一貫したテーマを軸に上手く話を連動させた傑作
今回の一番のテーマは「(抜きゲーとしての体裁を整えながら)セックスの意味を哲学的に考えること」だろうが、なかなか上手くまとまっていたと思う。
それにしても小西翼の成長は目を見張るほどで、また一段階階段を上った感がある。NIKOブランドになるがスワローテイルも大いに期待出来るだろう。
さて、強調されていた「レイプ出来るのは人間だけ」には、抜きゲーでそこに踏み込んでくるかと膝を打った。
作中で説明されている通り、基本的に動物にはレイプは完全にないとは言わないがほとんど存在しない。もっとも大きな理由はメスがオスを選ぶルールになっている動物が多いからだが、実はヒトも同じで、オスがメスの同意なく交尾を迫るようになったのはおそらくここ数千年、文明が生まれて以降のことだろうと思われる。その意味では須藤はそこを誤っており、佐彩と諒はある種の正解に辿り着いているのが興味深い。
本作でのセックスの位置づけはそれぞれ明確で分かりやすくなっているのも面白い。中でも、「俺だって背中を向けて腰を振る国見の痴態をオカズにマンコを使ってオナニーしてるようなもので」という台詞がその一端を象徴しているだろう。
この作品の一番のテーマは先に述べた通りだが、それに絡めた裏のそれもある。
セックスは一部の動物を除いて多くの動物が子孫を残す為だけに行うことだが、そのこと自体はその一部の動物の一角を占めるヒトにも当然当てはまる。セックスすれば子どもが生まれる以上、実質的にヤリ捨てられた際に生まれた子どもはどうなるのだろうか?本人にとって先天的なものと後天的なものとの差異は?というもので、これらは奈々を除いた3人には多かれ少なかれ関わってくるのが面白い。
これは諒の「素質」にも関わってきて、彼は須藤と同じような人間になる素質を持っており…というか、本編開始前の1年間はその方向へまっすぐ突き進んでいた。にも関わらず、どのルートでも良かれ悪しかれそこから抜け出すことが出来たのは彼を取り巻く人々…特に3人のヒロイン達のおかげなのだろう。中でも奈々の献身は抜きんでており、同時に彼女がどうあっても彼との間では報われないのも寂しさを覚える一方でそれしかないのだろうなと思わされる。それ以外のルートで彼女がそこから離れられたのはある種の幸運以外の何ものでもない。
一貫して暗くなりがちな展開の中で一際異彩を放っているのが朱美の存在である。彼女だけが別作品の登場人物であるかのように純朴でとても愛らしい。彼女のルートは勿論のこと、佐彩ルートなどでもスレていない存在がどれほど救いを与えたことか。彼女のルートでは物語の真相からは大きく離れてしまうのだが、それはそれで良いことなのかも知れないと感じさせられる。あの素質を封印させ、陽の当たる世界へと引っ張り出せる圧倒的な真人間力とでも言うべき彼女の魅力は底知れないのだ。
本作のメインヒロインである佐彩のルートは真相とある種の決着がつけられるのだが、須藤の股間に突き立てられたナイフは今作のテーマをある意味で象徴しており、その事件性も相まって極めて印象深いシーンである。司法すら嘲笑う彼にはある種相応しい末路であろうこともあったが…。
それ以外でも若くして様々な精神的なしがらみに囚われた彼ら・彼女らが(抜きゲーだけあってセックスを通じてだが)距離を詰めていく様はメインルートだけあってとても丁寧に描かれているのが良い。やはりどれだけスレていてもあの子たちは10代の子どもなのだと訴えかけてくる。
故人なので当然なのだが回想でしか登場しない千歳のハングリーさは良くも悪くも好ましい。一連のしがらみさえなければ佐彩とも上手くやっていけたであろうことを思うと、その気丈さ故に命を落とすことになった彼女がとても傷ましく思えてしまう。奈々に向けたあの冷たい台詞は彼女のその部分をよく表していて好み。
また、性風俗による搾取…性奴隷問題に僅かなりとも踏み込んでくれたことは積極的に評価したい。どこまで取材した、出来たのか、そこまで行かずとも資料を一定以上参考にした、出来たのかは分からないが、少ないシーンながらもよく描けていたと思う。梨花の境遇には怒りしか湧かない諸兄も少なくはないだろう。これを機に、実際のそれに関する問題にも意識を向けてくれればと願うばかりである。
今回の舞台はご存じ仙台。仙台市は平成の大合併によって非情に(※誤字に非ず)大きな行政区となっており、西側は県境にまで達する。朱美の実家もほぼ間違いなく仙台市内なのである。また、県北から1時間半かけて通学しているという慎二は登米市あたりか。あの辺りは電車の本数も少ないので彼も相当苦労しているのだろう…。
冒頭直後と佐彩ルートのED前のラストシーンで重要なギミックとなっている仙台七夕祭りの吹き流しだが、これは織姫の織り糸を表しているそうで、このシーンの前後で彼女の口から放たれるあの台詞とも深く繋がっているのは本作のテーマのみならず地元愛にも溢れている。全く以て傑作という他ない。
補足
恒例の姓と地名を入れるのを忘れていた。
登場人物は仙台市青葉区の地名・駅名より。その中で故人である千歳(彼女の名はフルネームが直接駅名になっている)のみ山形県だが、同時に他の主要人物の姓とは仙山線で繋がってもいる。遠く離れながらも縁がある(残っている)というのはなかなか興味深い。