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minami373さんの終のステラの長文感想

ユーザー
minami373
ゲーム
終のステラ
ブランド
Key
得点
86
参照数
285

一言コメント

人類衰退後の寂寥たる星で紡がれる、かけがえのない人と機械の物語。現代風に寄せつつも、お約束を踏み越えていくような革新性があった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


 ポストアポカリプス。
 ロボットの少女。
 機械化文明。
 SF(読み:死んだフィクション)。

 もうこれらの文字列を目にしただけでうんざりとしたくなる方も多いはずだ。じじつ。私もそうだった。これらの、いうなれば〈使い古された〉題材を使って、この令和の世に如何なる物語を紡ぎ出そうというのか。
 
 いかにも〈人間らしい〉ロボットの少女と出逢い、交流し、まあ最後には別れるんだろうな、という明け透けなお約束。だが、本作は意欲的に、前例を踏み越えようと、時代性を、革新性を打ち出そうとする姿勢が強く伝わってきた。

 まず、「旅をする」という物語の導線が強い。こういったロボットの少女との交流物、いやもっと穿って美少女コンテンツは「学園」や「街」といった疑似的な閉鎖空間に留まり、周囲の人物たちと狭い(限られた)関係性で絆とやらを紡いでいくものが多い。だが、本作はどこまでも〈開かれた〉物語であると感じる。世界の存亡がヒロインや主人公の双肩に掛かっているという古臭いお約束や、序盤から明らかに異質な(黒幕的)雰囲気を醸し出す依頼主の老人との描写、滅びゆく世界で暴徒化し醜く変貌する人類といったお決まりのガジェットを盛り込みつつも、やはり、これは、それらの規定の観念を踏み越え、打ちこわし、未知へと、未来へと進んでいく話だと感じた。〈変わる〉、〈変わり続ける〉話だとも言える。徹底したリアリストの主人公が物語終盤に見せる変化、純粋だったロボットの少女が主人公の冷徹な思惑を知って激情を露にする場面、または旅の途中で遭遇するセカイの醜さ、人間の汚さ、荒廃した文明の儚さ。そういった描写の積み重ねが、ラストの〈ありきたり〉な結末にも確たる強度を与えているように思われる。

 2022年という世に、こういう作品を遊べてよかったと一消費者としては嬉しく思う。

 あと、オープニング素晴らしすぎる、流石はKey様です。初ノベルゲームもKanonだし信者になろうかなあ。盛り上がったり泣けたりするシーンで儚げなbgmや挿入歌流すの狡いですよ。