ただ長いだけじゃなくて濃厚。プレイするのもスタミナ勝負か。(ネタバレ・考察有り)
普段は特にここにコメントなんて書かないけど特別に。
シナリオがとにかく長いせいで、評価が出づらい状況なんでしょう。
ちなみに点数で分かる通り、自分は本作に肯定派なレビューになります。
というより、Lapis lazuliの過去作を知っている身としては、
よくぞここまで立て直したと褒めてやりたい。
少なくとも誰かに勧められる作品に仕上げてくれたのは、1ファンとしては嬉しい限り。
シナリオ重視と言うだけあって、話はある程度しっかりしてます。
ここで40点以下を付けるような人は、恐らくこのゲームにキャラ萌えとかエロを求めていたはず。
これはシナリオゲーです。ある意味「読み物」として捉えた方がいいです。
ついでにエロもあります。エロはサービスみたいなもんです。
以下部分的にコメントを。
(※後半にいくにつれて、ネタバレ強めです)
●体験版部分&共通ルート
まず、すっげー長いです。これだけで800KBくらいあるらしい。(公式ツイッターより)
厚めのラノベ2冊分くらいか。
主人公が五条町にやって来て、初めの1ヶ月の様子が描かれています。
共通と言うだけあってしっかり作られていて、読み物としても面白い。
多少ワンパターンな展開になりがちだが、テキストが悪くないので苦痛に感じることはないかな。
シリアスな展開も結構入ってくるんですが、それだけじゃなく適度にギャグが入っていて場を和ませてくれます。
特にゆりこと涼太はギャグ要員。いいスパイスになってる。
共通でも伏線っぽいが多いです。伏線……なのかね。
■時雨ルート
始めに攻略が出来るのが時雨と小菜だから、時雨を先にやる人も多いんじゃないかな。
全体を通してみると、一番普通のストーリーだと感じる。
自分も一瞬「時雨がデレない」と思っていたが、よく考えるとツンデレじゃない。
あくまで時雨はお姉ちゃん子の人見知りキャラなんですよね。
テキストとしても「人見知りキャラが、徐々にみんなと打ち解けていく」ことを集中して書かれている。
徐々に笑えるようになっていく過程、主人公に対して頼っていく過程は、よく描写されていると思った。
殺人事件に関係する辺りは正直肩すかし。
多分これってサスペンスものにしたくないから回避した、って扱いだろう。
この辺り、サスペンスやり過ぎちゃって失敗するよりはいいかなーと思った。
犯人を推理してどうこうってよりは、それに対して時雨がどう悶々としているのに焦点が合っている。
後半の時雨のナチュラルさは必見。
多少ツンツンしてるところは残ってるが、良くも悪くもそれが時雨の性格で、口は悪いけどいつも主人公のこと考えて可愛い。
前半のツンツンが過激だったこともあって、後半少しでも照れてると、その反動はでかい。
恋愛に対しても不器用なところがあって、不器用ながらも主人公にぶつかっていくところは、いい子なんだなと思う。
主人公と一緒になる覚悟をしてからは、時雨も落ち着いていて、結構リアルに描写されている。
エンディングも……感動とまではいかないが、いい話だなあと思った。
あといつも時雨のことを思っている小菜もたくさん見られるので、小菜目的の人も楽しめたんじゃないかな?
