開始数分も経たずにその文章力の高さに感嘆の声が出る。暴力的で素直になれない妹の存在や、心を揺さぶるシーンに沿った音楽、これは語り継がれるべき作品だと思い始めていたところで、表と裏のエロが共に、突然急カーブにぶち当たったかのようなハンドリングを強いて眩暈に似た感覚を植え付けさせる。
冒頭からインパクトのある展開で妹に執着がある人間には気が気でない感情を引き起こさせられる。
時期的にも実妹を描くことが出来なかったと思われるがそれを逆に存分に生かした内容は
複雑な家庭環境を正面から捉え、妹との交流は時に笑いを時に涙を誘う。
グラフィックや音楽はさすがに16年も前の作品ということもあり時代を感じさせるが
ことテキストに関しては昨今のエロゲ不況とも言われる状況を頷かせるほどに眩しく映ってしまう。
寝取られルートがあると知り、それを目的でプレイしていたものの
余りに心を突き刺すような妹の兄に対する言動や行動は、自然と「良い選択肢」を選ばせる力を持っていた。
声優に関しても、声質は各キャラクターにピッタリとハマっており
特に妹はそのツンツンとした性格をより引き立てていて演技それ自体も悪くない。
となると自ずとその先の展開、もちろん寝取られも含めたエロに期待が高まっていくのだが、
そのエロにこそ最も難点をはらんでいた。
その難点とは、一言で言えば唐突さ、である。
このゲームではエンディングが11個も用意されているのだが
多くのプレイヤーが最初に行き着くであろう妹との通常エンディングのルートが顕著で
ある日突然、妹が、主人公の男友達にクラスメイトの前で「エッチなことしても良いよ」と発言したり
その後、妹が主人公に告白した時には、主人公が何のムードもそれに対する言葉もなく胸を揉み始めたりと
急ハンドルとしか言いようのないシナリオ運びを展開させる。
グッドエンディングは別で用意されているので、あくまで脇道ルートとしての扱いなのだろうが
それまで丹念に描写していたキャラクターの心情などが破綻したような印象を受けざるを得ず
思わず頭を傾げてしまった。
それに加えて、本来の私目的であった寝取られルートに関しても
同じくエロへの道筋や内容があまりに唐突でキャラクター心理から逸脱しているように感じられた。
簡単に事実だけを書くと、
まず決行初日にそれまで関係を築いていた寝取り男が妹を騙し半ば強引にキスと愛撫をするのだが
その次の日の本番(破瓜シーン)では最終的に妹は完堕ちして自ら妊娠をせがむような状態で
さらにはその足で学校の屋上へ移動し兄の目前で静止も聞かずに寝取り男にフェラと本番を行うという流れである。
この間に描かれていないシーンなどは無く、つまりは2日間、青姦x2屋上x1のたった3シーンで
他の寝取られゲーがシナリオの大部分を使って描くほぼ全てをやり遂げてしまっていることになる。
勿論、寝取られが主流ではない時期の作品ではあるし
そもそもこの作品自体が寝取られをメインにしているわけではないのは分かるのだが
余りに妹の心情の移り変わりが早く、突拍子もないというのが素直な感想だった。
ちなみに、先に書いた通常エンディングでは主人公と妹が野球部の練習前にエッチするシーンがあるのだが
行為の中で道具のバットを使ったりと、本編で散々野球への愛を語っていた発言を
まるで蔑ろにしているように感じてしまった。
主人公が尊敬する鈴木次郎は道具を大事にすることは教えなかったのだろうか。
また、グッドエンディングルートのエロシーンでは主人公のペニスの長さを
「30cmくらいある」と驚くのだが、寝取られルートでは「あまりに粗末」と話したり
ここでもある種の齟齬が見られる。
寝取り男が大きすぎる設定なのかもしれないが
いくらゲームといえど本編では心情等リアルな描写を行っているわけだから
エロ周りも、もう少し現実的な描写をするべきなのではと思ってしまう。
細かい点だがそういった所も含めて
エロが本編から逸脱している。もっといえばまるで他の手が加わっているような印象さえ感じてしまう。
おそらくそれはエロゲ、もといアドベンチャーゲームとして最も避けるべきものではないのか、と
個人的には思えてならない。
これまでエロゲはエロがあってこそエロゲと思っていたが、ここまでエロが本編に水を差している作品は初めてで
「濡れ場必要なし!」のタグをクリックした最初の作品になってしまった。
もしこれでエロがしっかりと道筋をつけて無理なく描かれていたら
80点は問題なく付けていたということを書いておきたい。
堕ちる過程:C わずか2シーンで完堕ち(寝取られルート)
寝取られ:C 稀に見る即堕ち。あまりに唐突で説得力が無い
濡れ場必要なし!:B 唐突なエロ表現