セカイ系?の皮を被ったセカイ系ではない作品。公式サイトを見てもそんな感じ。
作品への好感度 A(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 S(S・A〜E)※衰退したと(外野に)騒がれる近年の商業エロゲの中でもかなりの力作なため
《ケース前半・後半感想》
見た順番はcase-3→1→2
好きな話はcase-3>>2>>>1
case-3
ヒロイン・すももとサブヒロイン?・梓姫と主人公・カンナの一夏の冒険譚。常に死と隣り合わせであるような展開である他caseと比べ、全体的な雰囲気は明るくまとまっていてよかったです。
まず、すももとカンナが再会した後から始まり、そこからは回顧録という形をとっているため、特に何の不安も抱くことなくお話を楽しむことができました。
悪いところとしては梓姫と協力体制になる際に、彼女に「盗み」という手段を取らせたことでしょうか。もっと彼女が生活に困窮しているような状況なら別でしたが、いくらなんでも彼女を「ちょっとダメだけど根はいい人」扱いするために、このような窃盗罪要素を入れるのは無理があったと思います。
case-2
主人公・ウィルとヒロイン・オリヴィア、そのオリヴィア率いる劇団員の、騒がしくもどこか物悲しい演劇物語。主人公がまさかの有名作家のシェイクスピア、他二つが在りし日の現代(以降の)日本を舞台にした作品であったのに対して中世ヨーロッパ世界観ということで、異色の作品です。
なんといってもヒロインのオリヴィアが演劇に真剣なのがいいです。演劇のためならしけたパブの店員をやるのも、パトロンを言いくるめて刎頚予定のウィルを救うのも厭わない。テキパキなんでもやるのがカッコいいです。
悪いところというか、微妙だと思ったこと自体もたくさんあります。
まずは宮廷演目を争うライバル?座付き作家・マーロウの立ち位置。出てきた瞬間から格を落としていき、最後には完全に小物に成り下がって話からフェードアウトしてしまうのはいかがなものでしょうか。
しかも宮廷演目もあれだけ話のメインだと思わせぶりつつも、途中でサラッとウィル側が選ばれてしまいます。そのためマーロウの存在が話を動かす舞台装置的な役割に終始してしまっているのが残念です。
次は宗教について。これもウィルが演劇に本腰を入れるようになったり、脚本を書くきっかけに使われただけで終わってしまいました。この時代では女が演劇できない、という方面ではそれなりに話が発展できていましたので、ここの感想は人によりけりなところがありそうです。
1番なんとも言えなかったのは演劇という派手な話題でありながら、立ち絵の有り無しに関わらず出てくるキャラクターの人数がやけに少ないということです。流石にオリヴィアたちがまるで4人で劇を回しているかのような表現なのはいかがなものかと…
これでも他ケースより多種多様な人物が出てくるので、あまり文句は言えませんが。
case-1
非常勤教師である主人公・有島とその生徒であるヒロイン・凛が小説を通して成長していく物語。
ぶっちゃけこう…あまりにも年の差ありすぎる教師と生徒の恋愛とかで興奮できないので…という。これでマジで不倫の話だったら途中でやめてたかもしれません。実際恋愛の方の話には乗り切れず。
ただ有島を通して凛や凛の父・秋房、同僚・渡辺、妻・祥子などを見るのは楽しかったです。元々感じていたやりきれなさに加えて、歳をとったゆえの人生の閉塞感みたいなのをありありと感じるような話作りは面白かったです。後でcase-0でも効いてきますが、渡辺先生みたいな友人の存在は良いですね。
最後が(やや)望まない妊娠オチだったのはなんとなく不穏なのでやめてほしいなーって感じで作品としてはよくできてても好みじゃないという感じでした。
《case-1〜3全体感想》
概ね満足です。ですが単純に各caseを単品の話として考えた時、どの話も世界が狭いと感じました。例えればロープラ作品や10分で読める!みたいな題名がついている短編小説という印象です。小作品集、といった感じなのでこの規模感でいいと思うかどうかは人それぞれでしょう。
