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minami06さんのMy Merry May with beの長文感想

ユーザー
minami06
ゲーム
My Merry May with be
ブランド
サイバーフロント
得点
88
参照数
484

一言コメント

Maybe全体に漂うエセフェミニスト的な雰囲気が気に入らない。無駄な描写・キャラクター多し。それを考えなければ傑作。メリーゴーランド。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

Mayがかなり好きで、Maybeがかなり嫌いな人間の感想。

今は亡きKIDが出した作品です。
内容は、率直に言ってかなり好感の持てるものでした。コンシューマーソフトとして実に相応しい内容であったと感じます。特に、まだ中学・高校に通っているような少年たちに是非手にとってほしいなと思いますね。あの年代の人間にとって考えさせられるテーマを扱っていました。もちろん、大人が読んでも感じ入るところがあるものになっています。その間をうろうろしている人間には結構「イタイ」題材で、「設定は」良くできていると感じました。

本作の一番に興味深かったところは、やはりと言うか、レプリスという設定でした。
物語中、言葉を変え何度も繰り返されました。目的、存在意義、レーゾンデートル、アイデンティティ。彼女たちレプリスのアイデンティティが保持されている状態は、主人に「必要とされている」ことを指す。それがレプリスにとっての存在証明であり、アイデンティティの喪失、存在の否定は、肉体の崩壊を引き起こす。面白い設定だと思いました。
面白いし、身につまされる設定でもあります。
レプリスは極端ですが、これは人間にも当はまります。誰かに承認されたいという欲求は、人間誰しも持っているものですから。

「レゥや、そしてオレに関係するあらゆる人々にとって、オレは必要な存在なのだろうか?」

そう自問する恭介がやけに印象的です。そんな風にして、レゥを通して自分自身を省みたり、他人について考え意識するようになる、といった話の流れ、また用いられる言葉は、テーマを明確にし、この作品はキャラクターを動かして何を描きたいのか、誤解を生むことなく、読む側にとって理解し易いものになっています(とてもスマートとは言えないけれど)。この作品は、ハッタリではありません。
レプリスというレゥに対して、ある時は煙たがったり、またある時は嫉妬したり、過保護になったりし、苦悩する恭介が描かれるのも、なんだか思春期の少年のらしさが出ていて良かった。

Mayで一番良いと感じたのはたえさんシナリオ。ああいった嘘なら大歓迎。是非騙してくれといったカンジ。
シーンタイトル「大人と子供と――ヒトとレプリス」は、人間とレプリスを対比的に解りやすく表していて、なるほどと思わされた。
円を描いて、憂いを帯びながら、でもどこか幸せそうに語る二人が爽やかな気持ちにさせてくれます。
Maybeへの繋ぎとなっているみさおシナリオに関しては、Aエンドいらないと思います。説明的すぎ。Bエンドだけでいい。騙し絵的技法を用いたBエンドのあのラストシーンは、Aエンドの説明によって興醒めに変わった。なぜって、騙し絵の面白さは自分自身で気づくことにあるのだから。
最も、みさおシナリオ自体はこれでもかと言う位にレプリスという存在に言及していて、意義深い内容ではありました。
リースは、恐らくレゥに並ぶかそれ以上の人気キャラだと思いますが、Mayでのリースの扱われ方のせいか、「リースを好きなオレは成熟していないガキ」みたいな被害妄想をもってしまい、好きだと公言するのがなかなか憚れるキャラですね。大好きですが。
でもやっぱしレゥだ。恭介とレゥが喋っているシーンは全部好きです。

彼女に課せられたテーマは、アイデンティティの獲得でした。それもプログラムではなく、自分の意思で。だから、レゥが真にアイデンティティを確立させるために、Maybeでは恭介がレゥの前から消えている、という筋書きもすんなり納得できました。何より、恭介の望みであったから。恭介にとって、レゥとの出会いは成長するきっかけになりましたが、レゥは、恭介と一緒にいたら成長できませんからね。

そうしてMayからMaybeへ、津久見高校の阿見寮から晴天町へと舞台は移りましたが……話は訳の解らない方向へと進んでいきます。
ぶっちゃけ、Maybeつまんなかった! Mayの出来を見てかなり期待していただけにガッカリ感がハンパなかったです。ぼくのようにMayを面白かったと思ったタイプは、正直Maybeやらんでも良かったんじゃないでしょうか。

不満を挙げるとキリがないのですが、まずMaybeの戦犯は主にMaybeの主人公である浩人じゃないでしょうか。とても好感の持てる主人公ではありませんでした。主人公というものは、ぼくら読む側のいわば分身みたいなもので、ストーリーを追っていく中で長く付き合っていく存在です。その主人公に対して悪感情を抱くようであれば、当然評価も下がります。

彼は、恭介と同じように未熟です。ただ、恭介は自分の至らなさだとか精神的な幼さを(レゥを通じて)知っていました。そういう話の構成で、テーマでしたし。でも浩人には、そういった傾向は見られません。
当たり前のことを、さも自分が考え出したかのようにしたり顔で熱弁する様は滑稽以外のなにものでもなかったし、自分の怠堕な生活を、「自由だから」といった極論で自己弁護する態度は、端的に言って不愉快でした。また、一部の登場人物に対する心ないやりとりも目障りでした。実際、レゥと浩人が結ばれてあの二人が相応しいと思えた人はどれほどいるだろうか? 
そもそも、レゥと浩人の間に恋愛描写なんてありはしないので、そんなんで好きだの愛してるだの言われても唐突にしか感じない。
また浩人は、レゥを守ろうと(余計なおせっかいにしか見えない)渡良瀬の人々と対立したり、レゥの記憶を取り戻す手助けをしようとしたりと(空回りにしか見えなかった)随分奮闘していたようだけれど、出会って本当に間もないレゥに対してそうまで必死になる「彼なりの動機」「彼なりの背景」、そういったものが全くありませんので、残念、ぼくには思いつきのまま行動する、偽善的で独善的なゲロ野郎にしか思えませんでした。彼に対する印象は、最後の最後まで変わりません。

