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sasaburoさんの赫炎のインガノック ~What a beautiful people~の長文感想

ユーザー
sasaburo
ゲーム
赫炎のインガノック ~What a beautiful people~
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
100
参照数
568

一言コメント

プレイ後に口から出た言葉はただ一言。"What a beautiful people!"

長文感想

異形都市インガノック。
灰色に満ちた大空に、幻想生物が跋扈する孤立した都市。

そこに偏在する"inner voice"(心の声)を聴きとることによって、
プレイヤーは何を思い、何を考えるのか。

心よりの想い、そして、願い。
それは何よりも尊いものであると偉大なる碩学にして魔術師の大公爵は言う。

言葉を聞いて、願いを聞いて。
誰の願いが叶い、誰の想いが成就されるのか。

そして、その願いの果てに導かれる都市とその住民達の行く先は・・。


このゲームを一言で言い表すなら、大人向けの童話。
タイトルから連想される熱さのようなものはあまり感じられない。
ライアーらしいおとぎ話チックな世界観に、幻想的な絵、物寂しいBGM。
そして丁寧かつ繊細に描出された各登場人物の心情心理が綾なす物語の妙は、
人によっては取っ付き難い作風ではあるが、ツボにはまった人ならばとことん酔わせてくれる。

タイトルに含まれる、
"What a beautiful people" - 「なんて美しい人々」

ただひたすら手を差し伸べる男。それを見つめ続ける少女。
空を見上げ溜息を吐く猫。ヒトかどうか悩む鋼鉄の娘。
死を与える事を望む巡回殺人者。視界の片隅に映る仮面の道化師。
全てを悟る観人の老爺。穴を掘り続ける狂人。etc...

彼ら彼女らの想いや願いが織り込まれた色取り取りのタペストリー。
それこそが、異形都市インガノック。
すなわち、"What a beautiful people"という感嘆文は、
都市に暮らす人々と共に、都市そのものに対しても感嘆の意を掛ける事のできるフレーズであると言える。

このフレーズのごとく、私にとっての異形都市インガノックとは、
一度魅了されるとやみつきになり、何度も身を浸したくなってしまうような心地よい世界観であり、
そんなインガノックに生きる人々の声を聴きながら、物語を読み解いていた時間はとても楽しい一時でした。