■小菜ルート
なにがどうなるのか、一番気になっていたルート。
中盤に物語りの転機となる、このみエピソードが入っています。
このみちゃんが可愛すぎてつらかった。
エピソードとしても、うるっと来るものです。
葛藤がありつつも、最後はきちんと自分と向き合って、この夜に別れを告げる様子は、強い子だと感心します。
別れ際の母親の言葉とか、ここは本当にボイス入ってて欲しかった。
小菜もこのみと出会ったことによって、成仏した方がいいのか悩んだりして、やってる方も悶々とさせられた。
告白シーンは変化球で、主人公が時雨の告白を断ったときに、小菜の方が好きだと言ってしまい大問題に。
でもこの直前に、多分小菜も好きだと言いたかったんだろうシーンがあって、相思相愛。
でも相思相愛だと言っても触れられないし、恋人っぽいことが出来ないことに2人は悩む。
好きであるが故の悩みというのか、このじれったさは半端ない。
そして悪霊退治で小菜はうっかりミスでダメージを負う。
大好きな人に心配ばかりさせて、何の約にもたてず、恋人っぽいことも出来なくて、
小菜はそんな状況を打開すべく、成仏することを望む。
でもそれに反対する主人公は、乙女に呪いを掛けるように言う。
命を削ってでも、好きな人に近づきたいという気持ちで。
※出来れば、見える範囲で解決して欲しかったけど……まあ無理だよな。
少々突発感はあったけど、九条うんぬんのバックボーンがあるからギリギリ許せるレベルかなあ。
しかし、その呪いでも1晩過ごしたら効力が薄れる。
最終的には、小菜の霊体を物体に付けることで、出来る限り長く一緒にいることを選ぶ。
もちろんお互いに触れられないし、薫は呪いのせいで早く死ぬかも知れない。
言ってしまえば、一概にハッピーとは言えないエンド。
しかし、主人公と小菜にとっては、やっと見つけた幸せなのかも知れない。
小菜ルートはクリア後、10分くらいぼおっと「これでよかったのか?」と考えてしまった。
■乙女ルート
結構長い過去編があります。
九条家の成り立ちと、五条との関係が明らかになる、重要なエピソード。
大分はしょって中盤から。
悪霊退治の時に、悪霊が主人公や乙女を狙うことに疑問を感じ、五条についての調査を始める。
この辺りヒロイン全員での行動が多いので、ワイワイしてて楽しい。
十五夜でお月見、そしてその翌日の十六夜を主人公と乙女で見上げながら、乙女は主人公に告白をする。
しかし釈然としない主人公。悩みながらも自分の気持ちを乙女に告げているところで、乙女消失。
過去編へ飛ばされる。
九条慎之助と結女、それに山で出会ったかぐやと3人で暮らしている。
九条の始祖と、不思議な少女かぐやにまつわるお話で、壊滅的にかぐやが可愛い。
日々を過ごしていてもかぐやの身の回りでは不思議なことが起こる。
鳥と会話をしたり、雨を振らせたり、傷を癒したり。
しかし侍の連れてきた男を治療したことで、侍に目をつけられ、村を統治する五条に捕縛される。
五条介の判断で牢に放り込まれそうになったかぐやを救おうと結女が立ち向かったところ、
侍に結女が切られてしまい、命を落とす。それを見てかぐやが覚醒する。
たまに台詞なしの音声だけの場面がある。
伏せられていたかぐやの台詞とその前後は、
「奇跡はいらない、永遠もいらない、ただ本来の時を戻そう……」
「アナスタシスへの扉を開こう。我に咎を与え給え、彼らを生かし給え」だった。
アナスタシス(anastasis):起き上がること、死者の中からの復活、死または地下世界に対する勝利
と言う意味だった。
かぐや覚醒で天使状態になって慎之助と結女を助けるが、雷がかぐやを狙い打ち。
これは恐らく神・天界からの罰だと思われる。死者を復活させることによって天の怒りを買った。
結女が「神鳴り」と言ってるのも、これを指しているんでしょう。
「ただ本来の時を戻そう」というのも、
神の使いである自分が2人の前に現れたことによって、今の状況に陥ってしまった。
それを元に戻すってことなんだと思う。(見当違いだったらスミマセン)
過去編最後に結女が言う台詞「恐らく慎之助様が思う以上に、お慕いしておりますよ」は、
そのまんま乙女の台詞なんだと思う。
九条が近親者で許婚を決めていた理由も、かぐやから継いだ力を薄めないように、ということらしい。
過去編から戻って消えた乙女を探すと、乙女は城址で悪霊を一掃していた。
乙女は、九条始祖の行いによって生まれた悪霊たちを、自分の手で終わらせようということらしい。
しかしその力を使うには、ルシアが言うところの「神の光、神の権威」を使わなくてはならず、
