じ、ヒロインとの恋愛を楽しむという部分に難があった点でしょうか。

また、エッチシーンでも構図が悪くもう少し、力を入れて欲しかった気がします。
※いろはのお風呂Hは良かったですが。

コンチェルノートとはアプローチの仕方が違う作品ではありますが、伝奇好きの方には満足出来る作品では
無いかと思います。お奨め作品です。


※関係無いですが「外から人が来る」と何度も出て来ますが外の人の描写がテキストで軽く紹介されているだけ
なのは残念でした、外から人が来ることのメリット、衝突なども軽くでいいからもう少し表現されていると
より日常が引き立ったような気がします。

※「フラグメント:遠き夏の日」で銀子の着ていた服は私服、本筋ルートでは浴衣。
これってバグですかね?