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merunoniaさんの眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat- 外伝の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat- 外伝
ブランド
CLOCKUP
得点
85
参照数
595

一言コメント

『歌舞伎町のあいつらが4年越しに帰ってきた!!』無印版のFDとして5つのストーリーが詰まった狼羊外伝。無印版で不満点だった、濃すぎる魅力的な登場人物たちの絡み、日常生活がたくさん見れる、良FDでした。その分、無印にあったような濃密な心情だったり考え方、ひりつく空気感は薄目。前半ネタバレなし、後半ネタバレありで。無印版の登場人物たちが好きなら買いです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前半はネタバレなしで感想
後半は、ネタバレありで感想を書いていきます。


眠れぬ羊と孤独な狼のFDの立ち位置で発売された
『眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat- 外伝』

5つのショートストーリーが詰まった本作品ですが、結論から言えばすごい楽しくて満足できるものでした。何よりも、『魅力的な登場人物の絡み』がたくさん見れたことが一番嬉しくて楽しかったです。
1つのエピソードが1時間未満?くらいの容量でしょうか。
無印の本編が好きで、もっと登場人物たちの活躍が見たい、彼らの日常風景が見たい!という人なら買いだと思います。
無印版の話になりますが、美鈴さん&雲さん&俺でやっていたカラオケシーンがあったりするのですが、ああいうテンションが好きな人は買いですよ!

というのも、無印版での本編ですが、どうしても魅力的な登場人物が退場してしまうことが、一長一短なところがありました。
「殺人観念」をテーマにしながらも、『突然の終焉』の怖さ、脆さを背景にしながら語られる無印版は、どの登場人物たちも魅力的な裏背景がありながらも、あっけなく殺されてしまったり退場してしまうのが悲しかったりしたんですよね。
あくまで『あざみと俺』の物語であり、二人の愛が描かれる作品としては、よくまとまっており、ひりつくような緊張感を持つ話として面白かったのですが、もっといろんな登場人物たちが活躍したり絡んでほしかった……のも本音。

こうした感想がある中で、外伝ではその不満点を解消するかのように、様々な小話の中で魅力的な登場人物たちが、愉快にお祭りのように絡んでいくのが見れて、本当に楽しかったです。

雲&美鈴&李の3人組の、おちぶれた大人&現役女子学生が、ロマンを求めて歌舞伎町を走り回る(?)話や、沙雪さんや仁礼さんの警察たちを巻き込んだヤクザの抗争()の話等々……。
どれもこれも、見たかった登場人物たちの絡みが見れて楽しかったです。

また無印版と違って、安心感もありました。
主要人物たちは、5つのストーリーで活躍しますが、明らかな敵対関係にはならず、殺伐とした退場だったりは特になく、あくまで小話の一つとして、登場人物たちを楽しむ作品として出来上がっていました。
そういう意味では、無印版で濃密に描かれた『殺し屋と殺人と突然の終焉』の考え方だったり、『殺人鬼と獲物と殺人の気軽さ』だったりといった観念や心情は深くは描かれていません。本編ではそこも魅力の一つでしたが、外伝は、あくまで登場人物たちの魅力を楽しむものになっていると思います。

またHシーンもすごい良かったですね。外伝では、エログロのHシーンはありませんでしたが、その分、美鈴さんあざみさん、沙雪さんとすごい使えました。
特に、風俗嬢なりきりプレイのあざみさんHシーンがすっごい好きです。
やはりのりざねさんが描く原画、特におっぱいだったりはすごい魅力的ですね。

そんな外伝でしたが、登場人物たちの活躍がもっと見たかったなぁという感想だった自分にとっては、まさに求めていたFDで良かったと思います。
もっと色んなエピソードが見たいなぁと思うくらいには満足でした。

P.S 今回も無印版同様、緊急回避画像がネタ満載でメン喰い刑事に笑いました

以上ネタバレ感想なしです。
以下ネタバレ感想です。






〇Ep1『There is no substitute for hard work.』
(勤勉に勝るものなし)

まずはおさらいともいえるEp1でしたね。何よりも、「またあいつらに会えた―――!」という嬉しさがまず来たのが印象に残っています。
話の内容は、東儀からデリヘルの女性ばかり狙う奴らを始末しろと依頼され、あざみさんと一緒に、雲さん達と絡みながら情報収集から始末までの事件解決を描くものでした。

おさらいというのもあって、彼彼女らの日常を描きながらも、あざみさんの圧倒的な暴力や、俺の殺人のあっけなさを描かれたのが、無印版を思い出すような話でした。
その中でも、李のおじ様の活躍が見れたのが楽しかったですねぇ……。『俺』と『李』さんが同時撃ちで敵を始末するシーンがクールでとても好きでした。