また、これらの各caseは世凪が作った小説が100%投影されている内容ではなく、そもそも世凪の夢であったり、異物である海斗の存在があったり、出雲のアドリブが入ったりしているために、世凪の小説作成能力自体の評価は下せないとは思います。
ただエピローグで齟齬なく世凪自身(エピローグ世凪と小説を書いた世凪を同存在と定義していいのかは微妙なのですが)が各caseのハッピーエンドを作っていたことから、世凪の作成した小説とは大きく違わないと思いますが。
case-0
3つの物語を綴ったヒロイン・世凪とその世凪のために記憶を失って実験に参加している主人公・海斗の今までを語った前半部分と、現時点から先の話を語った後半部分という構成になっています。
まず前半部分について。これはホログラム中の海斗との対話と、作中時間で1時間程度の過去の記憶の追体験をプレイヤーが見るといった形で展開されます。お話全体として各caseの要素をたくさん拾っていきながら話が進み、そこがそこと関係するのか!という道が一つにつながっていくような楽しさもあり、面白かったです。
後半部分は、もうどうしようもなくなった世凪と海斗の終着点を描く物語です。長さ的にも前半部分よりは短めかなと。後半に突入したあたりから、この作品のテーマである「個性」とは何なのかを考え始めました。
世凪のことについては、ほとんど海斗から一方的にしか語られていません。その海斗を通して世凪の存在を不憫に思ったり、世凪を幸せにしたいと思ったり、世凪の脳を切除した遊馬に怒ってみたり。
実際、世凪の視点が挟まっていない時は、彼女が何を考えてどういう気持ちで行動したのかはわかりません。
私はこの『白昼夢の青写真』という作品を通して、きちんと世凪という存在の「個性」を理解できたのでしょうか。
私はできていないと思いました。
世凪という存在の「個性」を探って行こうにも、当の世凪自身も、作中終盤は在りし日の世凪の「個性」を外から眺めるだけの人間になってしまいました。(それもまた新しく芽生えた「個性」と言える…?)
この作品は「揺らがない個性というものは存在するのか。(中略)世凪という一人の少女の物語を通して、一つの答えを出すことを目標に企画した」(公式サイト引用)らしいのですが、答えは何なのでしょうか。
過去の記憶こそがその人の「個性」?
現在思考する能力があればそれがその人の「個性」?
全て忘れて、思考能力も下がったら「個性」は失われる?
一度忘れたけど、全部思い出したから前の状態の「個性」を持っていると言える?
海斗が他の人に語り継いでいる世凪は、正しく世凪についての話なのか?
最後に海斗の前に新しく現れた世凪はいつの世凪の「個性」を持つ存在?
一つの答え…というより沢山の疑問が出てきているような気がしてならないのですが。
なんなら、主人公の海斗の「個性」に対してもよくわからないと言えます。記憶を故意に失ったり戻したりができる世界での「個性」とは?後から追体験して思い出したからといって以前の本人と同じなのか?等々…
作中に公式の解答があったとしたら、私が相変わらず文章読むのが下手くそってだけですが…
その他
・ヒロイン
凛・世凪除き非処女ヒロインなのは賛否両論ありそうですが、私は圧倒的「賛」です。
・各caseOP
一つ一つ用意してあってびっくりです。曲がどれも各caseに合っていて良かった。
ただ、この作品の絵(特に塗り)とぬるぬる動くOPは合わないと感じました。全体的に表情が固かったりしてやや不気味。
・エピローグとおまけ
エピローグはcase-3のみそこまで変ではないかなとは思いましたが、あと二つは読後感を損った気分です。おまけは……case-2の早漏ネタで大爆笑しました。
総評
世凪を中心にした話として、初めから終わりまできちんとまとまっています。
また過去作要素もそれなりにあるようですが、これが初ラプラシアンなのでそちらについてはノーコメント。それでも面白かったのは確かです。
エロゲ初心者が何言ってんだって感じですが、エロゲから離れようとしてる人や離れてしまった人にも是非やってほしい作品です。