「鏡」とそれに準ずる「水面」が多く登場することから分かるように、自分自身と向き合うシナリオが特徴。 「学校の七不思議」要素は内面をさらけ出す舞台設定であり、適度な緊張感をもたらしている。Ver1.1でも誤字脱字等のミスが多く、読み込む気にはならなかった。
■人格に関して
女の人格を「睦月」、男の人格を「むつき」と表記。
1.「睦月」から見た「むつき」のイメージが男の立ち絵。
2.どちらが体を支配しても、体は常に「睦月」。声に違和感を覚えるキャラがいないため、声も「睦月」と思われる。
主人公自身も「むつき」という悩みを抱えているため、ヒロインの悩みに真意に向き合える。
個別ルートでは「むつき」の設定を生かせていたと思う。
■エロ
上記の設定のため、エッチシーンにおける体は女×女の組み合わせしかない。
だが、心が「むつき」に切り替わった際にCGも「むつき」に切り替わるシーンがある。
現実には存在しない「むつき」の体のイメージを具現化するのは不自然に思えた。
上記を除けばレズシーンばかりだが、構図の工夫によりマンネリを感じさせなかった。
あおいが主人公以外を食ったり食われたりするのも笑えた。言い回しが独特でエロシーンも結構面白い。
■構成
攻略対象のヒロインの悩みは、睦月の悩みと重なっている。
一番分かりやすいのは「狛江の二面性」⇔「睦月とむつき」の対比だろう。
他3人は「親と向き合う勇気」「今と未来の肯定」「姉妹の救済」
いずれも睦月に必要な要素であり、攻略対象の悩みの解消が睦月の肯定に繋がっている。
スケベな性格の「むつき」は性欲のメタファーだと捉えた。
「むつき」が悪人ではないこと、「むつき」と「睦月」が折り合いを付けたことは、性欲と上手に向き合うことが大切という示唆と取れる。
全てを踏まえて、前向きな結論を下す七海ルートは素晴らしい。
■個別ルート
【晶、あおい】
睦月を中心とした三角関係。
テーマは「ありのまま一歩踏み出す勇気」「永遠ではなく今が大事」
【薫子】
カナコさんの設定掘り下げによる、鏡世界の設定の裏付け。
鏡世界と相互に行き来できることの証明となっている。
【狛江】
睦月と狛江は事情こそ違えど、二面性に悩んでいる。
いずれも自分を構成する要素の一つとして肯定される。
七海ルートのオチに意外性があるのは、本ルートで「二面性」のキャラが登場し、むつきも同じような立ち位置だというミスリードとなっているからだろうか。
【七海】
他ルートで語られた設定のうえに成り立つルート。
複雑になった人間関係が、元の鞘に収まることで解決する落としどころは妥当。
ゆうりが眼鏡をかけていたのは、鏡世界の住民だと自覚していることを象徴するためと思われる。「むつき」は鏡世界の住民だが、自覚がない点でゆうりとは異なる。
そもそも産まれることがなかった「七海と睦月」がオカルトにより特殊な形で出生。
「睦月」は「むつき」と入れ替わる予定だったものの、「七海と睦月」の絆の結び付きが強すぎたために「睦月」は2つの人格を持つこととなる。日常で幾度か使われていた「チェンジリング」という単語はこの伏線。
睦月と七海が離別するに至った原因は「むつき」だが、睦月が七海への本心をさらけ出せたのは「むつき」のおかげ。睦月が他のヒロインの悩みに真剣に向け合えたのも「むつき」を宿していたから。
「むつき」がいなくても七海に本心で向き合えるようになった睦月から「むつき」は切り離されて鏡世界へ帰ることに。妖精のイタズラにより破綻した人間関係は、より強固となって修復されたと言えよう。
■タイトル
メインタイトルの「カミツレ」の意味は花言葉の「逆境に耐える」だろうか。
確かに立ち絵のあるキャラは全員悩んでいる(蜜見は除く)。OP曲「salvation」は「救済」だが、タイトルと合わせて「逆境に対する救済」だろうか。
「蜜見」はカメオ出演のため特殊な立ち位置であり、あまり深く考える必要の無いお遊び要素だと思う。
「7の二乗」は学校の七不思議と、「7(人)の事情」の掛け言葉だと思う。作中では「にじょう」とは読まれない。
メインキャラクターの睦月・七海・晶・あおい・薫子・狛江だと6人だが、むつきを加えると7人となる。あくまで二面性である「蕗絵/狛江」と違い、「むつき」は鏡世界に肉体があるため別個にカウント。
また、鏡世界が自身の存在に深く関わる人物も7人である。
睦月・むつき・七海・ゆうり・カナコ・静住・鈴子
■不満点
重要人物である「静住」の掘り下げがなく、鏡世界の住人の考えがいまいち伝わってこず、「永遠の愛」を否定するに至った過程がまるで分からない。
仲間の助けや自らの意識を変えることで自分を乗り越えたメインキャラとの対比が光りそうなので、ここは掘り下げて欲しかった。
テキストウィンドウに収まりきらず、数文字だけが次のテキストウィンドウに表示される箇所が結構ある。読んでいてストレスになるので、言い回しを変えるなどして1つのウィンドウに収めて欲しい。
誤字脱字や収録ミスが結構ある。
ゆうりが自分の立ち位置を「人魚姫」にたとえたことなど、読み込めそうな要素はまだまだあるが、上記のテキストのミスなどが原因で読み込む気は起きなかった。