またギャグ方面でも楽しかったですね。
あざみさんが楽しそうに『太鼓の達人』にはまる中隣で、死んだような目をしてるたけちゃんの姿がもうすごい好きでした……ww
他にも、あざみさんの「えーえふ、ってなんだっけ?」って質問に対する、美鈴さんの「アナルファックだよ、あざみちゃん」って教えて、たけちゃんが雲に呆れるシーンから、李さんが雲さんに苦言を伝えるシーンがもう大好きでした。
雲&美鈴&李さんペアが好きな自分には、絡みが多くて楽しかったです。

また、Ep1のあざみさんのHシーンがもう最高……に可愛かったです。
風俗嬢なりきりプレイ、最初はお客さん呼びで誘うような言葉の一つ一つが大変Hなんだけども、最後にはあざみさんに戻ってたけちゃんを求めちゃうところとか、最後のデリヘル嬢モードにもどったりするところだったり、もう全部が可愛くて、大変満足でした。




〇Ep2『Nothing makes a man so adventurous as an empty pocket.』
(空っぽのポケットほど、人生を冒険的にするものはない。)
ヴィクトル・ユーゴ―の名言ですね。

美鈴「ロマンのためよ、パパ。ロマンはすべてに優先するわ」
と本編中の美鈴さんの言葉にもあるように、落ちぶれた大人と現役女子学生が『埋蔵金』のロマンを求めて歌舞伎町を走り回るお話でしたね。
登場人物たちの中でも特に、美鈴さん&雲さん&李さんペアの絡みが大好きな自分としては、この組み合わせがペアになるお話としてすごい楽しかったです。

最初のボーリングの話から美鈴ちゃんが虫の罰ゲームの餌食となる話も可愛かったし、その現役学生組のきゃっきゃうふふとと、おじさん組のやるきなさ気な感じだったりね……この組み合わせすごい良さがあって好きです。

また中盤では宝探しに奔走するわけですが、その中でも情報収集のために居酒屋に通いまくる『俺』と雲さんのシーンが一番好きです。
かつては殺し屋と組織の一人として活躍していた二人が、おじさんとなってこの歌舞伎町で「埋蔵金」というおとぎ話に、ありもしないと思いながらもすがってしまうような哀愁さが詰まっているシーンですごい好きです。
以下本編より
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結局あれからも何軒かで同じ質問をしてみたが、まともに取り合ってくれた人間は誰もいなかった。
そしてようやく、いかに自分たちが現実からかけ離れた場所で踊っていたのかに気づいたのだ。冷静に考えれば当たり前な、その事実に。
これでやっとおかしな迷いを吹っ切り、味気ない元の日常へ帰っていける。俺の心境は、そんな気分だったのだろうか。
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良く考えればあり得ないと思いつつ、熱に浮かされて、そしてある時に目が覚めたように現実に帰ってくるようなお話は、無印版でも感じた、雲がかつて現役時代に戻りたいと願ってしまうお話と似てとても好きなんですよね。
美鈴さんが、ロマンあふれる舞台で活躍するパパを求めるように、同時に李さんが私たちの時代は変わったのだと諭すように、その中で雲さんは終わったと自覚しながらも、かつてあの頃のように、この歌舞伎町で復活できるのではないかと思ってしまう矛盾さ。
この哀愁さがEp2では宝探しというテーマで楽しめる作品なのが好きです。

最後のオチは不発の爆弾だったというものでしたが、二段構えのオチが最後の眠り続ける少女という、『もう一つのおとぎ話』
こちらは本当に存在したおとぎ話でしたが、それも『俺』によってあっけなく終わりを迎えるのは、ある意味『突然の終焉』の一つのようでしたね。

二つのおとぎ話と、大人たちの冒険、のお話として、面白かったです。
もっともっと雲や美鈴ちゃんたちの絡みが見たいなぁ……とも思いました。




Ep3「Mankind must put an end to war, or war will put an end to mankind.」
人類が戦争を終結させなければ、戦争が人類を終わらせることになるだろう。

プロローグで、抗争という話が出たので、とうとうヤクザ同士の抗争の話か!?、血みどろ展開来るのか!?とワクワクしたのが記憶に残っています。
沙雪さんが御舟さんの内緒話をこっそり聞いたところから、もう同じ心境で、いよいよ来るんか……ぶつかってしまうんか……とドキドキしたわけですよ。

沙雪「ヤクザがそろって何を考えてんだ、てめえら!? あぁ!?(↑↑↑)」
※ここ好き
もう同じ気持ちで大爆笑しましたわwwwwwwww
もう笑いっぱなしのEP3でした。

