余命僅かの主人公が、ヒロインと共に織りなす純愛作品。と、それを見守る仲間達との友情作品。
主人公は、医者から余命半年と宣告され――
そんな設定から始まるこの作品は、死別ネタを扱った所謂「泣かせ」作品だ。
一般的に死別ネタで泣かせる作品というのは、死ぬ時の前後に何かしらの“救い”を与える事で、
プレイヤーに対し、反動的に強く“良かったね”と思わせるやり方をよく見る。
例えば、
死んだと思っていた人が、何かしらの力が働いて生き返るとか。
死ぬ間際になって奇跡的な回復を遂げるとか。
死を受け入れたつもりで何年も踏ん張り続け、ある日、身近な人に救いの言葉を掛けられるとか。
私としてはこういった死別ネタを揶揄するつもりはなく、むしろ1つの王道として必要だと思っている。
実際、昔から多かれ少なかれ涙腺を刺激され続けている。
この作品も、主人公の死を扱うにあたり救いを用意している。
ただ、主人公は難病により未来のない身であり、そこに奇跡が介入する余地はない。
この作品の面白いところは、主人公が死ぬ事を前提に、救いを用意している点だ。
作中では紆余曲折ありながらも、主人公は死ぬその瞬間までヒロインと付き合う事になるのだが、
主人公は死を迎えるにあたり、ヒロインへの想いを胸に、密かに贈り物を用意するのである。
幼馴染のヒロインが、本当の家族として、自分の両親達と暮らせるように。
いつも遠慮がちなヒロインが、堂々と自分の夢である演奏家として、世界へ羽ばたけるように。
過去の事故を自責し壊れかけていたヒロインが、普通の生活に戻れるように。
辛い事を正視できず逃げていたヒロインが、主人公の死を乗り越えられるように。
天才であるがゆえに距離を置かれ、居場所の無かったヒロインが、この街へ帰ってこられるように。
ヒロインをただ想い、贈り物を作り上げた達成感が主人公を救い、
その贈り物を手にし、主人公に対して抱く感謝の想いがヒロインを救う。
作中でもそう表現されていたが、
互いの想いが織りなし迎えるこれらのエンディングこそ、この作品のいうタペストリーなのだろう。
ただ、個人的にはそんなエンディングよりも印象に残っている場面がある。
それは、とあるヒロインのルートにある、主人公と仲間たちの記念写真の場面。
それぞれの立ち位置と表情が、この作品の全てを物語っているようで、何とも感慨深い。