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nezumoさんのMUSICUS!の長文感想

ユーザー
nezumo
ゲーム
MUSICUS!
ブランド
OVERDRIVE
得点
85
参照数
2007

一言コメント

プレイ中、よく分かりませんがずっと人生について考えさせられていました。長文は選択するということについて。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

今を生きて、真剣に未来を選ぼうとするキャラクターたちの人生に魅了されてしまいました。
今を精一杯生きて、ある程度は妥協して選択して、ちゃんと自分の選んだ道を責任を持って生きていくっていう、
まあ言うだけなら簡単なんですが、選択肢によっては今後の人生が大きく変わってしまうようなものもあって、
ゲームの中なのにまるで自分の人生の選択肢を選ばされているような気分になりました。
選択肢の中には本当に真逆の人生になってしまうものもあったりするわけです。
それを人生の選択を誤ったと捉えるか、それとも自信を持って選択した結果だと捉えるか、そのあたりも難しいところです。

選択肢自体が一見人生に多大な影響を与えるようには見えないんですが、それでも後々しっかりと影響を与えるのが大変意地悪です。
これはどうしてもその当時の自分にはわからないところで、現実の自分にも当てはまるようで辛いものがあります。

特に顕著だと思えるのが、三日月√と澄√の落差ですね。
この2つのお話で主に異なるのは、自分たちのライブに対する価値観の持ち方、そして花井さんの遺作をどうするかという2点になります。
逆に言えばここでどう人生を選ぶかによって最高にも最低にもなります。
そしてとにかく澄√側の展開は非常に正確が悪い。妙にリアリティがあるのも相まってとにかく怖いです。

片方ではメジャーデビューから軌道に乗り、一度は三日月の挫折を経験するけれども、
そこからまた這い上がって戻ってくるところまでが描かれている。
自分たちが音楽をする意味、やりたい意味までも見つけられて、正直生き方としては完璧に近しいくらいです。
2人は別れてしまいますが、それも同じ音楽の世界に生きる中で納得して出した結果なら仕方のないことです。
別れることすらも軌道に乗っていると思わせてくれるところが、澄と比較した時になんとも皮肉な演出に見えます。

もう片方では、自分たちの売れ筋を探り、自分の求める音楽に拘り続けた結果として、
少しずつ世間の感覚を取り入れることを忘れ、自分の世界に浸りっきりになり、
澄というファンこそ獲得するものの、ギリギリで死にかけの生活を強いられることになる。
花井さんもそうなんですが、澄は本当に何を考えてるか分からないのも辛いところです。
自分の死に納得しているのか、そうでないのか、2人ともそれが分かりません。
果たして主人公の音楽がちゃんと好きだったのか、それとも放っておけない気持ちから主人公への依存が芽生えたのか、
もしくは他に理由があるのか、そもそも澄が幸せだったのかどうかすら分かりません。
死んでしまって可哀想だとか、主人公が言う俺が澄を殺してしまったから云々というのも、
澄が実際完全に満足して死んでいったならば、それは他の人から見た野暮でしかないからです。

それはともかくとしても、このシナリオは本当に趣味が悪いです。
主人公は結局自分のやりたいことを極めようとしているだけで、何も悪いことはしていない。
当然それは澄もそうで、たまたまこういう人を好きになってしまったというだけで、死ぬ理由があったわけではない。
ただ周囲の環境がちょっとずつ噛み合わなくなっていって、世間との歯車がズレていく。
最初はちょっとのズレだったものが、日が経つにつれて、自分の心境の変化を伴ってズレを拡大させていく。
気づいたときにはもう遅くて、2人ともどうしようもない状態になっている。
これが本当に性格の悪いところで、誰も悪くないのに、緩やかに破滅していく最悪の終わり方が生まれてしまいます。

最高になるも最低になるも、結局は運命の巡り合わせでしかないような気もしてくるのですが、
どんな状況であれ、こうまでして自分の好きなことを好きでい続けられ、仕事として続けていけるのは、
本当に羨ましくあり、到底真似できないなと思うところでもあります。
最終的にどうなろうが、そう思わせてくれるような真っすぐな人生であることは間違いないんですよね。

どんな未来を迎えようが、これだけ読みやすく、実際にこんな話があるかどうかはともかく、
これだけリアリティをもって描けるのは、やっぱり流石だとしか言いようがないです。
後に引きずるようなバッドエンド、逆に余韻を引きずらせてくれるような三日月√など含めて、
最初から最後まで面白く大満足の素晴らしい作品でした。