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refrainさんのボクの手の中の楽園の長文感想

ユーザー
refrain
ゲーム
ボクの手の中の楽園
ブランド
キャラメルBOX
得点
77
参照数
517

一言コメント

この方の描くファンタジーは、やはりいい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 このライターさんの大ファンである自分としては、前作(うな天)のイマイチ感が非常に不愉快なものだった。キャラメル初の複数ライター起用による作品ということだったが、そこはやはり懸念通りでユーザーのほとんどから不評を買っていたようだった。その点、今作は従来のキャラメルに戻り、単独での執筆となり、自分としても期待十分だった。ほしまるテキストにのり太絵でなくなった、という点がいささか不安ではあったが、さすがはクロサキ氏。十分以上の働きを見せてくださった。

 さて、久方ぶりのほしまる氏によるファンタジーもの。「シャマナシャマナ」こそ、キャラメルの最高傑作であると勝手に思いこんでいる私としては、期待するなという方が無理な世界観、そして設定。また、ウェブページトップに記された「その日、世界は凍り付いた」の文字、なんともかっこいい演出。そして発売日、気分を盛り上げようとネット族の俺が、わざわざ秋葉原まで足を運んで購入。期待に胸躍らせながらインストール。流れるオープニング、中央に光の玉が輝き、既視感に頭を悩ます俺。そして、聞こえる歌姫の声――

「いつか~見た夢が~、ふいに~よみがえる~」

 よみがえりましたー。歌姫といい背景といい、もろに「シャマシャマ」じゃん。さいこーーっっ!!
 画面の前で叫びながらテキストを読み進めていく私でした。

 で、感想。
 やはり、ほしまる氏はファンタジーがうまい。なにがうまいって、情景描写が実に鮮明、かつ繊細に描いている点がすごい。読み手を書き手の世界に引きずり込むのに大切なのは、その世界観をすぐに読み手の頭の中に描かせること。ただ、小説や物語では当たり前のことなのだが、ことゲームになるとそれがサボられてしまうことが非常に多い。なぜか? それはゲームは画像や映像を媒介としているので、背景も画像として組み込まれるからだ。だから細かく描写しなくても、読み手に情景は伝わる。
 自分には、それが許せない。たしかにその通りだし、ほとんどの読み手にとってはどうでもいいことなのだろうが、森の深い様子、寂れた町の様子などを、周りの空気や瓦礫の跡などで表現することで、あたかも自分がその場にいるかのような錯覚を持てる。なればこそ、ここぞという場面で緊迫したムードを主人公同様感じ取ることができ、読み手も一緒にドキッとしたりできるのだと自分は考えている。
 その点、ほしまる氏はその描写がずば抜けてうまい。ともすれば冗長ともとらわれがちだが、国家間のせめぎ合い、風景の描写などを細かく、そして綺麗に描くことで読み手は深く、書き手の世界に身をゆだねられる。だから、読んでいて気持ちがいい、読んでいてワクワクする。自分はやはり、このライターさんの作品は肌に合っているなとつくづく感じさせられた。
 それに、余計な遊び心も非常に楽しい。まったく出てこないのに、動物にケルピとか名前がつけられているのには、吹き出させてもらった。そういう遊び心、大好きです!

 で、内容。
 はっきり言って、こちらは微妙でした。相変わらずの謎もので、読んでいて楽しくはあるが、今作は今ひとつ盛り上がりに欠けた。「あえかな」では電子の精、拳銃ゲーム、ドーム型の世界とこれでもかとばかりの個性的で広い世界だったのに対し、今作は若干狭い印象がぬぐえなかった。主人公も強いのだが、情けない感じが強く、記憶が戻ったら無敵な感じにしてほしかったかな。ミルディンくんは、そこがかっこよかった。
 また、謎の点も回収の仕方が今ひとつ。
 テア編では、黒幕は誰かが主な謎となっていた。はっきり言って、自分はこれにさんざん頭を悩ませた。ティム? いや、時期的に不可能か? クリス? あの子が黒幕はいやじゃ(←私的理由)。で、出た結論は一つ。イェルクしかいねえ。犯行動機も十分、死んでいたと思わせて…というのはミステリーでは定石。これは勝ったな、なんて思っていたら、新キャラ登場であっさり終わってもーた。
【俺】「…………………………(涙」
 いや、これが書き手のミスリードだってんなら「うわ~、騙されたよ~。さすがだな~」で笑って終われるんよ。でもさ、新キャラ登場は反則でしょっ! 考えようがないじゃんっ! 俺の長い長い長い…考察はなんだったのっ!
 エリノア編では、彼女の素性に焦点が当たる。そして、実は敵国のスパイで主人公を仇と思っている人物だったのだ! じゃ~ん! …ってな流れのはずなのに、いつのまにか正体は露見し、復讐心はあっさり消え失せてるし。なんとも単純な娘ですね。
 クレア編では、謎はあまりなかったかな。強いて言えば、発作がなんなのかということだが、これはティム編で回収してくれていたな。…でもさ、「魔術師の儀式さ」とか「私の…最高…傑作だ」とかなんとか言っておきながら、その辺の説明がなかったよね。いったいあなたは何者なんですか、クレアさん? やるき箱3での回収よろしくお願いしますよ。
 ティム編はキャラもかわいく、おおむね満足。戦闘がやややっつけ感が漂っていたが、まあいいかな。黒幕二人はどこいっちゃったんでしょうかね?
 そして、総じてメガネ娘率が高いから、なんかあるなと期待していたのに、関係あったのは主人公だなんて…これもミスリードですか? …違うよね。
 まあ、そんなわけで楽しめたが、最高傑作には残念ながら及びませんでしたって感じですかね。

 ここからは余談です。
 狂人ってどうやって操れるんだろー? 書いてあったっけ?
 それにルファって結局なんだったの? いつの間にか死んでるし、蝶になって見守っているという割には、キーパーソンになり得ていないし。もう少し、キャラの説明がほしかったかな。ルファエンドきぼー(生き返らせましょう♪)。