文句なしの雰囲気ゲー。書きたいことは沢山あるけれども、とりあえず「好き」って言いたい、そんな作品。
この作品をプレイする際には、是非何の先入観もなくプレイしてほしい そして、この圧倒的な雰囲気の良さを感じてほしい、というのが第一に言いたいことである
(いや、ネタバレ感想で言うようなことじゃないけど)
まず、起動してすぐ、流れてくるBGMと背景の画像に心が動かされたならば、その気持ちは本物であろう
結局のところ、自分にとってこの作品は雰囲気ゲーであり、雰囲気の良さを最初に感じられなければ、この先を楽しめる保証はないと思うからである
だから、最初に雰囲気の良さを存分に感じることが出来れば、この作品を心から好きになれる
展開を通した牽引力はやはりそれほど大きいわけではない 単純なプロットを雰囲気で魅せ、雰囲気で牽引する
√によって色が違うのは勿論あるが、それを考慮したとしても、ひまなつとはそういう作品だ
√ごとの優劣は特になし
少なくとも自分がプレイした限りではどれも高水準だったので、まとめてこの点数である
共通√
自分としては、とりあえず一気に読み切ってしまったのが共通√である 8年ぶりに故郷へと帰ってきて、当時の仲間といろいろなことをして再び遊ぶ
田舎特有の雰囲気の良さというのは、こういう何気ない日常に出てくる部分が大きい 何気ない日常なのに、ずっと眺めていたくなるような、そんな感覚
いや、何気ない日常だからこそずっと眺めていたくなるのだと思う 展開に左右されず、ただただ月日が流れていく
月日の流れを、読ませる展開ではなく、日常をもって感じられることそのものが幸せなのである そういう意味で、共通√の雰囲気は最高だった
(勿論、この先雰囲気の良い√、特にヒナ√について更に雰囲気の良さを語ることになるが、それはまた別の話である)
ただ、この共通√に問題点があるとすれば、主人公が8年ぶりの故郷に順応するのがあまりにも早すぎるという点だろうか
自分が読んだ限りでは、一切のブランクを感じさせない復帰っぷりである このあたりはもう少し時間を取っても良かったとは思う
もしかすれば、物語の展開上、プレイヤーが好きそうにないウジウジした展開は省く運びになったのかもしれない それならそれで構わないが
仮に省かれていたと仮定しても、主人公と他のヒロインが遊ぶ日常の雰囲気の良さは先述したように本物である
自分にとってこの雰囲気の良さが特別であることは言うまでもないし、この時点で物語に相当量没入していたのは事実だ
ルカ√
雰囲気の良さが魅力である今作において、この√はかなり異質に感じた なんでも、展開が非常に面白く、そのくせ日常会話も面白い
最初は「なんかエロそう」としか思わなかったメールから、ルカの根幹の部分に迫っていく
なにより、相手が見えない存在であるために、緊迫感がある 目に入るものだけを見ている限り、プレイヤーも主人公も、青バラの存在に気づくことができない
青バラのやっていることがもう少しなんとかならなかったのか、といえばそうなのだが、そんなことは抜きにしても非常に読んでいて面白い展開である
特に青バラが消える直前の、青バラが意表をつかれたことを認めるような台詞は結構好きである
単純に悪役であるならばあのような台詞は絶対に言えない
掌返しと言えば掌返しだが、青バラがルカのことを相当心配した様子が伺えるのは、自分にとってはかなり良かった
詠√
日常会話は共通に引き続き非常に心地よい しかし、他のヒロインとはまた違った心地よさがある
他のヒロインと違うように感じるのは、詠と主人公が通じ合っている感じが出ているからだと思う
一番長い付き合い、という設定が大きく効いているのだろうか この2人の会話には安心感以外を覚えない
対等な関係の仲間でありながら、どこか達観した会話が見られるのは、主人公と詠の会話だけだろう
物語としては非常に簡素であり、展開も単純である しかし、魅せ方が非常に上手い
伏線の回収の仕方、詠に迫る選択、恋の始まり、全てが一気に押し寄せてくるので、瞬間最大風速が尋常ではない
バス停での種明かしのシーンは、今作でもトップクラスのお気に入りシーンである
あの瞬間、全ての物語が動く あの"希望"のバス停で、詠は消え、黒猫は詠になり、主人公は新たな詠を愛することを誓う
これだけの内容をあの一瞬のシーンに詰め込む 心が動かないわけがなかった
自分は雰囲気の良さに魅せられ、物語に没入しているわけであり、それを考慮しても、このシーン以上に色々な感情が押し寄せてくるシーンはまず中々見ることができない
ちなみに、ED後のエロラッシュは、悪くなかったと思う
詠√としてはどうなんだ、というところではあるが、エロ本を読んで詠がえっちを勉強する場面とか結構面白かったし
ヒナ√幼少期
