本作は育成SLGでして、屋敷で雇う女の子のスキルを上げるのが目的となります。 その女の子っていうのは、全員娼婦です。メイド服を纏った娼婦。 館に来る客人相手に奉仕する娼婦を調教するのが、主人公となります。ご主人様は別にいらっしゃいます。そういう立ち位置を、とても新鮮に感じました。
育成はカードゲームで進められるのですが、システムはかなり簡易です。
場に出されるランダムの所持カード5枚のうち、ターン一回ごとに一枚づつ消費 し女の子に影響を及ぼします。
ポンポンとスピーディーに進むので、毎回の作業とはいえストレスは全く感じま せんでした。
上げられる女の子の項目は、三つです。
耐久度・・・HPみたいなものです。一回の育成時に上げられた興奮度が影響し、数値が上がっていきます。
愛情度・・・好感度です。好かれないとヒロインEDには辿り付けません。
忠誠度・・・娼婦としての仕事を請ける際に必要な数値。高ければ高いほど、難易度の高い接客ができ報酬もいっぱい貰えます。
最初は女の子の耐久度がとにかく低いので、もう調教もクソもないです。
すぐバテられます。世知辛いです。
興奮度っていうのがそもそもヒロインの感度にもリンクし、中には不感性的な設
定の子もいるので厄介ってレベルじゃありません。
カードごとの特性を見て、相性いいカードを引き当てない限り育成進まないとか、かなり理不尽です。
まぁ頑張ればちょっとづつでも前進しますので、ちょうどいい難易度なんだと思 います。
またこのゲームの面白いところで、数値をガンガン下げられるっていうのがあります。
愛情度なんて、難易度の高い奉仕をさせれば一気に激減です。
忠誠度も性に関わる接客をする度に減るので、育成をさぼると困るのはプレイヤーになります。
育成カードでも、忠誠度上がるけど愛情度下がるとかしょっちゅうです。
いやぁ。この采配は飽きさせません。
愛情度の上げ下げが自由自在ですので、同時攻略も楽にできました。
そんな本作を彩るヒロイン達は、基本的に暗いです。
っていうか、シナリオが重いです。
退廃感漂う閉鎖的な雰囲気と暗い登場人物とか、見ていてせつないにも程がありました。
元から屋敷にて働いているクレアや記憶喪失の恋よりも、私は元娼婦のアイシャがきつかったです。
主人公に惹かれる可愛らしいアイシャ、そんな彼女の魅力に囚われるものかと反発する主人公。
自由気ままで明るいアイシャの姿は、ある意味この屋敷では浮いている面がありました。
しかし何処か達観したようにあっけらかんとするアイシャの姿勢は彼女の生きていた道を表していて、彼女の重い台詞には感傷的にならざるを得ません。
量は多くないのですけれど、とにかくテキストは素晴らしいものでした。
センスがいいです、センス。何がセンスとかよく分かりませんけれどセンス。
リニュ版に比べ明らかに少ない全体テキスト量ですのに、あれだけの雰囲気を構成できるというのには驚きました。
お話を彩るBGMとの相性が抜群だったのも、原因でしょう。
そんな訳で、楽しく一気にプレイできました。
難を言えば、テキストは最高なんですけれどその厚みはもう少し欲しかったな、という所くらいです。
1つのシーンのテキストの量云々ではなく、シーン数自体を増やして欲しいです。
同じイベントが繰り返し表示されるばかりでしたので、パターンがもっとあれば
さらなる感情移入ができたかなーと思いました。
また基本的に主人公がヒロインに恋愛感情を抱こうとしませんので、寂しいとい えばそこは寂しかったです。
これはこれでいいのですけれど。
本作を、私は単純にメイドゲーと呼ぶ気はありません。
ヒロイン達の行う行為は、あくまで娼婦のそれです。
ご主人様への奉仕の精神というものではなく、客人相手に利益を搾取するための
行為を彼女達は強要されるのです。
しかしその割り切った感が、逆に爽快でした。
メイドとは何か。
メイドとは、メイド服を着ている女性を指す。これを私は好みません。
メイドとは、ただの女性の使用人です。
女性の使用人が着ていた仕事着がメイド服と揶揄されるだけであり、その「メイド服」というコスチュームだけが先発されるようなキャラ像には嫌悪感を抱きます。
メイドの精神とは何か。
それは、ご主人様に絶対の忠誠を誓う下僕的意志。これを私は好みます。
しかしそれは「メイド」が属するに相応しい舞台設定がしっかり構築されていると私が判断した時にのみ、私は適応させます。
それこそ現代日本を舞台にした上で、女の子のお手伝いさんをメイドメイドと呼ぶという雰囲気には違和感を覚えます。
私は一般的風習として、お手伝いさんや家政婦さんに対しメイドという言葉をまず使わないと判断しております。
そのファンタジー具合が作品と相性がよければまだしも、存在が浮いているように思えると不快です。
あくまで使用人ではありますけれど、メイドという職には特別な価値観を押し付けたいのです。
お手伝いさんや家政婦さんとは違う、もっと絶対的な上下を意識させる背景が私は好きです。
雇う側雇われる側という背景は同じでも、精神的にどちらが偉いかというのが暴 力的なまでにはっきりしていて欲しいのです。
これは私の記憶の限りでしかないのですけれど、本作にヒロイン等を形容する言葉で「メイド」という言葉は使われなかった気がします。
家事をしている描写も、殆どないです。
仕事の一環として家事があるという雰囲気を匂わすテキストは、確かにありました。
しかしそれだけです。
しかしそれだけでも、本作のヒロイン達は確かにメイドでした。
主に求められるスキルは娼婦のそれで、娼婦ゲーでもあるのですけれど。メイドでした。
ヒロインEDとは違い、その精神が良く出ているとあるEDのおかげで、私は本作をメイドゲーと認識できたくらいです。
このね、シナリオのバランスがね。
センスとしか言えません。
そんな訳で大満足です。長さも適度で良かったです。