音楽・演出・雰囲気も良く、展開された話自体は読ませるものだっただけに、やはりもう少しこの物語の続きが読んでいたかったと思った。
作品への好感度 A(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 C(S・A〜E)※パッチ必須な上、CS版が出るのであえてPC版を買う必要なし
前置き
基本的に一本道の作品のため、良いと思った点とどちらとも言えない点、悪いと思った点について記載、その後総評という流れで書いております。
■良いと思った点
・演出、雰囲気
月姫リメイクが超えられなかった演出と言われていたのは知っていましたが、すぐに納得がいきました。立ち絵等が展開に合わせて目まぐるしく動き、一瞬でも目を離すと全く違う絵面に変わっている時もあるくらいでした。単純に凄い。
また、演出による文章の再現度が凄まじく、雨の日の校舎はちゃんと雨の日の校舎の中にいる気分にさせられますし、戦闘描写・魔術を行使しているシーンの描写は圧巻の一言。ここまでスクリプターが無双している作品は知りません。
好きな演出はおでんを食べる時に箸をカチカチしているところと、ラストバトルで廃校舎周辺の季節がぐるぐる変わるシーンです。
・ヒロイン?である青子と有珠
本作は恋愛要素はほぼありませんでしたが、2人のヒロインは可愛かったです。
青子、有珠、草十郎の3人の醸し出す独特な空気感が心地よく、テンポよく読めました。特に有珠が草十郎に無意識下で心を許しているような描写が好きです。
恋愛要素がないからこそそれぞれのヒロインの良さがよく出ていた反面、もうちょっと関係性を持つのに積極的な彼女達も見てみたかったと思いました。
・「なぜなにプロイ」のコーナー
Fateのポンチ絵が大好きな自分にとっては嬉しいコーナー。特に幼児に扮する有珠がとても可愛いです。
□悪いと思った点
・序盤ストーリーの掴みが弱い
中盤(VS青子・VS有珠の辺り)に差し掛かるまで、何がしたい作品なのかがわかりませんでした。Fateシリーズや月姫リメイクは序盤で話の方向性を掴みやすいのですが、本作にはそれが無かったように感じます。
青子はともかく、草十郎には信念とか理想があまりないキャラなので、そうなってしまうのは仕方ないのですが。
・続編がない
多くのキャラクターが出てきましたが、ほとんどのキャラにそれほど出番がなく、ぶっちゃけモブに毛が生えた程度。続編が存在するか他のシリーズで出てるならこの点はある程度見逃せるのですが、魅力的なキャラクターばかりだったので色々と残念。
最後のシナリオ「誰も寝たりしてはいいけど笑ってはならぬ」はおまけみたいなものだったので、出番の勘定に入れにくいです。
また、メインストーリーがまさかVS橙子のみで話が終了してしまうとは思わず、橙子は魅力的だったものの消化不良でした。
12章後半〜エンディングまでは鳥肌が立って涙が出てくるくらい心を揺さぶられてはいたので、この物語そのものや終わり方についてはあまり不満はないのですが…それでも足りないという気分にさせられました。
そして極め付けは作中での続編の匂わせ。2022年現在、企画が動いているのかすらわかりません。もうこの作品が世に出てから何年経っているのやら。
△どちらともいえない点
・声なし
声無し作品をやらない訳ではないのですが、型月作品は声優がきっちりキャラにはまっている作品というイメージがあったので、声が無いことによって少し寂しさを感じました。雰囲気作りには一役買っているので、良いか悪いかの判断は難しいです。
総評
絵良し、音楽良し、演出良し、ストーリーそのものは良しと良い事づくめの作品。
特に前々から言われている通り、この作品の演出は他に類を見ないレベルで素晴らしかったので、ビジュアルノベルなら演出が1番気になるポイントだという人にはおすすめの1作。
ただストーリーの面では月姫リメイクと同じく、この物語の全てを読み切ったと思えなければ高評価はし辛いです。しかし月姫リメイクよりかはよほど綺麗に1作品で纏まっているので、こちらの方がもちろん評価できますが。
続編は出て欲しいとは思いつつも、つくりものじ先生がすでにTYPE-MOONに在籍していないとなると、この作品の旨味の大部分が減ってしまうのが難点です。きっちりストーリーの力でねじ伏せてくれれば問題はないのですが……