ここで初めて、Ep3のタイトル画面で沙雪さんがバットを持ってる理由を理解できるわけで。ヤクザの敵対組織同士がホームラン対決。もう字面だけで面白い。
しかも御舟さんはまだしも、東儀さんもやる気満々でもう面白すぎて面白すぎて。
当然のように、沙雪さん、仁礼さん、たけちゃんにあざみさんも巻き込まれていくわけで……。もうあざみさんが入る時点で、この勝負あっ(察し)と。

いざ試合が始まれば、ノリノリの実況海江田君からもう面白いし、なんだかんだ「来いや」とノリノリな東儀さんはじめ、マスクマンに、才能発揮の沙雪さんに、予想通りなあざみさんの最後に笑いっぱなしでした。
とにかく楽しかったEp3です。
けれどその最後に、李さんと猫の1シーンをはさむところがまたギャップですごい好きなんですよね……。李さんのことがもっと好きになるシーンでもありました。

また沙雪さんが焦点に当たってるのもあってすっごい彼女が可愛いんですよね。
悪徳警官という立ち位置ですが、学生時代ソフトボールの青春時代の彼女がギャップですごい可愛かったし、ホームラン対決ではソフトボールを語っちゃうあたりだったりが彼女らしく。
また御舟さんとのHシーンも、興奮して乗り気なのも相まって、ノリノリで求めちゃう姿が、普段の沙雪さんの姿と相まってすごい可愛かった。
(その後の落胆&意気消沈までもがセットで)
沙雪さんも立派なヒロインですね。




Ep4『A friend to all is afriend to none.』
(八方美人頼むに足らず(誰に対しても友達なのは、誰に対しても友達ではない)

とても今風なお話でしたね。
依頼された標的がユーチューバーをどう殺すか、なら自分たちもユーチューバーになればいいじゃない!という無理やりな展開は苦笑いしてしまった。
ノリノリにあざみさん&美鈴さんタッグで動画を上げていく『あざみれちゃんねる~~~』は、たけちゃんが死んだ目で撮影してるんだろうなぁっていう場面を想像すると、すごい笑ってしまいます……ww

中盤には、注目を集めるために、違法カジノの取材や(恩田さん出演しても良いの……)たけちゃん出場による、スパッツ一枚で戦わされるたけちゃんが頑張ったり、何でもありでしたね。
ヤクザ後援ユーチューバーこれは勝てないわ……。
(東儀さんたちそこまでユーチューバーとして公開してもいいのと思わないでもない)
最後には、標的を仕留めることで依頼完遂になり、ダミーの役目でもあるチャンネル終了となるわけですが、たけちゃん裸垢BANエンド……最後の最後まで働き者だよたけちゃん……。

とまぁ最後まで他とは違う、異色のようなお話でしたが、一番印象的なのは、最後の海江田さん&たけちゃんの回想の言葉でした。
以下本文より
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海江田「ほとぼりが冷めたころには、もうカブキチョッパーなんて過去の人になってたりして。まあ、こういう移り気なのも根っとあるあるだよね。」
答えならわかりきっている。奴らはどこへいったわけでもない。前からずっとそこにいて、違う話題に夢中なだけだ。
今日も配信者と視聴者のコミュニティでは、競うような速度で新しい話題が投下されていく。昨日の話をしている奴はもういない、ただそれだけのこと。
死んだ人気者が頼りにしていた100万人の視聴者は、他の誰かの視聴者でもあるのだから。
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ユーチューバーが突然消えたとしても、あれだけいたファンもまた別のファンであるように消えてしまう希薄の繋がりを印象付けるようなお話は、まさにタイトル通りでしたね。
本作では、『突然の終焉』の恐怖も描いた作品ではありましたが、今回のお話のように忘れ去られてしまう薄さが語られるのもある意味らしいなとも思いました。




Ep5『Experience is not what happens to you.
It is what you do with what happens to you.』
(経験とは、あなたに起こったことではない。
起こったことに対してあなたのしたことである。)

最後は、『俺』の過去のお話と、あざみさんとの繋がりのお話だったと思います。

『俺』の東儀さん影武者役姿がハマって面白かったり、ダルマ女VSあざみさんの戦いは一番見たかったので胸熱でしたね……。
特にダルマ女は、全身武器車椅子なのがもうロマンが詰まっていて好きなので、ぜひもう一度見たかったのでとても楽しかったです。ヤクザの抗争に途中乱入して、ヒットマンたちを蹂躙していく姿は、ダルマ女の真骨頂……。
強いて言うなら、ダルマ女とあざみさんの戦いが思ったよりもあっさりと終わってしまった感があるので、もっと見ていたかったなぁと思ったり。

