普遍的なゲームシステムによるRTSであるのだが、何より特筆すべきはテキストの巧さ。印象に残る、テンポがよい、唯一性がある。この3点を満たしているテキストはノベルゲームでもなかなか見られません。全てのエンディングを回収しようとするとおよそ30周ぐらいやる必要がありますが、やってしまうだけぐらいには魔性の文で溢れています。
ヴァーレントゥーガ系のゲームもそれなりにバリエーションがあり、演出やシステムでハルスベリヤ以上のものはいくつか存在する。
しかし、このハルスベリヤのテキストの魅力というのは、別格すぎたのだ。
ヴァーレントゥーガの中のとどまらず、ノベルゲーム作品と比べても遜色ないどころか、ハルスベリヤ以上に魅せるテキストを書いている作品はあまりないのではなかろうか。
実際に、自分が体験した中だとテキスト最高峰の作品であった。これが、最高のテキストだ。
絵柄は緩い感じだが、とにかく文章がかっこいいからキャラのかっこよさが際立つ。
ユニークなキャラデザと極上のテキストが組み合わさると、信じられないくらいに魅力的なキャラクターが出来上がる。
エンディングは本編、戦役、IFすべてを数えると30は優に越える。
マルチエンディングと思わせているが、正史に当たる物語は作者の中には確かに存在しており、我々は本当はなにが起こったのかを数々のピースを元に想像することができる。
あくまでも、このハルスベリヤ叙事詩2というゲームは、正史を考えるための材料なのである。
ゆえに、叙事詩なのだろう。
キャラクターは、本当に魅力的だ。
ここまで魅力にあふれている理由は、やはりひとつひとつの台詞に見える卓越したセンスと、列伝の存在だろう。
決して長い文章ではない。けれどもほとんどすべてのキャラにおいての哲学と人生観が感じられる。
彼は彼女は、こういった境遇で、こういった信条を持っているからこそ、このような台詞を口にするのだ・・・と。
キャラデザも美麗というわけではないがどれも特徴に飛んでおり、デザインのセンスも抜きんでている。
実際の歴史の民族衣装を取り入れながら、けれども型にはまりすぎず、たとえキャラチップだけでも完成されたデザインを感じ取れる。
多分、このセンスは東方と同じくらいレベル高いのではないかと思う。
印象に残り、バラエティにとんでいる。
ありとあらゆるものが唯一性を持っている。
そして本作は歴史パロディだと作者は公言しているが、自分が最も気に入ってるのはパロディがパロディの枠に囚われていないことだ。
昨今の流行りはとにかく偉人を性転換しながらそのまま出し、キャラ性を史実に頼っているところが大きい。
キャラクターの名前を史実そのままにすると、どうやってもその偉人の列伝に引きずられてしまう。
それはキャラクターへの肉付けにおいて手っ取り早い手段ではあるが、それを超えることはできないのだ。
しかし本作においては違う。史実のパロディ的要素はあるが、史実の人名は使わない。
現実の歴史に縛られることなく、いくらでも想像することができる。性格における枷はない。
ナポレオンのパロディ的キャラクターはいるが、彼女はナポレオンではなくミシェル・ブーランジェ将軍なのだ。大帝ではなく、戦場の花嫁なのだ。
以下、陣営やキャラクターを織り交ぜながらハルベリ内の史実妄想。
構成としてはIFシナリオでの出来事はほとんど実際に起こっていて、尚且つ勢力図の変遷は戦役のとおりなのだと思う。
「そして棺は閉じられる」で残ったのは、
●リヴィエラ(コスタ、アルフリット、魔女伯)
●カレリア(ルーリアン、蒸気)
●イスマン
●トルシュナー
●禍津大社(巫女連)
●ロスジェーン(大メディア、クロウスラー、神聖同盟)
●エルトリア
●ジバ(ミニッツ提督含む)
ぐらいである。
ここから終戦に向かっており、上記の勢力からさらに数が減るということはあまりないのだろう。
ただ、エルトリアだけは元々の目的を考えるに暴走したアルケーが止められればそれで良く、終戦後にはきっとまたひっそりとしているだろう。
勢力を大きく拡大せずに生き残ったのはイスマン、トルシュナー、禍津大社だが、イスマンの粘り強さがほんとうに驚かされる。
君たち一時は追い詰められて領地1だけになっていたのによくもまぁ巻き返したものだ……。
それは助力をしたネーラファナスのおかげなのだろうが、本篇とは異なり、アメイニンはネーラファナスとの共存の道を選んだのだろうか……。
禍津大社も戦史モードなどを見るに、あの島を拠点としているだけで積極的に進軍するつもりはないのであろう。
そもそも禍津の島って経済値が低く、攻め入る利点が薄すぎる。
(この経済値によって国家における利益などを考えられるのも、ハルスベリヤの面白い部分だ)
ブーランジェ将軍の列伝を見ても島流しの先として存在しているし、彼女らはずっと不死者の島として生き続けるのだろう。
※死んでいるが
この百年戦争で最も勝利者に近い勢力は、間違いなくジバだ。
ロスジェーンの従属国でしかなかった彼らは独立を勝ち取るだけでなく、大陸西部の領土をほぼ掌握している。
君主としてのエフウァルテスの地位は盤石であり、旧ベスギト帝国の戦力も取り込んでいる。
たぶん、この作品で最も主人公しているような名君。ミニッツ提督となんか良い関係だしそもそも若者の男って彼とユオーロスぐらいしかいないよねっていう。
ただ、ジバって土候の権力が強くてこれを黙らせるのに苦労したのは本篇でもIFシナリオでもよく分かる。
本篇ではイシュダルが共通の敵と立ちはだかることで、エフウァルテスと土候は一丸となったが、本来共通敵として立ちはだかったのはIFシナリオと同じくシュフラン提督なのだろう。
ジバにとってはシュフラン提督による大規模な略奪が最大の危機であり、それを乗り越えたからこそ、あそこまでの強国として上りつめたのかもしれない。
流れとしてはシュフランの略奪 → ジバ一丸で抗戦 → シュフラン撤退 → ヌィーとの決闘で死亡 か?
