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minoruさんの夜巡る、ボクらの迷子教室の長文感想

ユーザー
minoru
ゲーム
夜巡る、ボクらの迷子教室
ブランド
SAMOYED SMILE
得点
90
参照数
1405

一言コメント

最高だった。至極の出来。一昔前だったら攻略対象は母親の綾子の方だったろうに、娘のりこの方っていうところが2017年発売の作品らしい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

攻略順はりこ→きな→はやて。
購入動機としてヒロインの中だったらりこが一番の目当てでした。
プレイ後のシナリオの出来としての好感度は、きな>>>>はやて>>>>>>>>>>りこ。

前の環境で挫折した主人公の心を、新しい環境が取り戻した再生の物語。
それは各ヒロインにも似たようなテーマとして当てはまり、似たもの同士として惹かれ合い男女の関係となる彼らが、ただただ愛らしかったです。


乗り越える問題について。一つ問題を乗り越えた先、これからどうするっていうのが物語の起伏を上手に調整していたのは凄くよかったです。

はやてとりこは、ヒロイン側で抱えていた直近の一番大きな問題を中盤の展開に持ってきて、その解決後に主人公の問題を浮上させていました。
その中盤というのも、主人公と各ヒロインが恋仲になる前に起き、内容としては一大見せ場イベントなはずなのに、結構さらっと進めているのがゴージャスでした。
主人公がヒロインへの恋心を理由に行動を起こしていなくて、どちらかというと庇護欲を理由に動いていたのが紳士的と言いますか。
二人がくっつくのがヒロインの問題が片付いた後ということで、前置きが整った分心おきなくイチャイチャさせてもらえるのもゴージャスでした。はやてとのJKプレイ最高でした。

きなの場合は、彼女の問題を解決することが主人公の救いに繋がるということで、同軸で展開されていました。
主人公の問題の解決についての割り振りですと、りこの時はでっかい問題どーんと出してどーんと即座に解決みたいな嵐でとっとと収束させていたのに対し、きなの時はちょこっとずつ明かしていって少しずつ解決していき最後にどーんと来させていて、見応えっぷりが最高でした。


ヒロインといえば、主人公のキャラ性に合わせ、彼のために生み出されたと言っても過言でないヒロインの造詣が、それこそ美しい二人ぼっちの世界を生み出せるくらいに整っていたのが印象的でした。

きなは憧れ。かつての理想。
こんな教師になりたかったという主人公の願いを、きなは叶えてくれます。
生徒であるきなを救うことで、教師である自分も救われます。

りこは焦がれ。愛情との向き合い方、自分の有り方を、主人公はりこに教えてもらえます。
りこの人生を救うことで、主人公はりこに人生を救われます。
教師という自分を捨ててでもいい、自分を愛するとは何なのかという、掘り返しの上で、主人公はしこりのある父との関係について見直すことができました。
はやてルートの、実父と死に別れた後で判明する事実と向き合った結果とは別口のアプローチを持ってくるのは、バリエーションという意味でも優秀なんですけれど、これは複数ライターの弊害でしょうが、救いの形について信念の統一性が無いのがあまりにも醜く。これをまとめきる手腕がなかったのは、ライターというより、もうプロデューサー側の問題かと。りこという少女の可能性ならともかく、ふわふわとした達観でふわふわと生き返った主人公は何がしたいのかと。何をさせたかったのかと。言葉遊びで煙に巻かれた気分でした。
りこルートは、他ヒロインルートできちんと扱われる40億円問題についても流され、りこという幼子の存在とは切っても切れない関係である実母の綾子の将来も語られずで、ロリにあまあまらぶらぶしてもらえるのは大変すばらしいことですが、りこというキャラクターの持ち味としてそこだけをピックアップしてしまうのは、それまでの展開で育てた彼女の良さが死んだも同等。りこと綾子の関係が正常になったところまでは凄く面白かったので残念です。


守り守られについて。
教師である主人公にとって、攻略対象である生徒に属するヒロイン達は、それだけで庇護欲をかきたてられる対象となっています。
テンプレートと言いますか、一番分かりやすい形で表現されているのははやてルートかと。はやてを守ってあげたいと、力技ではやての家の問題にも主人公は首をつっこんでいきます。
きなルートは、きなの存在で自分が救われたと実感した主人公が、そのまま育った思慕のままにこの子を救ってあげたいと心を寄せていきます。
りこルートの場合、それが逆転します。りこは主人公を守ってくれます。過去から。社会から。主人公の抱えている心の痛みから、逃がしてくれようとします。年端もいかないりこちゃん相手に格好悪い、逆にそれがいいという、幼女に聖母性を求め夢見る昨今の流行のスタンスですね。


誰かを信じると言うのは、信じた先に待ち受ける結果も受け入れると言うこと。信じた結果、損することになっても受け入れる覚悟が必要だということ。ここら辺の道徳的な語りには、とても魅入られました。
あと感心したのが、りこはともかくはやてときなとの関係において、男女としては一区切りにもなる婚姻を作中の終幕で持ってきていて、凄いけじめがついてるなあと。二人ぼっちの世界の完成形ですよ。まだまだたくさんの未来が、可能性が彼女にはいっぱい待っているんだよ、という意味で、りこをその枠として扱わなかったのは好感触。

2017年というこのご時世で、このようなすばらしい作品を遊べたことに感謝を。
まだまだ商業エロゲーも捨てたもんじゃないと思いました。