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minoruさんのSWAN SONGの長文感想

ユーザー
minoru
ゲーム
SWAN SONG
ブランド
Le.Chocolat
得点
85
参照数
273

一言コメント

恋愛や個々人への執着が主題ではなく、あくまで地震、降雪という未曽有の自然災害で生き残った人々が作る生活環境を濃密に表現していたのが、とにかく凄かったです。そこで生きていくしかないという限界で起こる無慈悲が、どんどんエスカレートしていくことに目が離せませんでした。真剣に考えさせられます。アダルト要素がシナリオの邪魔をせず、嫌味なく絡んでいたのも高評価。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

公僕が機能しない無秩序の中で、歪んだ独自ルールは過激さを増して形成されていきます。
最初の六人で過ごした教会での日々が思えばあまりにも平和で、人間関係のあたたかみがこんなにも身に染みるとはって感じでした。
ファンタジー要素を一切絡めず、災害が起こった事実と登場人物達を真っ向から戦わせていたのが、読み応えの濃さにもよく繋がっていました。
最悪の事態の中、あろえという障碍者の安全も守らなければいけないという状況も、パワーがありました。


複数視点で進める群像劇物としても、各人物の視点で初めて明かされる彼等彼女等の心情が多く、作品としての優秀さにたまげました。
特にクワガタ。
殺人や暴行に一番憤っていたクワガタが、集団を纏めるにあたって効率化を優先させた結果、その残虐な選択を率先して選ぶようになった流れにはゾクゾクしてしまいます。
そして柚香。
純粋の裏を行く腹の底腐っている具合はノスタルジックなレベル。
CARNIVALの理沙といい、瀬戸口さんの描写される絶望した女性でしか味わえない旨味が詰まっていました。
腕力もなければ、抵抗する気力もない。襲い掛かる暴力にも流されることを厭わない無気力な柚香が、2周目EDで見れる犬を助けようとしたシーンは印象的でした。
犬は好きじゃないといいつつも、真っ先に行動できる彼女の心根は何だかんだで善良です。

司については、柚香を学校に置いておけないと言い出したシーンで、淡々とした性格の中で情が厚かったことに意外さを覚えました。
仲間意識の方が強いと思っていたので、ちゃんと柚香のことを恋人として大事に見ていたんだなぁと。

タノさんと雲雀は、ここがくっつくと思っていなかったので驚きました。
タノさん視点になって、いきなり雲雀にラブっている描写出てきた印象です。
告白シーンも、その後の教会でのイチャイチャも、微笑ましかったです。
だからこそ1周目EDの無情過ぎる展開にも胸が痛みました。


1周目EDですが、このシナリオが完成された美しい悲劇であるのは、主人公である司が死ぬことで幕引きのタイミングがちょうどよかったってのもあると思います。
結局生きていく以上災害が起こった事実は取り消せないので、未来がある生存オチで区切りをつけるには待ち受ける困難に対して俺達の戦いはこれからだ!でまとめるしかないんですよね。
山の向こうという広がった世界に新しい希望を見出す2周目EDには、そんなポップな軽さがあります。

私刑については実際問題、必要な場面そうでない場面ってのは、その状況にならないと分からないものもあるでしょう。
警察官三人組は、大智の会で確かに正気の心を取り戻していました。
学校に捉えられたチンピラ三人組は、クズのまま全員命を落としました。
状況に煽られただけなのか、根っからのゴミなのか、正確に判断をつけるのも難しいです。
とは言え、どっちにしろダメなものはダメです。考えさせられます。


その他BadEndに関しては、その場の終わりでブチ切れるものしかなかったので、少し寂しかったですね。
行き止まりで警察に追い詰められたところとか、警察のおっさん連中がその後柚香達をめちゃくちゃにするサービスシーンがくると思っていました。
大智の会に入信した司とか、その後どんな暮らしをするのか気になりました。
(展開としては学校組に攻め込まれ破滅るしかないでしょうが)