やり遂げるには肉体を放棄しないといけない。
薫がギリギリで助けだし、一件落着。
後でかぐやが主人公の前に現れ、
「この事象は相殺されました」「そして私もようやく、星と月しか見えぬ暗闇の谷から解放される」
これは仮説が色々立てられそうだけど、具体的には分からなかった。
ただ、かぐやは7世紀前からどこかに罰として閉じ込められていたが、乙女の活躍で解決したということだろう。
以下、問題解決で乙女の気持ちに答えることになる主人公。この辺りは割愛。
ただ、乙女が消えそうになっているクライマックスでのSEが、ちょっとふざけすぎでしょう。
SFチックな音を並べる場面ではないかと……失笑。
■ルシアルート
前半ははしょります。
悪霊退治で一件落着したかと思った矢先、ノエル登場。
ルシアも幼い頃の出来事なので、ほとんど記憶に残っていない。
ノエルは生まれながら悪魔を宿している。そしてまだ幼い内に悪魔に身体を乗っ取られ、父を殺して家を飛び出す。
ゆり子は、ノエルは死んだと思いつつも、いずれ帰ってくるとも考えていた。
突飛な展開だけど、ATSでみんなに襲いかかる悪魔の足音が分かって重要。絶対読むべき。
ノエルの襲撃でゆり子は瀕死の重傷を負う。そしてルシアは戦う覚悟を決め、ゆり子の杖を手にする。
羊飼いの杖。これは多分、キリスト教でいうところの司教杖だろう。
ちなみに良い羊飼いのことを「グッドシェパード」と言う。ネタが分かると面白い。
ルシアが真理を願い、力を授けて欲しいと祈ると、神の使いが現れ、奇跡を一時的に貸して貰える。
『ルシアさんマジ天使……!』状態に。
ルシアが力を借りた後も、ノエルに翻弄され続け、ゆり子の命まで奪われた、か……と思われた。
ゆり子が危篤でも、ノエルと戦うために病院には駆け付けないルシア。
そして最終対決。
ノエルが何故幼くして悪魔に身体を乗っ取られたかというと、ゆり子の内にあった悪魔がノエルに胚の頃から憑いていたと発覚。
聖句のオンパレード。詳しくないけど、実際にある聖句なんでしょうか。
戦闘シーンもスクリプトもう1歩というところだけど、まあまあ。
スクリプトが上手いブランドだったら、もっと迫力あったんじゃないかと。惜しいなあと思う。
ヴァーベアドインフェルヌム、ラテン語で「地獄に落ちろ」とか、テキストが凝ってて好き。
中二設定、展開が全開なので、もしそういうのが好きなら絶対最後までやるべきですね。
ノエルとの対決が終わった後のルシアとの恋愛は、丁寧に描かれていて好感触。
正直このルシアとどう恋愛に持って行くのか、痛々しいのだったら残念だと思っていたが、
ギャップ萌えというか、とにかく破壊力抜群でかなりやばかったです。
オドオドしつつ、照れながらも、初めての恋愛を経験するルシアは必見。
ルシアルートに関しては、気になる部分を掘り下げていくと、あと1000文字以上必要なので書けません。
1つ言えることは、単純に書いたものじゃなくて、ラテン語しかり、悪魔しかり、きちんと調べて書いているんだという感想。
以上が、各ルートの感想でした。
■総評
キャラは可愛い、CGのクオリティも高い。音楽もいい。シナリオも十分手が込んでいる。
しかし、点数を引かせて貰ったのは、シナリオの核がいまいち定まっていなかったこと。
主人公の未来視、乙女の輪ゴム、これらが大して生かされずに終わっていたことが大きいです。
捨て設定になりかけていたことが、非常に残念。
それに主人公の過去、弓乃関係のところも説明不足感があった。
そこを説明してくれないと、主人公が放ろうしていた動機もいまいちパッとしない。
(ルシアルート終盤の乙女ATSは重要かな)
でもまあルシアルートは「ルシアのお話」に集中しているので、やっている最中はあんまり気にならなかった。
これで-5点。
そして全体的にスクリプトが甘い。
特にBGMの使い方がかなり下手で、鳴らして止めて、また鳴らす、の繰り返しはウンザリした。
スクリプト打った後に確認してるのか?と思うほど。
普通の日常シーンで、悲しいBGMが入ってきたのもあるが、それは明らかにスクリプトミスかと。
演出関係では、深刻なSE不足。
戦闘シーンなら特に、SEと演出が重要だと思うけど、かなり不完全燃焼。
戦闘の演出が出来ないのに、頑張ってやってみたって感じがすごいしてる。
これで-5点。
ただ、ふと振り返って、ここまでアレコレ考えてしまうタイトルって、最近なかったと思ったり。
シナリオの長さもあるけど、それだけ影響があったんだと思います。
実際、夢中になってクリックしてたシーンも多々あります。
