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nezumoさんのソラコイの長文感想

ユーザー
nezumo
ゲーム
ソラコイ
ブランド
Chelseasoft
得点
90
参照数
1809

一言コメント

自分は上手くこの作品に動かされてしまったのだと思います。でもそれも含めて、この作品が大好きです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

結局、脇役は脇役でしかなく、本当の意味で物語の主役になることはできない。
けれども主役に近づくことはできるし、脇役として出来ることがあるし、主役を引き立てる役目がある。
とか言いつつもやっぱり脇役がスポットライトを求めちゃうのは当たり前のことで、それも含めて脇役が脇役でいられる。

しかし、脇役が脇役でありながら心から主役を求める時、時にインパクトという観点で主役を超えてしまうことがある。
これが自分の考えるところの「メインキャラよりも印象的な脇役」であり、恋愛というよりもむしろ、物語として心に突き刺さってくる。

そんなこんなでこの作品は、脇役として映画の中に入ってしまったはずのソラが、全ての後悔を払拭してまた新しく歩み出すお話。
恋愛としてはタクトとヒカリの組み合わせが正しい。けれどもこの作品は全てがソラのためにある。
色々終わってからこの作品を眺めてしまうと、タクトとヒカリの恋愛すらも、むしろ他のヒロインなんて全員踏み台上等、ソラのために存在したと言ってしまってもいいくらい。
(少なくとも自分はそう捉えているので、一応この前提のもとで感想を書いています。)


ソラを中心として見た時に、アイリ√とナミ√に関しては特に言うことはない。
でもちょっとだけ話すと、アイリ√に関しては、告白シーンの「演技をアドリブで本命の告白に変えちゃう展開」とかは結構好きで、
その後2人でお互いに影響し合いながら夢に向かって歩いていく姿とか、最終的に2人で夢を叶えちゃうところとか、本当に綺麗だなと素直に感じた。
アイリとしてはタクトの描く映画に女優として出たかったのだろうし、それが大きなモチベーションになっていたのも間違いがない。
アイリ√はタクト的に見ても、一応ひとつのゴールの形にはなっているのだと思う。
映画監督として恋人を主演に迎えられることがどの程度凄いのかは分からないけれども、努力して勝ち取った2人だけの幸せの形である。

ちなみにナミ√に関しては自分から話せることは本当に何もない。
ナミさんはCVも相まってそこそこ可愛いけど、設定が設定なので映画とは関連が薄いのもあって、4人のヒロインの中じゃ結構不憫。
失礼な話、攻略対象というよりかはヒロインたちを見守るサブヒロイン的な立ち位置の方が輝いているまであるので、個別√の印象が圧倒的に薄い。


そういうわけでヒカリとソラについての話に入りたい。
というかメインはあくまでもソラなわけで、ヒカリはメインだけどメインではないみたいな。
「ソラの都合の良い駒として扱われている」という程ではなくとも、ソラを輝かせるための踏み台になっているのは事実なので、
途中まででヒカリが好きだとソラ√終わった後モヤモヤしそう。
ソラの不自然さに気づいてヒカリ√に集中できなかった場合、この作品に関しては逆にその方がいいのかもしれない。

こんなのはもう当たり前のことかもしれないが、「ヒカリ√は現実世界でのソラが本来送るはずだった日常。及びその先」である。
いわばソラがこうありたかった理想を描くだけのお話。終わってしまえばそうとしか見えないのは仕方がない。
幼馴染という距離感にすがりつつも、やはりタクトが好きなヒカリは告白してしまい、結果的に付き合うことになる。
ヒカリが幸せであることは言うまでもないし、タクトも病気で命を落とすことがないので勿論幸せになる。
この当たり前の幸せを噛みしめられることどれほど大切かを後で思い知ることになるわけだけれど、とりあえずヒカリ√は単体で見てしまえば普通の萌えゲーと変わりない。

「ヒマワリと恋の記憶の裏側の作品」という話をどこぞで耳にしたが、亜依√も(茜の失恋描写を除けば)同じなので、それは概ね合っているのかな。
ただ、告白シーンまでの一連の流れから、ヒカリが告白するまでにどれほど悩んだかが読み取れる。
ヒカリが昔のソラの成長した姿だとして、いかに好きという気持ちを伝えることを躊躇ったかが分かると共に、後悔の度合いが見えてくる。
悩めば悩むほど成功した時の喜びは大きく、失敗した時の悲しみも大きいが、それ以上に告白できなかった場合にとんでもないほどの後悔が募ってしまう。

この作品がずるいのは、ソラが何かを握っていると匂わせつつも、ソラ√以外ではソラが結構潔く引いてしまうこと。
失恋描写に関して言えば、もっと表に出して、極論泣いてくれても構わない。
けれどもソラは案外大人しく引いてしまって、あれだけのものを抱えていながら全然感情を表に出してくれないのである。


そして本命のソラ√。
結末はよくよく考えれば描写不足感満載だし、今までの√を考えるとなんとなく締まりが悪い。
けど自分はこの結末が大好きで、「ソラのために全てを捧げてやり切った」感じが滲み出ていて本当に好き。

