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no-attさんの紅月ゆれる恋あかりの長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
紅月ゆれる恋あかり
ブランド
CRYSTALiA
得点
100
参照数
580

一言コメント

この作品をプレイするために今までエロゲをやっていた気がするというくらいのめり込めたし、楽しかった。中盤以降は読めてしまう展開も多いが、それ以上に欲しいと思ってたものをきっちり得られて嬉しかった。エロゲに燃えやヒロイン同士の友情を求めている人は是非。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作品への好感度   S(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 A(S・A〜E)※時系列的には1番最初だが、続編のため。また、題名や今までの作品から恋愛要素に期待している人にはお勧めできない。


前置き
ほぼ一本道な作品のため、良いと思った点とどちらとも言えない点、悪いと思った点について記載、その後総評という流れで書いております。



■良いと思った点
・シナリオ
伝奇・退魔バトル的な要素とスポ根要素を併せ持っていたこのシリーズ。今回は前作・めくらべと真逆に後者一本。こちらの方が本シリーズの強みの部分だと思っていたので、大変楽しめました。

不意打ち気味な誰かの裏切りや唐突なキャラクターの性格の変貌などの突飛で無理矢理感のある話運びはせず、刃道に打ち込む少女たちの頑張りを丁寧に描けていたことが良かったと思います。

基本的に誉められるものではありましたが、そうであったが故に先が読みやすすぎる展開と、主人公にまつわることの描写量不足感、個別ルート(スペシャルシーン)の雑さと短さが気になってしまいました。


・キャラクター
なんと言っても、まず登場人物の数が他シリーズに比べて多い!
ヒール役の刃道選手である中邑さくらやヒロイン九鬼旭の兄・隆久(シリーズ初の主人公以外で立ち絵とスチルのある男性キャラ)が出てくるとは全く思っておらず、その点でも度肝を抜かれました。

また主人公は先生としての矜持をきちんと持っており、見ていて不快感がありませんでした。恋愛ゲーとしてはどうなんだと思うこともありましたが…
メインヒロイン4人もそれぞれキャラが立っていて、なおかつどうして刀仕禰宜になりたい/ならなければいけないのかの理由がしっかりあって良かったです。

しかし先生としての主人公と生徒としてのメインヒロインたちが好きすぎて、誰か1人と恋愛関係に至りたくないという気持ちがすごく強くなってしまいました。


・演出
今回は目立った化妖戦がなかったのでめくらべは除くとしても、順当に演出が強化されていました。
刀同士がぶつかるだけの同じ演出や白黒点滅フラッシュなどで誤魔化さず、鍔迫り合いの描写や手のアップや剣筋を反映したエフェクトなどを用いて戦闘シーンがより緊迫感のあるド派手なものになっていました。

また本戦では客の歓声、ナレーション、解説、前試合の振り返りが付き、よりスポーツらしさが増していて良かったです。



△どちらとも言えない点
・Hシーン
本編から切り離されているシーンが多いことは今回のシナリオの性質上、個人的には評価できます。

ですがHシーン1回につき、差分抜きで1種類しかスチルがないものが多いのは寂しいです。こう思うとめくいろシリーズ→めくらべ→ゆれあかとだんだんとHシーンそのものの劣化が進んでいる気がします。それでも、他作品より好きなヒロインが多いのでシーンの存在価値自体はゆれあかが一番高いのですが。


・一部設定
主人公がサポート側とは言えど選手側の人間なので、話そのものはめくいろよりは飲み込みやすくなっている点は良い点です。

ただ、今回はめくいろではかなり強調されていた技術的なサポート側の立場が梨々夢の作刀係のモブを除けば雫くらいしかおらず、他のキャラの技術的サポートはどうしてるんだろうというのが気になりました。朱雀院以外も試合前のバイタルチェック以外は独立独行してないか?となりがちです。
演武祭ではサブキャラ含めて介添人をつけてないメインキャラの方が多かったですし、ヴィクトリア雫ペアが他から浮いていたような気がします。


・SD絵
担当がぺろ先生ではなくなり、その時点で落ち込んでいました。 SD絵の出来そのものはよかったと思うのですが…
数(差分含め)が減っていたので、そっちもショックでした。



□悪いと思った点
・本戦の各試合結果が読めてしまう
梨々夢が予選敗退することと、予選の紅葉VSヴィクトリアの結果だけは意外でしたが、それ以外は本戦開始前のトーナメント表から順当に結果が読めてしまう試合ばかりでした。
優勝者についても紅葉以外はあり得ないだろう、と物語開始直後にすぐにわかってしまいます。
これはめくいろ、そして本作で散々示されて来た「朱雀院は勝ち続けなければならない」という話からすぐにでも察せられます。作中ではヴィクトリアには負けるかもしれないと言われている紅葉ですが、全然そんな展開もなく…

本戦一戦目〜紅葉VS覚醒雪月花のラストバトルの勝敗という、かなりの数の試合結果が見通せてしまいました。ここまで勝敗が読みやすいのも、ちょっと困りものです。


・共通ルートの恋愛関係と短すぎる個別ルート(スペシャルシーン[SS])
長い長い共通ルートで、すでに主人公が誰か1人のことが恋愛的な意味で好きであるということは度々示されます。
メインヒロインはみんな主人公に恋愛感情を持っていることはきちんと示されているのに、主人公から誰か1人へのヒロインへの恋愛感情を感じることはありません。
なぜなら恋愛に関しては共通終了後からようやく動き出す形をとっており、エンディング後に好きなヒロインを選ぶ形式だからです。

主人公がヒロインをどういうイベントで好きになったのか、好きになった所がどこなのかというのかは個別に入った後になんとなく開示されますが、すでにそのシーンが過ぎ去った後すぎて全くノれませんでした。
共通内で各ヒロインごとにサウナやマッサージなどの個別イベントはありましたが、それが主人公からの恋愛感情に繋がったイベントであるとイコールにし辛いというか…

また個別自体も短く、見たいものが得られたかというと微妙です。展開も似たり寄ったり感を感じましたし。梨々夢SSが一番微妙、雪月花SSと紅葉SSはまあまあ、旭SSは(パンツコキ以外は)良かったという感想になります。共通で戦績的には可哀想なことになった梨々夢は、もうちょっとまともなフォローが欲しかったです。



総評
みんな独りよがりで自分勝手だけど、誰かとぶつかりながらでも共に歩いていけるし歩いていきたい、ということをエロゲの基本型を完全に破り捨てて描いていた作品だと思います。

明るめのエロゲでテーマに上りやすいのは個人的に「恋愛」、「家族」、「友情」だと思っていますが、「友情」をテーマにしたエロゲの完成系だと個人的には思います。ここまでヒロイン同士の友情話に長尺を割くエロゲを私は知りません。
その分「恋愛」に関しては満足できるものではありませんでしたが、好きなキャラの可愛い所が見れたと思えばアドなのかなとも思います。

エロゲにエロや恋愛より、アツさや友情を求める人にはピッタリな作品です。個人的には椿恋歌を抜いてシリーズ最高傑作だと感じました。このシリーズの次回作が楽しみでもあり、この作品を超えられるかどうかが怖くもあり…とりあえず続編、お待ちしております。