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nezumoさんの白昼夢の青写真の長文感想

ユーザー
nezumo
ゲーム
白昼夢の青写真
ブランド
Laplacian
得点
92
参照数
624

一言コメント

case3の話

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

魂を感じる作品でした。
ヒロインは4人いますが実質1人だけで、声優が同じという仕様がその根拠を確かなものにさせている。
それでいて全ての物語はちゃんと独立していて、それぞれ完結したお話として楽しめるようになっています。

音楽やCGの使い方もそうですが、ここまで心揺さぶられる作品だとは正直かなり驚きました。
case1~3の序盤からもう引き込まれたし、後半戦は尚更凄い。
惜しみなくCGを利用した演出も、各チャートにおける細かい繋がりも、全てが高い完成度に繋がっており、
褒めるところばかりが見えてきて、マイナス点は殆ど気にならなくなってしまいます。
case1~3及び最終シナリオ、全てが世凪の為の物語になっており、どれも圧倒的に素晴らしかったのですが、
ここでは自分が特にお気に入りだった、case3について掘り下げて書いていきたいと思います。


case3は父親と対立し学校に行っていない青年と教育実習生の物語になります。
一見地味な教育実習生は実は可愛く着飾るのが好きだという一面を持っており、青年はカメラを前にすると人が変わる一面を持っている。
2人とも好きなことに打ち込んでいるときはちゃんと自分を表現できるタイプなので、その部分で共感しあい仲を深めていきます。
カメラマンとしてのカンナはすももの最高の表情を引き出すことができるし、すももは撮られることで本来の自分を取り戻すことができる。

まず最初にすももがめちゃめちゃ可愛かったことに対して驚きました。
髪が白いのは作品の仕様上そういうものですが、それにしてもここまで変わるのかという。
最初に地味な状態の彼女を見ることになるので、ギャップにすぐ惚れてしまうんだよな……。

カメラマンと被写体の物語って本当に好きなんですよね。
カメラに映した被写体には、物語上その2人の関係が映ることになるし、その瞬間を切り取ることができる。
これを物語の中で通して眺めた時に、2人の関係の移り変わりが分かるようになっていきます。
今回の場合、カンナがすももを撮り続けることによって、自分のやりたいことを心の中に認識していくような物語でした。
カメラを通した2人の関係が、まさにお互いが今必要としていた人生における1ページになっていて、
それが結果的にこれからの2人の関係とか、やりたいことに打ち込む覚悟を決めるためのきっかけになっています。

母親の残したスケッチからハレー彗星を撮るというのがテーマに動いていきますが、本質的には3人の関係の変化が主な内容であり、
後にカンナもこの3人で過ごした時間が一番大切なことだったと気づくようになります。
カメラで彗星を撮ることが目的ではなく、楽しく写真を撮ることが目的だということに旅行中にようやく気付くことができ、
その直後にすももに向けて言った「……星空なんかより、このすももの横顔の方がずっときれいだ」という台詞が心に刺さりました。
カンナが生き甲斐を見出し、なおかつすももに向けて最高の誉め言葉を送ったこの瞬間が、case3のピークであるようにも思えます。
こんな告白反則レベルでしょ……。
このcaseのテーマから想像しうる最高の台詞を見せてくれました。

3人ともなんとかなるの精神で楽観的に生きているように見えて、実はちゃんと夢や目標に向かって近づいているんですよね。
それが終盤、3人がそれぞれの道を歩くことに繋がっていく。
そのためにこの青春の1ページのような時間が必要だったと考えると、なんとも感慨深い気持ちになる。
何も堅苦しいストイックな生活だけが夢に繋がっているわけじゃないと教えてくれる。

最終日にスーツの自分を取っ払ってありたい自分で教壇に立つシーンは大好きだし、
その後カンナがあれこれ言われているすももを庇いに行くシーンも好き。
このあたりはお互いが相手の夢をちゃんと尊重している証拠になっています。
すももはカンナにきちんと影響を受けて、カンナはそのすももを否定させない。
この時点で既に、お互いを尊重し合う空気が2人の間に流れているのが最高です。

最後に2人がなあなあで付き合うことを選択せず、相手に認められるだけの身の丈になろうとしているのが本当に好きでした。
これは特にすももの方が自分に対してそう考えているのかなと思います。
カンナがカメラマンという夢への第一歩を歩き出した瞬間を見てしまっているので、尚更自分が何もしないわけにはいかない。
そのまま教員になるという安定的な選択をせず、ちゃんと自分のやりたいことを見つけて1から学校に通いなおすのは本当に好感が持てます。
ちゃんと好きなことに向き合う姿勢と相当な覚悟がないとできることではないと思う。
それを気づかせてくれたのが教職の実習でのいくつかの出来事というのが、ちょっとだけ運命的にも感じます。

好きなことにきちんと向き合うのは楽なことばかりではないと思います。
カメラマンは特に誰かに認められないとやっていけない世界だし、すももの踏み入れた世界も教職と比べたら競争のある世界だと思う。
そんな世界でも2人はリスペクトできる相手の存在があるからこそ、
その人に認めてもらうために好きなこと、やりたいことで生きていくという選択をできるようになった。
2人が出会った結果こういう人生を選ぶことができたという事実がとても素晴らしくて尊敬の念しかありません。
好きなことと向き合って生きている人の眩しさは何度見ても震えるものがありますね……。