ソラには心からの後悔があった。それが生きているうちにタクトに告白できなかったということであり、その次にタクトと恋人生活を送れなかったこと。
また、タクトを幸せにすることができなかったこと。幼馴染という立場を考えれば、幸せそうに映画を作るタクトの姿を見たいと思うのは当然だろう。
ヒカリ√の流れ的に考えれば、告白さえできれば本当は恋人になれたわけで、告白できなかったという事実が一番のネックになっている。

この√に関しては、ソラはそもそもタクトの方から自分に告白してくるとは思わなかったのだろう。
ソラが描く物語の道筋を考えれば、ヒカリがタクトに告白して付き合い始めるのが理想であり、
しかもヒカリがタクトに想いを寄せているのは分かっていたし、ヒカリが告白できずに終わる方がソラとしては、自分が付き合えないことよりも後悔の残る内容なのである。

それでも結果的に付き合い始めてしまったのは、自分に好意を向けてくれるタクトを裏切りたくない、タクトを幸せにしたいという気持ちが強かったのだろう。
ソラがタクトを好きな気持ちは今でも変わらないし、ヒカリではなく自分を見てくれているなら、やっぱり付き合いたいと感じた。
勿論後悔したくないというソラの言葉はこの時点では間違いなく事実で、タクトと付き合いたい気持ちもかなり強い度合であったはずだ。
けれども結果的にそのおかげでヒカリに過去の自分と同じ気持ちを抱かせてしまう。
それでも、付き合い始めた時点でソラにはやらなければならないことができた。
タクトに自分の手で幸せを与えた上で、ここからタクトが映画監督としての道を歩き始めるのを見届けることである。

優秀賞の賞状を貰った時、ソラはタクトを幸せにできたという確信を持つ。
同時に、ソラの満足と共に映画も終幕へ向かう。
今までの個別√が映画の終幕を感じさせなかったのは、ソラの意識の外側で物語が進み、もはや映画の中に入り込んだソラの関与するところではなかったからだと思う。
詳しくは描かれていないが、他の個別√ではソラはいつの間にか消えて行ってしまうのかもしれない。

ここで最後に自分が本当にやりたかったこと、「過去の自分の投影であるところのヒカリに告白させる」ということを実行しようとする。
あの時できなかったことをするためにソラはここまで色々なことをしてきた。
その最後の課題が、ヒカリには過去の自分と同じような後悔をしてほしくないということ。
ここで大事なのは、自分が告白するのではなく、絶対ヒカリに告白させたいということで、このあたりからソラの当時の後悔への拘りが伺える。
何が何でも自分自身にやらせたいのである。(この映画の登場人物からすれば)イレギュラーな存在である自分がやってしまっては意味がない。
タクトとヒカリの恋愛がこの映画の主役であり、あくまでも自分はこの先ずっと映画の中にとどまれるような存在ではないからだ。
これでソラがやりたいことは全てやり切って、ソラの目的(=あの時できなかった後悔を繰り返さないこと)が達成される。

この時点で、ソラ√が今までの物語全てをひっくり返す。

結局は、ソラが過去の自分(たち)をモチーフにした映画に入り込み、自分の好きなように荒らして去って行ったという自分勝手な物語に過ぎない。
脇役としてヒカリとタクトを付き合うことを目的にしてきたソラが、偶然自分に向いた好意を受け入れてタクトの幸せな顔を拝み、最後にはヒカリに告白させて映画が終わる。
どう考えてもソラ1人を意識して作られたとしか思えないし、少なくともヒカリ√に関しては完全にソラのためにある。
そのくせ恋愛物語としてはタクト×ヒカリが正解であり、ソラは蚊帳の外の人間であるはずというのがまたなんともモヤモヤさせる。

ちなみに、最後にヒカリが告白を成功させた場面で終わり、その先の映画の物語がないのは、ソラにとってその先の物語を見る必要がないから。
おそらくヒカリは振られたのだろうが、そんなことは本当にどうでもよくて、自分の投影が想いを伝えることができたというその事実だけで満足なのである。
まあ自分がいわゆるその先を体験してきてしまったというのもあると思うが、なんというかこういうことを考えるとどこまでも自分勝手な女だなとかそんなことも思わなくはない。


結論としては、絶妙な描写不足や答え合わせで最高の余韻を与えてくれたこの作品が大好きです。
ソラのエゴを作品からかなりの割合で感じながらも、どこか人間の本質をついたような振る舞いや心情を感じる。
世界は自分を中心になんて回っていないけれども、ソラコイはどこまでもソラのために描かれた世界で、最後までソラだけを表現する。

全てはソラのために、たった1人の後悔の物語を表現するために、作品全体を踏み台とし、それを描き切ったということに、自分は本当に感動してしまった。
全体的に短かったり、理解するのに2週目を要してるとしか思えない終わり方だったり、ナミさんの不憫さだったり、フルプライス作品としては少し粗が目立つ。
しかしソラの視点では、この作品は全然中途半端ではなく、むしろやりたかったことを映画という特殊な舞台の中でやり切って達成している。
言い方は悪いが客観的に見れば、過去に囚われて立ち止まってしまった自分とお別れするために、ヒカリなど利用できるものは全て利用されている。
中途半端にヒロインを踏み台にしただけでは絶対に表現できないような、「ソラコイ」という作品ならではの美しささえ感じるのである。