柊家はコメディ、一条家はホームドラマか。色色と気になるところもあるが、間違いなく良作でおもしろかった。
『姉、ちゃんとしようよっ!』のタイトルを冠しているおかげで良くも悪くも注目を集めていた今作。
タカヒロさんの描く姉しよと、かずきふみさんの描く姉しよには顕著な違いが現れたと感じた。
タカヒロさんの柊家には要芽を筆頭に超人変人だらけ。そんな登場人物が織り成すハチャメチャな展開は、まさしくコメディ。
そして今作の『もっと、姉ちゃんとしようよっ!』の一条家。主人公含め一条家の人々は皆普通の人。
そんな一条家が織り成す物語は温かいホ-ムドラマであった。
ヒロインの中でも特に秀逸なのが一条鈴音だと思う。
鈴音を演じているのが理多さんという事もあり、鈴音ルートの展開は素晴らしかった。
咲坂ひだりとなり、母親との絆の為に慣れないアイドルを懸命にがんばる鈴音。
主人公の空回りっぷりや、挫けた鈴音を支える主人公の格好良い姿。
学園祭での鈴音のカミングアウト、流れる咲坂ひだり=理多の歌。
感動した。
一条澪緒も良かった。
守っているつもりが実は守られていたという展開も胸を打つものがあった。
走馬や千鳥と同じく、麒麟児に教えられるまで気づけなかった。澪緒もやっぱり姉だったのだと。
この作品は間違いなく良作だ。
ただただ無念なのは、この作品が過去作である姉しよを引きずってしまったのだということだ。
姉しよともっと姉しよは完全に方向性が違う。故に、もっと姉しよで姉しよをすると異物にしかなりえないのだ。
過去作である姉しよの中でも異彩を放っていたヒロインが居た。柊巴である。
彼女は柊家の中でもまとも過ぎて、おかしな事に逆に浮いているキャラだと感じていた。
そんな柊巴だが、実は日夜怪物と戦っている変身ヒーローであり、やっぱり柊家の一員だったのだと納得できた。
これはコメディが主体である柊家だからすんなりと受け入れる事が出来るのである。
これを一条家でやっちゃうと駄目だ。世界が壊れる。そしてやっぱり壊れた。
一条境の立ち絵が画面内に初めて現れた時に直感した。こいつが柊巴の立ち位置か、と。
姉しよの名を冠しているのだからそういう物なのだろうと軽く考えていた。
ゲーム序盤は何も感じなかった。しかし、プロローグが終わる頃には当初持っていたもっと姉しよに対する認識が変わっていた。
主人公の走馬が何故家族から一人離れ、北海道で進学していたのか?
何故家族に対してここまで卑屈なのか?
「僕はここに居てもいいんですか?」
これは姉しよとは違うのだな、と。
この主人公には色色とやきもきさせられたが、何故こんな性格になってしまったのか理解は出来るのでそんなに嫌いでもない。
この主人公が自己のトラウマをどう克服するのか?個性豊かな姉たちとどのような関係を築いてゆくのか?千鳥や麒麟児の活躍は?
うん、大いに楽しませてもらった。おもしろかった。
あらかたのヒロインを攻略し終え、もっと姉しよの世界をほぼ理解できた故に攻略するのが躊躇われていた一条鏡のルート。
予想はしていた。予想はできていたんだ。むしろその予想は外れてくれる事を祈っていた。
しかし直感は正しかった・・・
主人公は厨二の痛いキャラに成り果て、母親が亡くなったのは実は怪物の所為でしたという酷い事実の判明。何も残らないどうでもいいクソ展開に鏡と一緒に主人公も怪物狩りを続ける事になりましたクソな結末。つよきす2学期の瀬麗武も登場。
もう色色と台無しだ。どうしてこうなったをリアルで呟いた。
鈴音と澪緒の感動や一条家の絆や千鳥や麒麟児との友情など、築き上げてきたもっと姉しよの世界観がぶち壊される程の破壊力を持っていた。
鏡も良い姉なので、どうせならまともな展開を楽しみたかった。
鏡はハズレを引かされたようなもので被害者ともいえるだろう。
プレイするなら鏡ルートを最初にお勧めする。間違っても最後に残さないように。
タカヒロさんが抜けて低迷が続くといわれているきゃんでぃそふとだが、今作はアタリだった。次が楽しみだ。
今作も面白かったし、個人的にメカミミも好きだ。
きゃんでぃそふとにはタカヒロさんの遺産に頼らない、引きずられないでオリジナルの新作を期待したい。