でもよく見るとシン王も最後の戦役ではいないんだよな。
ここらへんは物凄く想像するのが楽しいところ。
一方で、最大の戦力を持ちながらも苦い勝利に終わってそうなロスジェーン帝国。
この国家は政治的意図があまりにも多く、考察するのは大変難しい。
普通にプレイヤーだ操作したら一番強いのは当たり前だが、周辺の宿敵の多さ、そして内部の人材たちの派閥があることから自由に兵を動かすのは難しいのだろう。
ガルベシアの人材がいないのは、たぶん全員戦死したんだろうな……。
戦史モードの鋼の鉄随では、プレイヤーがアルキウス側を操作するけど死亡時のイベントが多いことを考えると、
男たちは征伐騎士らに討たれてしまったのだろう。
「人間は追い詰められなければならぬ。頭を回し、腕を振るい、人間性を捨て、ようやく生をつかめる程の、窮地を」
戦闘狂とされるニフロネフのかの戦闘中の台詞だが、男ならどこか分かってしまうこの狂気に満ちた感情……。
かっこいい……。
いやなんてかっこいいんだ。「自分がどれほどの人間なのか」そう思ったことがない男なんて、いるだろうか。
それを試すためだけに、豪族としての立場を捨て、戦争屋としてアルキウスと共に不利な状況で戦い続ける……。
発想の元が、列伝の内容からも分かるようにジョジョのスティールボールランにいるリンゴォ・ロードアゲインから来ているように感じるが、
正に彼も男の世界を、覇道を突き進んでいるのだ。
話が逸れたが、そんなわけでガルベシアの面々はみな戦死していると思われる。
戦役中に一時はロスジェーンに吸収されていたが、最終的にはひっくり返そうとして散ったのだろうな・・・。
コリオメソスは策謀家として有能すぎて、人材を使い古して消耗させて、最後には自身が権力を握る、と。
それでもクロウスラーや神聖同盟の面々が反旗を翻さなかったのは、やはり大陸全体の中で生き残るには必須だったからかなぁ。
ここはifの貴婦人たちの戦いが答えか。
ただ、結果を見ると大陸西部はジバにとられ、東部はカレリア帝国に進行を許し、聖都はアルケーの大災害を許してしまった。
戦役のあらすじを見るに、コリオメソスの死が終戦のきっかけなのかなぁ。
また消えた勢力は、黒火、アルシカ党、都市同盟、ガルベシア、ダーダ、白砂糖、ベスギト帝国、オトラン、テスハム、ペンギン・・・と結構多い。
ダーダ、テスハム、ペンギン、都市同盟は本編の難易度から分かるように普通に敗北してるのだろう。
黒火は・・・一時はアルシカ党に入っていたがここらへんはアルシアの死に深く関係してそう。
アルシカ党は一時的に首都を占領した紛れもない強豪であったが、皇帝はどこかで命を落とす。
戦役のどこかでアルシアは死んだが、これやっぱり持弓に殺されたのではないかなぁ。
戦史モードのドラゴンズドリームでは証聖が報告者を殺したりしてるし、実際は死んだが、生きていることにした、と。
多分あの報告は隠喩なんだろう。
オトランは列伝の通りエフウァルテスにヨハイーナちゃんに毒杯を飲ませて・・・。
惨いことするなぁ・・・。ミニッツ提督には紳士的だがヨハイーナちゃんには厳しいエフウァルテス。いったいどこで差が付いたのか。
そしてベスギト帝国も勢力として消えたが、ファンがみんな思うのは「あの武帝が負けるの!?」ということだろう。
間違いなく最強ユニットの1人である武帝。
北方三国志で見せるカリスマは凄まじく、彼を好きにならないファンはそうそういないだろう。
だからこそ、北方3国で戦わなければ勝てなかった。
結局は負けたのだろうがその生死は不明。
ここも想像を膨らますのが面白いところだ。
とまぁ、これだけ考える要素あるけどまだまだ設定奥深いんですよ。
それこそキャラひとりひとりみたらキリがないし、ハルベリ談義がいくらでもできるファンは多いと思う。
設定の奥深さ、極上のテキスト、多彩なキャラデザ。
間違いなく怪物たる作品だ。
●追記
92→95にしました。
テキスト、キャラデザ、世界観、考察要素、ゲームバランス……これらにおいて私の中では間違いなく最高の作品です。
有り余る中毒性とまだまだ底が見えない奥深さ。
私が他に高得点つけている作品のように号泣はしていないんですが、身を撃ち震わす別種の感動を確かに感じています。