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sakurassさんのそして明日の世界より――の長文感想

ユーザー
sakurass
ゲーム
そして明日の世界より――
ブランド
etude
得点
72
参照数
303

一言コメント

主人公に共感できないと最後まで陳腐な物語に見えてしまう上手いが必ずしも面白いではない作品

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

元々CGに拒否反応があって手を出さなかった作品。
さすがに古いのか激安(ビール2本分)だったので購入。
描写は丁寧でテキストも一見すると冗長に見えるが、通して見ると上手いと思う点は随所にあり、なるほどさすがとは思う。
が、上手いが必ずしも面白いと言うわけではない。

主人公は確かにまっすぐでいい奴なのだが、少なくとも年相応のものではない。
言動はオッサンなのに思考回路はまるっきり10歳前後のガキだ。
常に女とばかりいてこの年で女を全く意識せず野山を駆けずり回り、同じ年の幼馴染みの世話をし、全く変に思わないというのは無理がある。
男の友達が欲しいと言いつつ、学校の男子(テキストでは存在)とは絶対に絡むことはないのは何故だろうか。
ほんとの田舎の子供なんてこんなもんだよ、って言われたらそうですかと言うしかないのだが。

そして、視野が狭くやたら簡単にネガティブ思考に沈む所をみると、今まで何も考えずよほど幸せな環境を与えられた物だと思われる。まあ弱さを描くには必要なのだろう。
いい奴なのだが相手の気持ちを察するに至らず常に鈍感と言うよりも普通の人間関係を構築するにも不安を残す幼い思考は少なくとも共感するには至らない。
男はぬけてるくらいがいいともいうが、このコミュ障レベルの察しの悪さ(あえてエロゲ的鈍感とは違う言葉を使う)で何故ここまでヒロイン達がベタ惚れ状態なのかは疑問。
御波ルートの序盤だけは何故かエスパーレベルの能力で相手を察するのも御都合主義すぎ。

ヒロイン達は主人公に比べれば遙かに大人びたところを持ちながら病んでいる。一人は文字通りの意味だが。
青葉に至っては小学生でその思考に至るほどの精神年齢であったこと、そしてそこまで何故主人公スキスキ状態だったのかが理解できない。
一人だけシナリオを通して一貫した考えを持っている御波だけがまともな人に見えた。


まあこういうキャラなのだと妥協して進めてみた。
個別は平々凡々と生きてきた打たれ弱い主人公が毎度沈んではヒロインに助けられるワンパターンでノーマルへの布石でしかない。
ノーマル→アフターこそシナリオの中心なのだろうが、全体として薄っぺらく「はいここ感動するところですよー」と言われているようで冷め気味に読み終えてしまった。
この作品は特に(主人公の性格も含めて)綺麗事を並べているので魅せようとしすぎて逆に失敗していると思う。
そしてほとんどの問題は解決することなく、「それでも俺たちは希望を持って生きて死んでいく」だけ。
ああ、このお話は何をどう解決するかがテーマではなかった事にようやく気づいた。

描写に関しては絶賛に値する出来で主人公の悩み、葛藤に始まり、住民からの悪意、そして希望へ向かう主人公達の意識ととても素晴らしいものがあり、主人公に共感出来ればとてつもなく感動できる作品であろう。
逆に「コイツ何言ってんだ?」と思ってしまうと最後まで物語のハリボテ感が拭えず低評価にならざるを得ない。

一言でまとめるならば、かにしのにあるのは「綺麗さ」、あすせかにあるのは「綺麗事」。