演劇+α作品。一つ大きな欠点は抱えつつも、久々に様々なキャラクターの感情にのめり込むことができる作品だった。とあるキャラへの好感度でガッツリ評価が二分されそう。
作品への好感度 B+(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 D(S・A〜E)※毒っけが強い
各ルート・エンディングの感想、総評の順になっています。
プレイ順:基本的に一本道
評価:めぐり>共通>>最終幕>その他分岐
共通前半
最初にこの作品に抱いたのは、刺々しい人が多すぎないかという気持ちでした。今までノベルゲーム、漫画やドラマをいくつか嗜んできましたが、スパイス程度にキッツイ人はよくいるものの、最初からこんなにグサグサ刺してくるような人ばかりというのは稀だと思います。
こんなので大丈夫か?と序盤は思いました。しかし彼ら彼女らが刺々しい理由は次第に明かされ、刺々しくない一面も次第に垣間見ることができる構造にはシンプルながらも驚きました。
特に好きなエピソードは第三幕の悠苑の話と、第四幕の双葉の話。特に第四幕は同性愛と演劇を絡めた展開がとてもよく、思わず双葉の力強さに拍手喝采してしまいました。二次元における同性愛キャラをギャグでなあなあに扱わなかったところはこの作品の魅力と言えるでしょう。
…と、第四幕までは主人公の存在が不必要ではと思うことと、時々挟まる不思議要素がよくわからないこと以外は特に問題なく楽しめていました。
しかし第五幕で大きく話が動き、劇団の緩やかな崩壊を見せつけられます。向かう先が崩壊なのかもわからない、が正解ではありますが。今まで演劇クズでありながらもつっけんどんな優しさを感じられた来々がおかしくなり、ついで指導対象である琥珀も狂い始め、最終的にめぐりが発狂する一連の流れは、見ていて決して気持ち良いものではありませんでした。来々についてはやったことの擁護はあまりできませんが、ここにきて魅力自体は他キャラと比べて頭一つ抜きん出たと思います。
無事「フィリア」公演を終えた後、本格的な崩壊が始まります。途中から薄々勘づいてはいましたが、全てが主人公以外には優しい嘘で、白昼夢だったのだなと…
奈々菜√(七色の暖炉)
再び正規の手段以外で「主人公の妹」の座を射止めた奈々菜。元母からの「好きになりなさい」の呪縛の話等、面白いところは多少あったのですが、期待したものは得られませんでした。他の分岐シナリオでもほぼ同じなので、彼女の√だけの欠点ではありませんが。
理世√(茜色の幻惑)
あれだけ朧にしつこく言われたのに演劇から逃げるのはダメではとしか思えず、それ以降はやっぱりダメだったじゃん!となる流れで特に得るものはなく。しかし幸せを捨て去る決意をした理世√end後の彼女はとても魅力的に映りました。
めぐり√(赤光の銀河)
個別では一番出来が良かった話。結果ではなく道中をゆっくり楽しむという思考は私も持ち合わせているので、お話をきっちり読めた気がします。
もちろん、座長、ハナ、悠苑と楽しそうにじゃれあうめぐりを見て涙。やはり元祖劇団ランビリス組が好きで仕方ないんだなと改めて実感しました。
琥珀√(ロイヤルアンバーの無限泡影)
結局この子も妹関連ネタでした。奈々菜の位置がさらに琥珀にスライドしただけ。この作品は妹と演劇を中心に回っているのでそうなることはごく自然なのですが…
奈々菜は自殺し、理世も虚構によって姿を消しているので本当に後味が悪いだけでした。面白味みたいなのは極限に薄かったと思います。
共通後半
分岐の合間合間に入れられる物語。ここに来てまだ来々の株を上げる展開があってびっくり。
ここでは朧、琥珀の存在の謎についても触れられますが…朧はともかく、琥珀はメインヒロイン?なのに舞台装置である部分を脱しきれていない印象でした。琥珀が空虚な理由も結局のところよく分かりませんでしたし…
朧の告白シーンはスチルの美麗さもあってかなり映えていたと思います。男から男への最期の I love youがあそこまで心に響くとは思いませんでした。朧の今までの葛藤を見てきたからこその感動だったと思います。
来々達には潤沢なアフターケアがあったのに、彼にはほぼなかったのが逆に不思議な魅力につながっていました。多くを語らない男は、かっこいい。
最終章
順当な結末だったかと。ちょっとめぐりだけ追う傷が段違いに深く、多いのはバランス感覚に欠けているかとは思いますが…理世は未来のことばかり気にしていて、あまりランビリス組のことを気にしていないのが気になって仕方ありませんでした。
しかし双葉と未来の話は結構面白く、ここに来てさらに双葉に掘り下げがあったことには驚きました。女親友キャラとしてここまで良い子はなかなかお目にかかれないので貴重な体験でした。
その他
・絵、演出
見ていて気持ちが不安定になる絵がいくつかありました。かなり特徴のある絵柄なので、好き嫌いはっきり別れそうです。私は嫌いではないけど…くらいの位置に収まりました。万人受けしそうな別原画さん達の絵との差異も目立ったのがよくなかったのだろうと思います。
また、演出も商業作品、しかも演劇をモチーフにしている作品にしては簡素。作品が丸ごと演劇ならば、もう少し演出に気を遣ってほしかったと思います。
視覚的な楽しさはだいぶ薄い作品だと思いました。
・世界観
舞台となるのは演劇(もっと言えば芸術)が現代日本より重要視されているような世界観。転じて演劇で食い繋いでいこうと思う人も必然的に多い世界…で合っていますかね。もちろんキャラの親族も芸能関係者ばかり。
「ニュクス」自体も虚構だとは思えないのですが、どう見ても演劇に興味のない人が多いただの現代日本なため頭がバグります。結局、ここはどこなんだろう。
・主人公
この作品の大きな欠点。個性アリ、外見設定・声ナシ、結果としては氷狐関連以外は魅力、ナシ。盲目な愛を持っていた朧にもしっかりそのような言及をされていた(良いとこ見せてもらった覚えはない的発言)のは笑っちゃいました。
遺伝子レベルの愛情を持っていた未来、直接救われた上に母からの洗脳があった奈々菜、空虚な琥珀、幼少期のエピソードがある理世の順でまだ主人公に惚れる理由はあったものの、めぐりだけは本当に恋愛関連の描写が壊滅的だったように感じます。めぐり個人は魅力的だっただけに、ため息が出るほど残念です。
性格に関しても賛否両論ありそうです。謎の上から目線は彼の持ち味なので欠点とはしませんが、こんな調子でも女から惚れられる様には疑問符が付きます。
総評
はじめてのウグイスカグラ作品。kotyeにも選評が送られていた覚えがあり(もちろん、選評が送られた≠クソゲー)、戦々恐々としながらプレイしましたが…予想を遥かに超えるというか、予想を裏切るような作品で満足です。
ファンタジーが下敷きにあるのが嫌ではない人で、演劇、特に役者モチーフ好きの人にはおすすめできます。個人的には演劇論の交わし合いがあまりなかったように感じたのはやや残念。
私は高評価しましたが、評価できるかどうかの境目は来々(座長)を受け入れられるかどうかだと思います。なんだかんだこの作品に占める重要なシーンの1/3以上は座長関連なので。
この作品に演劇愛を感じないという感想がいくつか散見されましたが、私は今は生きた生の人間の演劇が見たくて仕方ありません。そう感じさせてくれただけで愛はあったのではと思います。実際、今度久々に見に行くので楽しみです。