唯一無二
萌えなんかは狗に食わせてしまえ!とはよく言ったものかと。
不満に関しては書くことが思い付かない程、美しくも残酷な物語。
これで3部作の1作目だから恐れ入ります。それほどの完成度の高さ。
18禁でしか表現できず、かと言って只のエロゲーと云う枠に収めるには余りに無粋。
なればこその唯一無二の作品(殻シリーズ)であり、ブランドだと思います。
故に惹かれ、魅入られ、私は何年もの間(主に冬子に)パラノイアを抱き続けました。
いや、囚われているのかも知れませんが……。
そして例え同じような話であっても、絵師が彼(杉菜水姫)でなければ此処まで心惹かれなかったでしょう。
杉菜水姫氏が描く芸術的要素は非常に美しく、また奏でるBGMの旋律は耳に心地よく残ります。
さらに本作はリメイク前と比べ、演出面とグロによる力の入れようが良く分かる仕様。
また、高橋がならないさんから変更になった髭内悪太さんの渋くも深みのある声色は、
時間を掛けて時坂玲人を違和感なく上書きすることに成功しました。
加えて膨大なフラグ管理と選択肢は攻略難易度を上げますが、推理物としては相応しく、
人物関係図を含めた時坂のメモ帳の作り込みの高さは賞賛しかありません。
昭和31年代の世界観と狂気。妄執と偏執の数々。
朽木冬子の透明感がありながらも存在感のある矛盾した魅力。
物語は加速し、地獄(インフェルノ)から煉獄(プルガトリオ)、そして天国(パラディン)に。
生きながらにしてその世界を体験することが出来たとされるダンテ。
ベアトリーチェとの出会いも含め、此の先待つ展開を心より願っています。
以下、補足です。
【参考文献】
奈須きのこ(2004)『空の境界 下』講談社ノベルス 殺人考察(後)より一部抜粋及び編集
黒桐幹也
「橙子さん、人間が人間を殺す理由はなんですか。」
蒼崎橙子
「相手に抱く感情が、自己の容量を超えてしまった時だろう。自分がまかないきれる感情の量は決まっている。入る器が大きい人間もいれば、極端に小さい人間もいる。恋愛であれ憎悪であれ、その感情が自己の器から溢れてしまうと、その分が苦痛にすげ替えられるんだ。そうなると相手の存在そのものに耐えられなくなる。耐えられないならどうするのか。それを何らかの手段で消してしまうしかない。忘却したり離れたり、とにかく自分の中から遠ざける。その手段が極端になると殺人というものになるんだ。自分を守るためだから道徳は消え、仮初の正当性を手に入れられる。」
黒桐幹也
「でも、無関係に人を殺す人もいます。」
蒼崎橙子
「それは殺人じゃない。殺戮だよ。人が互いの尊厳と過去を秤にかけてどちらかを消去した場合にのみ、それは殺人となる。人を殺した、という意味も罪も背負うんだ。だが殺戮は違う。殺された側は人だが、殺した側には人としての尊厳がない。あとの意味も罪もない。事故は、罪そのものを背負ってはくれないだろう。」
戦争以外で、殺人を行う者の心理を的確についていると思い、今回勝手に引用させて頂きました。(後日削除されるかも)
猟奇殺人へ奔る者は殺戮者と同様に人としての尊厳がないのでしょう。
そして其処に至る過程(最初の殺人)は、脆弱な器に伴う薄弱化した精神が原因なのかもしれません。
皆さんの見識の参考になれば幸いです。