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no-attさんの穢翼のユースティア Angel's blessingの長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
穢翼のユースティア Angel's blessing
ブランド
dramatic create
得点
85
参照数
170

一言コメント

最終章以外はシナリオだけなら65〜75点くらいの面白さ。最終章が面白い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作品への好感度   A(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 A(S・A〜E)※一般的に名作扱いなので


以下は各ルートの感想です。
やった順:フィオネ→エリス→コレット・ラヴィリア→リシア→ティア
評価:ティア>>>リシア>>コレット・ラヴィリア>エリス>フィオネ


フィオネ√
導入らしく、フィオネがカイムと共に黒羽と化した兄を追っていく比較的わかりやすい王道なストーリーになっていました。堅物ちゃんが頑張る姿は健康に良いです。

フィオネはルートに入るか入らないかでだいぶテンションが違うヒロインという印象を受けました。ルートに入ればデレてくれますが、入らないとカイムとは完全に決別するという形ですので、その時々で受ける印象がだいぶ違いました。



エリス√
風錆事件担当ヒロイン…ではあるもののエリスと当該事件そのものにはあまり絡みはなく、事件の傍らエリスに構うという形式です。

この√のヒロインに関する話では、全体的にカイムとエリスの考えの相違からくるすれ違いに終始しています。カイムも悪いところはあったのですが、完全にストレスマッハで精神的に不安定だったのでちょっとかわいそうでした。エリスの言い分もわかるのですが…。
エリスは前√のフィオネとはまた違った形で√に入るか入らないかによってキャラが変わります。変わらない方が好みな挙句、カイム依存から抜け出るので絶対こっちの方がいいよ…と思ってしまい√の存在ごと否定しそうになるのが困りものです。

事件に関する話では男同士の関係性(カイムとジーク、ジークとベルナドと2人の親である先代)の話がメインでした。こちらは比較的満足です。この4人は善人とも悪人とも言い切れない天秤の上に立っているキャラで、今回はそれがどう傾いたかという絶妙なバランスの話でした。



コレット・ラヴィリア√
エンディング以外あまり代わり映えしないのでひとまとめに。コレットとラヴィリアの友情物語。

ラヴィリアはともかく、コレットには最初はイライラしっぱなしだったのですが、終わりに向かうにつれてそれが解消されていきました。聖女という役目や周りの人間にどうしようもなさを抱えていては、信仰のみを大切にするほかありませんしね。
コレットのヒロインとしての魅力は?と言われると困りますが…。

このルートを終わった時に思ったのは、先代聖女もコレットもラヴィリアもナダルも名無しのモブも含めて、宗教に重きを置いている世界の聖職者は大変だなーということです。

宗教はどうあるべきかや信仰については、全員の言い分が私からすれば正しく、カイムもプレイヤーもあっちが正しいと言ってみたり、こっちが正しいと言ってみたり。なかなか難しいですね、宗教と信仰の話は…



リシア√
リシアが立派な王女に成長していく物語。個別では1番面白かったです。

おてんばで国のことなど知らぬ存ぜぬなリシアが、王女として成長していく姿は良かったのですが、いかんせん急に成長しすぎかな…とも思わなくはなかったです。
多分王としての教育自体は十全に受けており、後はそれをどう使うかという使い方と王であるという本人の自覚の問題だったのでしょう。

本来の父親ではない国王とリシアの間にも確かに親子愛があったと思わせる、庭師と花の冠の話は作中で1番お気に入りのエピソードです。

またカイムの兄であるアイム(ルキウス)にも焦点を当てており、彼を魅力的な人物として描き出しています。ルキウスにならんとした彼の出した答えと、その結末は最後の√に持ち越す大きいテーマで良かったです。
これが大テーマになかったら流石に評価に困るので……



ティア√(グランドエンド)
以前からよく批判の的になっているらしい問題の最終章。私はこの章が大好きです。

前章までで明らかな悪役であったギルバルト、ネヴィルは死んでしまいました。今残っているのは、特筆して悪いことをしていない人々です。(後々ルキウスのみここから少し外れていたことは分かりましたが…)

リシアにも、ルキウスにも、コレットにも、ジークにも、上層民にも下層民にも牢獄民にも、そしてカイムにも皆等しく降りかかる目前の死。
それに対して各々が出した答えやカイムにかけた言葉は、今までの話を全て踏まえている構成となっており大変面白かったです。特にフィオネの迷いとエリスとの会話が良かったです。

ヒロインに常に上から目線でものを言っていた節があるカイムがいざ自分のことになるとどうしようもなく悩んで、迷って、自罰しながらも出した答えまで見なければ、「穢翼のユースティア」を遊び切ったとは言えません。この章のために今までの章が存在していたという感じです。

ヒロインであるティアも、とにかく途中に挟まる別視点から常に肉体的にも精神的にも追い詰められていることがわかり、見ていて苦しかったです。イチャイチャは…アペンドシナリオにほとんど持ち越しでしたが…。



その他
・ボイス
Hシーンのあった名残なのか、そもそもボイスが抜け落ちてるのか不明ですが、カイムのボイス抜けがそこそこあり残念でした。

・アペンドシナリオ
読み応えがありました。特にルキウスとシスティナの話が良かったです。エロゲ原作でプラトニックされるのが1番燃えるのかもしれません。



総評
途中下車式と個人的には呼んでるゲーム形態でしたが、こういう作品はわざわざヒロイン分岐行かずに一本やり切った方が面白いのではないか、と思うことがあります。シュタインズゲートはそうでもなくてびっくりしましたが…

今回は明らかにそのパターンで、ヒロインとして好きなヒロインがティア以外出来ずじまいで終わってしまいました。でもティアに関しては大満足です。

またテキストボックスに2行しか入らないため地の文、セリフ共にどれも短めで、重いシナリオ付きのソシャゲみたいな読み口でした。

オーガスト作品でもかなり毛色の違う作品らしく、これ以外やるかどうかは不明ですが、この作品についてはとても良かったです。

初心者…というよりいくつかノベルゲームに触れた人におすすめしたい一作だと感じました。