次いでヒロインの篠片由真も鬱陶しい。
何が鬱陶しいって、彼女が絡むとかなりの確立で馬鹿馬鹿しいお色気会話になること。メインライター、アンタムッツリスケベだろ。輿水隆之デザインの無駄に扇情的な絵も相まって、イライラは募ります。くたばれ商業主義。彼女はヒロインの中でもとりわけ浩人が接する時間の長いキャラクターなので、余計にウンザリしました。日常のやりとりは、Mayとは比べ物にならないくらいつまりません。

なんだかな……。フェミニズム的な趣旨の発言をキャラクターの口を借りて語るわりに、ああいった下らない描写を見ると、風俗でナニしてもらった後、「もっと自分の身体を大事にしろよ」とか矛盾したこと言っちゃうオッサンを連想してしまう。ちょっと感受性豊かすぎでしょうか。
他の脇を固めるヒロインに関しても、レプリスを巡ったこの作品に、果たして必要な人物かと疑問に思うキャラクターが多く、必要最低限のキャラクターで話を組み立てた方がコンパクトになって間延びしなかったのにな、と思いました。そして意味不明な描写。首をかしげながらシナリオを読んでいました。わんつーどーん? 何それ? お願いだから真面目にやってくださいよ。

メインライターさん曰く、Maybeのテーマは「一生懸命頑張って生きようよ」らしい。
多分ここなんでしょう。ぼくがMaybeを好きではないのは、このテーマのせいなのでしょう。
早い話、ギャルゲーで生命だのといった事柄について論じられても、あまり関心を持てません。最初はMayと同じ「成長」というテーマをMaybeも引き継いでいると思っており、そういう目線で話を読むつもりで期待していました。期待と違ったものを出され、しかもそれが趣味に合わないものだったので、随分ガッカリしたものです。

純粋に楽しめたのはリースシナリオくらい。あのシナリオは西川さんじゃないかな。
主人公とヒロインの会話がなんだかすごく優しい。西川さんは、主人公とヒロインが
「気遣いあっている」文章を書くのが本当に巧い。トリックよりも、ぼくはこのライターさんのそこが好きでした。
また、リースの前作からの変化を見て、嬉しい気持ちになったのは自分だけではないでしょう。うらやむ少女が、戸惑いながら手にしたもの。以前のリースを知っているだけに、感慨深いです。

作中出てくるキーワードは、確かに興味惹かれる。選択、可能性、感情、嘘、真実。
これがこのライターさんが物を書く上で大事にしている要素なのは、他に手掛けた作品から見て明白ですし、まず間違いなく、意識的に用いているであろう単語。何度も意味深に上記の言葉を口にする登場人物を見れば、一体どんな風にこの物語は収束するのだろうといった期待が膨らむ。事実ぼくは、Maybe全体に漂う胡散臭さが鼻につきつつもそうでした。
しかしどうしたことでしょう。結果的にこの作品の終え方は、過程はどうあれ、「大切な人の死を乗り越えよう」みたいな、凡百のエロゲーのそれだ。はっきり言って、Maybeには最後の最後までガッカリさせられた。

ライカシナリオ、評価高いようですが、個人的に評価できるのって、Mayで提示された、レゥが抱えている問題について決着をつけてくれたところくらいがせいぜいで、テキストはつまらないし眠いし、話の焦点があっちこっちに飛ぶので、ストーリーを追う気力が削がれました。ばら撒いておいて、完全に放置された伏線もありましたし(このライター集団、加筆癖あり)。With beによって追加されたシナリオも、正直蛇足だと感じました。

Maybeについて結構ボロッ糞に貶したわけですが、そんな作品になぜに88点(最初はもっと高い98点もつけた)かと言うと、Mayのテーマが個人的にそそられるものだったこと、またそのテーマがうまく機能していた設定だったこと、このライターさん(たち)にしては珍しく解り易い話で、近くに感じられて嬉しかったこと、それが理由でしょうか。でもこの作品、その時のテンションによっては60点くらいつけたくもなるんですよね…。目指したものは良かったのに、うまいこと物語にできなかった。個人的にそんな印象です。

PSP版の『My Merry May With be』についてくる資料に、メインライターさんである長井知佳という方の、本作についてのコメントが読めますが、なかなか興味深いことも書かれていて、面白かった。例えばその当時の状況、本作の下敷きになった作品について、本作を書くに当たって何を考えていたのか、そういったことがほんの少しだけ垣間見ることができて、作品を理解する手助けにもなる内容です。

あとは、歌がよかったですね。とても。作品世界を象徴した歌詞で、ゲームを終えた後に聴くと、ストーリーを振り返ることができ、なんとも形容しがたい気分に浸れます。
全部等価交換なんだね。きっと、何もかもがそうなのでしょう。

98点→88点