個人的には、今作最強の雰囲気の良さだった つまるところ、どこまでも終わってほしくない日常会話を感じることができた
共通から続く、幼少期のヒナに色々なことを教えていく展開は、それこそ特に展開するわけではないものの、心から「終わってほしくない」と思える
この幼少期√で一番好きなのは、教会の屋根から転落するシーンと、その後のヒナの心持ちの変わり方である
雰囲気の良さだけで動かしてきたヒナ√が一番動く場面だと自分は思っている
ヒナは屋根の上に登ることを特別危ないことだと認識していない それどころか自慢しようとまでする
実際、これで主人公は直で地面に落ちるわけで、ヒナも反省しなくてはならない
だがこのシーンの後、ヒナはしばらくの間反省しないし、謝らない そこに妙なリアリティがある
しかし、ヒナが主人公が物凄く心配していたということを真に理解するとき、この一連の流れを省けない理由が分かる
子供の成長において、失敗は欠かせない 少し大げさではあるがそれを例として実際に取り上げたのが、このシーンなのだと思う
言うなら、ヒナの成長の一コマであるということだろうか まあ何にしろこの展開を抜けて2人の絆が深まったのも事実で、それはそれでまた微笑ましい
ヒナ√10年後
余談だが、自分は成長したヒロインの姿を見るのが大好きである 立ち絵も変わり、性格も変わり?、大人になる
そこで、幼少期を懐かしんでみたり、昔は~とか、以前は~みたいな昔の話をしたりもする
そういう懐かしさみたいなものを感じる瞬間が少しでも存在するからこそ、その一瞬を見たいがために、自分はこういう物語が好きなのである
そういうわけでこの話も自分にとっては最高の一言 ついでに、ヒナはこっちの方が可愛いと思います
10年の月日を超えて必死にヒナを育てる主人公、やはりヒナを子供に見てしまう主人公、流石にそろそろ大人として認識してほしいヒナ
やはり何よりテキストが上手い 展開は父子→恋人への認識の変化、恋の難しさや結ばれるまでの苦悩などを丁寧に描く
たったそれだけのお話なのに、心がとても温かくなる いつまでも終わってほしくないと思える いつまでも二人の日常を眺めていたいと思える
エピローグ最後の1枚絵なんか、本当に素晴らしい 月日は経ち、2人は成長するけれども、いつまでもその関係は変わらない
それどころか、家族を増やして更に幸福に生きていく お互いが、ヒマワリの花言葉「私はあなただけを見つめる」に沿うようにして
好きなシーンは、ラブホテルでの会話のシーンと、夏祭りの後海岸でキスをしてしまうシーンだ
ラブホテルでの会話のシーンは、何故か今作で一番泣いた場面でもある
何気ない日常会話から始まり、結果的にはお互いがお互いを大切に思う気持ちを再確認する
ラブホテルのベットの上なのに何も起こらず、それどころかよりお互いを知ってしまうという、ギャップが最高に良い
むしろ、ヒナと、それもラブホテルのベッドの上の話だからこそここまで感動できたのかもしれない
ごく普通の会話の中で、ヒナの誤解を解き、自分に言い聞かせるようにしてヒナへの愛情を語る主人公
語彙力がないので上手く表現は出来ないが、「非日常の中に現れた唐突な日常」という表現でもしておこうと思う
何気ない日常会話のはずなのにこれだけ魅せることができるのは、圧巻の表現力である
夏祭りの後のキスのシーンは、これは言うまでもないだろうが、この瞬間こそが2人が求めていたものなのだと自分は認識している
思い返せば、この前後にも、主人公がヒナを養子に取ることに対して疑問に思う描写もそこそこされているわけでだが、何故だか行動に移す場面は一切ない
しかし、この日の夜だけは特別だった 何も考えず、いや、何も考えられず、ただヒナだけを感じて、キスへと移行する それも家族でやるようなものではない、それこそ恋人のような
勿論、ヒナも無意識的に受け入れる よく考えず、ただ体の感じるがままに だからつまり、ヒナも無意識に恋人としてのキスを求めていた
無意識的なキスは罪なことではあるかもしれないが、同時に、体の素直な反応の表れでもある
そういう意味で、このシーンは「無意識が生んだ魔法」である 自分の好きなユメミルクスリの言葉を借りるなら、「どうしてか一瞬だけ見えた妖精郷」だろうか
一続きになっているはずの物語に唐突に表れた無意識の魔法は、物語の展開に彩を与えてくれた そういう意味で、自分はこのシーンを全面的に肯定したい
最後は2人は結婚という形で長い夏休みの物語は幕を閉じるわけだが、このシーンは今後の2人にとっても、いつまでも特別であり続けるだろう
幼少期の続きにはなるのだが、10年後の話でも教会の屋根から落ちるシーンがある
こちらは完全にヒナが危険を理解した上で、それも自分の幼少期を再現するために屋根に登ったわけだが、これについては少し複雑な心持ちである