そんな殺し合いもあった後で、『俺』が記憶喪失になったり、過去の語られなかった『俺』の中国時代が語られたり。新登場のリーファさんは黒髪美人のお姉さまキャラとしてとても魅力的でしたね。Hシーンの可愛さはとても良かったです。
だからこそもっと見たかったなぁ……見たかったよぉ。

リーファさんはとても魅力的なキャラであり、主人公の『俺』と幸せそうな時間も描かれていましたが、最後はあっけなく父親と一緒に爆発で死んでしまうのでした。

こうした中で記憶喪失から、あざみとかつての最初の場所で記憶喪失から元の記憶を取り戻すまでの流れでしたね。
こうした中で、最後のお話で印象的なのは、『俺』にとってのリーファとあざみさんの存在の対比だったなぁと思い返すと感じます。

『俺』とリーファは父親に認められながら交際関係にありましたが、爆発によって亡くなった後、リーファに対して『俺』は以下のように話していました。
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美しいものが失われた寂寥や喪失感はある。だがそれは大切な宝物を失くしたようなもので、自分の一部がはぎ取られたかのような痛みではなかった。
俺は麗霏に、自分自身の一部を重ね合わせたり委ねたりは最後までしていなかったのだ。一人の人間を愛したとは、決して言えるものではないだろう。
麗霏の死は、俺にとってはあくまで幼い恋の終わりでしかなかった。
そして、人はある日突然に死ぬという自分自身の恐怖をまた一つ更新したのにすぎない。
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それに対して、この物語の最後の言葉
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いつか俺は、この女に殺されるだろう──過去をさまよう記憶の中で、俺へと告げた仁礼の予言が蘇る。
だが死の運命と引き換えにしても、俺はこの女と離れることはもうできない。そのつながりは、愛などではなく忌まわしい呪いであるのかもしれないが。
晴れ晴れとしたあきらめと覚悟の中、歌舞伎町に昇る朝日はどこまでも無責任に俺を祝福していた。
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『俺』にとっての麗霏さんは、憧れの女性であり恋人の関係ではあったものの、ただの人間ではない「眠れぬ羊」である俺には「突然の終焉の恐怖」を増幅させるものでしかないという儚さ。
対して『俺』にとってのあざみさんは、殺し屋である俺の隣に立つことができる殺人鬼であり、眠らせてくれる存在でもあり、無印版の言葉を借りるなら『人を殺さなくては生きていけなかった人間同士』であり。
普通の人間ではなく、『あざみさん』だからこそ、俺の隣に並ぶことができるのだということを印象付けてくれる話であったと改めて思います。

無印版では、最後の海岸シーンで、あざみさんの『獲物とそれ以外』の世界に踏み入ることができるのは、同類の殺し屋である『俺』だけだと、二人だからこそ関係が成り立つ愛のお話だったと思います。
今回のFDでは、俺の過去が語られる中で、やはり『俺』の隣に立つことができるのは、誰でもない『あざみさん』しかいないと思わせてくれるのが、無印版との違いだったと思います。

それは、『愛ではなく忌まわしい呪いかもしれない』、『晴れ晴れとあきらめと覚悟の中』で、描かれる、愛と殺人の物語。
『俺』と『あざみさん』でしか描くことができない愛のお話として、一つ違った見方ができるお話で面白かったです。

タイトル画面に戻って、朝日を浴びながら、彼らの日常に帰っていく二人の姿がとても好きです。そして最後の最後のあの言葉は、また続きを期待してもいいのでしょうか……いいのでしょうか……。



以上ネタバレあり感想でした。
無印版のようなシビアでひりつくようなお話も楽しかったですが、今作FDのような、魅力的な登場人物たちが活躍するお話、とても楽しかったです。
ありがとうございました。





雑記 スタッフコメント感想
相変わらずクロックアップのスタッフコメントは、登場人物たちのギャップも相まって、すごい楽しくて聞くのが好きです。
語ると尽きないのですが、その中でも沙雪さん役はじめ、色んな人が語る、まさか野球をやるとはね!!って感想は同感できたり、仁礼さん役のコメントにあったクールキャラから、まさかのギャグキャラしかも泣き上戸!!に対する感想だったり。
語り切れないほど面白いものばかりでした……。
みんな共通してびっくりしたと言っていたのは、まさか4年越しにファンディスクが出るとは……と言っていたのも印象的。まったくその通りでございまして、まさかでるとはね……嬉しい誤算でしたね。
スタッフコメントはすっごい好きなので、今回も良き良き楽しかった。