眠気と感動の狭間で……
この方の処女作はやっていないとはいえ、前作前々作とその実力を遺憾なく見せつけてくれたるーす氏の新作とあって、この作品には非常に興味があった。だが、それと同時にかなり不安でもあった。はっきりと言わせてもらえれば、自分はこの方のテキストそのものは正直、全く好みではない。むしろ、バックグラウンドの説明に固執して地の文ばかりが長くなり、セリフやキャラクター性といったものに重きを置かないテキスト(ハル以外、前作のキャラとどこが違うの?)は、完全に自分の好みの外にあった。現に今作も、ミステリー性に富みながらも退屈なその内容に、あくびをかみ殺してのマウスクリックとなった。
「あ~あ、これはだめだな」
それを強く感じたのは4章の終わりごろだった。ユキが事件の中心人物で今後どのように物語が進むのか、いつもは鈍感でまったく先を読めない自分にとっては奇跡的に先を読めてしまったことも、あくびを引き起こす材料となってしまっていた。それでも続きを読むことができたのは、やはりるーす氏の演出にある。
自分はミステリー小説が好きで、よく電車や喫茶店で読むことを至福の喜びとしているのだが、どういう訳かこれっぽっちも先を読むことができない。「これだ!」と確信しても、ほぼ100%の確率で外れていくのだ。そんな自分にとって、るーす氏のように、逆転また逆転なテキストは読んでいて非常に楽しい。
「あー、こういうことだったのかー」
しかる後……
「えっ、違うの! マ~ジ~デ~」
そんでもって……
「はっ? また変わっちゃうの? ……ぐぬぬぬぬぬっ」
挙げ句の果てに……
「ぬがーーっ、どれだけ俺を惨めにすれば気が済むのじゃーーっ!」
となった。
これらは実際に俺がディスプレイを前に叫んだ魂の叫びである。当然、隣の住人にとっては迷惑極まりないことだろう。仲がよくなくては、とっくの昔にこの部屋を追い出されているってなもんだ。……って、俺の個人的な情報はいいって? ごめんなさい。
まあ、冗談は置いておいて、つまりはこのお方は演出にこそその真髄がある。いや、そこにしか魅力はないのだ。はっきりと断じさせてもらえるならば、長い長ーーい地の文はこの演出のために存在している……なんて言葉は、俺は絶対に認めない。だって、地の文なくても演出は光っているもん。ぶっちゃけ、冗長な地の文を入れないと、顧客から「短すぎる!」なんてクレームが入ってしまうから書いているだけなんでないの? とまでは、とてもではないが言えませんがね。……いや、失礼。俺如きがこんなことを言えたもんではないのです。ファンの方々には、土下座してお詫びを。
だが、自分の今作や今までの作品の点数を見てもらえれば分かっていただけるとは思うが、自分はこのるーす氏のファンの一人だ。この演出はこの方にしかできないものだ。芸術だとすら思っている。5章の”魔王”の設定に関しては、情けなくも思わず
「やられたーーーっっ!」
と叫んでしまったほどである。おまけにその後の権三の真意に、ありえねーーっと思いながらも感動してしまう自分がいた。なんとも情けない限りだが、それがこの方のシナリオの強みなのだろう。
で、なんだかんだで5章。この章、地の文多すぎ。はっきり言って冗長、長すぎ、退屈。ゆえに、不覚にもクリック連打をしてしまうこともあった。そして、クライマックス。火だるま、それでも歩いてくる男、炎上、そしてばたんきゅー……あれ、どこかで見たような? どこぞの三代目の泥棒映画のもろパクリでは? てことは、”魔王”も同じように……なんて考えていたら、案の定そうなってしまったわけで。まあ、トリックを思いつかなかった以上、こちらの負けなんですがね。でも、ワクワクは半減。ちょっと悔しいのです。
そして最終章。ムショに3人が来るシーンも感動したが、最後の最後のシーンは不覚にも感動した。なるほど、だれもがその流れをCGが出た時点で予想しただろう。なるほど、だれもがハルは一途であることを疑わなかっただろう。だが、それでもあのシーンは感動できる。その要因は、間違いなく幼子の存在にあるだろう。どのようなシーンであれ、純真無垢な幼子の存在というのは人の心を和ませる。ゆえに、あそこでの演出はある意味では反則と言えるが、いい演出・憎い演出であったとも言えるのだろう。
まあ、なんだかんだで難あり文句ありの作品だったが、気づいてみればかなりの速度で読み進めていた以上はこの作品がよかったということになるのだろう。最後に一言、るーす氏の演出に惜しみない拍手を。
長文駄文、これにて失礼。
※ここからは余談です。
しかし1~4章までの個別ルートでは、いったい”魔王”はなにをしていたんだろう? 突然にいなくなっちゃったし。あそこでドッコンバッコンしたら話が進まない、ってことはわかるけれどもさー。それとも、セミが悲しく鳴く話のように、個別エンドの後、皆殺しにあったのだろうか? う~む。