シナリオ含め、非常に丁寧に作られているタイトルなのは間違いないですし、
3年掛けたってのも、ただの宣伝文句じゃないと思いました。
初めは時雨可愛いとか、乙女可愛いとか思っていたが、ルシアルートクリア後には、ルシアが最高に可愛く思えて仕方がない。
そんな感じでした。
感想すらも長くなってしまいました。誤字脱字があっても許してください。
■追記(12/7)
ルシアルート後半は、長丁場で疲弊していたのでよく把握出来ていなかった。
特にゆり子に関する辺りを、もう一度読んでみたので。
ノエルがゆり子に対して言った「根源」
悪魔アスタロスは元々ゆり子に付いていた。だがゆり子自身と、旦那の手によって悪魔祓いによって活動を停滞。
悪魔が次の標的に定めたのが産まれてくる長女ノエルだった。
なので悪魔は、ノエルを使い、邪魔立てされたゆり子と旦那に復讐をするつもりだった。
ノエルが成長し、言葉や知識を身につけ始めると、悪魔の言葉に誑かされるようになり、父を殺してしまう。
んで、次はゆり子なので、ゆり子が自分を殺しにノエルが来ると考えていた。
ノエルが父を殺したときに言っていた言葉
レスレクティオ(resurrectio):再生・復活・キリストの復活
これはラテン語で、英語リザレクション(resurrection)の語源らしい。
ラテン語はネットに情報が少ないので調べるのはしんどかった…
ICUにいるゆり子に、ノエルが「終わり」を告げるシーンですが、
ノエルの声が、悪魔ではない普通の声だったので、幻影(もしくは霊)だと思います。
ゆり子はその言葉を聞いて涙を流しますが、それは「自分の仕事(罪)を2人の娘に押し付けてしまった」ことと、「ノエルに対して母としての感謝」かなと。
他にもあるかも知れませんが、テキストから読み取れるのはそんな辺りだと思います。
ゆり子が自分で「贖罪」だと言っていたことも、こういう意味だと思います。
同じくノエル戦において乙女の術(?)『トホカミエミタメ』について
原始神道の秘言『先天の三種の大祓(せんてんのみくさのおおはらへ)』に出てくる祝詞。
と同時に、
三種の神器の祝詞(みくさのじんきののりと)
トホ⇒神剣
カミ⇒八咫鏡(やたのかがみ)
エミタメ⇒神璽(じんじ)
と同時に、
『遠津御祖大神 笑み給へ(とおつみおやのおおかみ えみたまへ)』という意味を持つ神言
と、他にも様々な意味が重複しているものを、8文字に凝縮した祝詞(言葉)らしい。
参照:http://ameblo.jp/kikipriri/entry-10350424246.html
ノエルの台詞について
「穢れたカインの末裔が――アベルの嘆きを聞け。我々は虐げられるものの味方だ」
カインとアベルは、アダムとイブの息子たち。
カインは農耕を、アベルは羊の放牧をして生活していた。
ある日神に、カインは収穫物を、アベルは越えた羊の子を捧げたが、神はアベルの供物に目を留め、カインを無視した。
嫉妬に狂ったカインは、アベルを殺してしまう。
神がアベルの行方を問うた時、カインは「知りません。私は弟の監視者なのですか?」と答え、それが人間が付いた最初の嘘だった。
聖書では、人間はこのカインの子孫とされている。
※旧約聖書『創世記』第四章
また『エノク書』第22章では、冥界でアベルの霊はその時代になっても、なお天に向かってカインを訴え続けており、
カインの子孫が地上から途絶える日まで叫び続けるという。
穢れたカインの末裔と見下しているが、ノエルの悪魔が堕天使だという設定が使われているのだろう。
「アベルの嘆きを聞け」というのも、エノク書の記述を意識しているんだと思う。
虐げられる者の味方=つまり子孫を途絶えさせることに賛同?
ノエル戦、ルシアの覚醒時の言葉
「アペリオアーラエ」
この単語自体では何も分からなかったので、バラして調べました。
ラテン語の「aperio」英語で4月を意味するAprilの語源。「開く」という意味もある。
アーラエはラテン語で「翼」を意味する言葉。Area。アーレア、アレアとも。
日本語にすると、「翼よ、開け」でしょうか?
ほとんど検索に引っかからないので、造語だと思います。
正直、結構調べました……流し読みしたら、分からないままだったと思います。
難解語句の嵐です。嫌がらせか、ってくらいひねくれたシナリオだと思います……(奥が深いという意味では素晴らしいけど)
暗喩とか、深読みしないと分からない言い方が多々ありますね。
ここまで読んで未プレイはいないかも知れませんが、考察したくなっちゃうタイプの人にはお勧めです。