落ちる必要がある理由
・ヒナの成長を認識するために、幼少期と対比させたかった
・完全なハッピーエンドを迎えるために、2人が奇跡にまでも祝福されているということを表現したかった
落ちる必要のない理由
・ヒナが幼少期の気持ちを理解するためなら事故までは起こす必要がない
・別に2人が落ちなくてもお互いの気持ちの確認は出来ている
自分の中に両方が混在しているので、どうも複雑である あそこで落ちることはある意味シナリオ通りではあるのだが、やり過ぎとも言えてしまう
もう少しやり方が違えば感想も変わったのだろうか
幼少期に主人公の頑張りを演出したのに、10年後にはただの奇跡で終わってしまったことに、自分が物足りなさを感じてしまっているだけかもしれない
また、ヒナとは関係がないが、この√における月子ちゃんが見ていて非常に辛くなった
主人公に対する恋心を前に出そうと頑張りつつも、やっぱり主人公のことを応援する気持ちもあり、なんだかんだで最後には祝福してくれる…
こんなに良いくっつけ役が脇役止まりなのが残念で仕方がなかった もう少し光が当たっても良かったのではないかとは思う
それでもやっぱりこの作品は詠とヒナがメインなので、終わってみれば不思議とそんな感情もどこかへ飛んで行ってしまったけれども
詠√とヒナ√の対比について
詠√とヒナ√は、ある意味真逆の位置にある
黒猫が詠として生きるか、ヨミとして生きるか、この違いが詠√とヒナ√の違いであるが、ヒナ√では直接この選択は見ることができないため、そこは詠√に準ずる
詠√では詠は人間となり、主人公との時間を紡いでいくし、ヒナ√では詠はヨミとなり、2人の時間を見守っていく
ヒナを中心としてこの2つの√を見るならば、これは真逆である
詠√ではヒナのその後を見ることは出来ない 10年後のヒナはそれこそヒナ√だけでの話であり、これは唯一無二である
つまり、「物語上でヒナが排除されるかされないか」という意味で、この2つの物語は真逆である
自分がこの教会の物語の全てを見ることができるわけではないので一概には言えないが、詠の幸せという観点で見れば、一概に真逆という訳ではない
詠√では詠は人間として生きる これはそうなのだが、この先の幸せは人間としての幸せである
愛する人と共にある幸せ、黒猫である自分が詠の家族に認められる幸せ…すべては詠が人間となることで得た幸せ
ヒナ√では詠はヨミとして生きる この先の幸せは、ヒナに寄り添うことのできる幸せ、いつまでも(以前に愛した)主人公と一緒にいることができる幸せ
黒猫として生きる上で、全てを諦めたかのように見えるが、自分はそうはなっていないと思う
おそらく、黒猫として生きる選択をするというのは、相当な決断だったに違いない
ヒナ√なのでそこは省かれているが、詠√での決断のシーンを見ていると、そんなことを察してしまう
だが、それも姿かたちが変わっただけである 詠√とは違って、今度は2人の幸せを眺め、時々介入したりして、ヨミとして幸せに生きるのである
ヨミはヨミとして愛されるし、詠である限り絶対に見られなかったであろう風景を見ることができる それはそれで一つの生き方であるし、間違いではない
つまり、自分は「詠はどちらにしろ自分の生き方に満足してる」と思う なんだかんだでヒナの為に頑張ってしまうのは、充実感故のことであるに違いない
また、ヒナ√でも時々ヨミに感情移入したりもしてしまっていた
一見不憫に見えても、「やっぱりヒナが好きなんだな」とか「やるじゃん」とか考えたりもして そんなヨミも大好きです
総評
やはり、いつまでも読んでいたくなる日常会話が素晴らしい、これに尽きる(何度も繰り返し書いてしまったけど)
拙い文章ではあるものの自分の気持ちや感想を並べてみたが、「好き」とか「素晴らしい」の一言に収束してしまう
実際、そのくらいこの作品は語るのが難しい テーマが漠然としていたり、それこそ展開の牽引力が小さかったり、感情ベースで物語が動いたり
最高の雰囲気 自分の感情を飲み込んで途端に感情移入させてしまうようなテキストや世界観…
言葉に出来ない部分で、なにか強く感じるものがある 自分にはそれを言葉にすることは出来ないが、この作品が好きであるというこの感情は本物だ
暑い夏の季節を存分に感じながら、もしくは、夏の終わりにどこか物寂しさを感じながら、この作品をプレイして、この作品の雰囲気に魅せられてほしい
そうすれば、文字通り羽根の休まるエロゲライフが送れることであろう
暗くなるまで外で遊んだ遠い夏の記憶が思い起こされながら、「たまには夏の暑さも悪くない」などと感じることができるかもしれない
…ちょうど夏終わっちゃったけど
あと詠が大好きです