この作品の舞台は、良い雰囲気を持ちながらも、業績不振で閉店の確定したファミレス。歴史上の人物に例えれば、徳川慶喜、あるいは後漢の献帝。優秀でありながら、結局は己の王国の滅びを避けられなかった悲劇のリーダー。そして、メーカー最期になってしまった製品でもある。シナリオとキャラクターに見るべきもののある、良作。
このゲームはファミレスを舞台にしており、業務の内容やフランチャイズ本部の話はちゃんと書かれており、勉強されていると感じた。
そして日常を丁寧に描いている点、会話や心理描写が強く状況描写が淡白な点から見ると、戯画のショコラ・パルフェ系統が思い出される。
公正に見て、それらに比べれば音楽やシステムなど及ばない部分があるのだが、それでも作品としては充分なレベルにあると判断している。
むしろ、シナリオの技巧レベルではこちらのほうが上かも知れない。
というのも、ここの登場人物たちは、目に見える特技をほとんど持っていない。例えばピアノが上手いわけでも、料理が抜群なわけでもない(紅茶を淹れるのが上手い人はいるが、シナリオ展開に利用されているわけではない)。
あくまで日常的な接客態度や、メンバー間のやり取りだけで話が展開し、それでいて各メンバーの素晴らしさ(人間的強さや、優しさ、有能さなど)の演出に成功していると思う。
ただし。自分はこういう、技能賞とでもいうべきシナリオは大好きなのだが、それは逆に言えば劇的ではない。
だから、息を呑むどんでん返しの連続や、死者さえ生き返るような奇跡を求めるのであれば、物足りなく思うことだろう。
また、一番の盛り上がりのあと、エピローグの前後にはかなりの回数の濡れ場が連続する。一回戦ごとの長さは短めと思うが、全体としては多くなる。というかそれ一色の印象。
どうも山場までのイメージが損なわれるというか、シナリオ本線の余韻が消えるというか。
ゲームの本質の一つだから、「減らせばよい」とも言えないのだけれども。
次はキャラクター。こちらも優れている。
特に、主人公。誠実、真摯。自分に自信を持ち、逃げることなく物事に向き合う。周囲を思いやり努力を惜しまない。
本当の意味で"できる人"である。
閉店作業と人員整理を命じられ、汚れ役と思いながらも、全ての店員の最善を考え続ける。出来る限り店の一員であろうとする。
…若くして出世していたり、周りに慕われる人という設定はいくらでもある。本作もそれだけを見れば同じだ。
しかし誰のルートでもいいからプレイして、この主人公の言動を見れば、むしろそうならないほうがおかしいとさえ思えてくる。
男女関係にしても、相手の気持ちをちゃんと考えた上で、大人の事情まで組み入れたりと抜けはない。
鈍感なことを起爆剤にすることは容易だが、それはキャラの思考放棄というか、製作側の描写放棄の場合があると、時々思う。
"ちゃんと考えている"内容は文章で表すしか方法がなく、シナリオライターの力量に大きく依存する。それが出来ているのはGood。
告白などにしても相手をリードしつつ、経験に裏打ちされた大人の台詞と、正直な自分の気持ちで緩急取り混ぜ相手に向き合う。
こういう主人公を書けるのであれば、暗い過去だの劣等感だのを持ち出さずに深みを出せるという良い手本だ。
主人公以外も、包容力のある日和、有能な静、要領の良い(褒めてる)希美果、天才肌の輪廻、ドジの明日葉。
ヒロイン達それぞれ、別の個性を放っている。
そして、誰一人として"自己中"ではない。これは、作品全体を清清しく感じさせていて、読後感を良くしていると思う。
サブキャラクターも総じて良く出来ているが、玲奈が一番印象に残る。なんとも格好いい。
テキストについては、ピントがしっかりしているというか、文字数の割りに伝えたいことは明確になっている。
しかし、「ん、終わり?あと2,3文だけでもあればなあ」と思う部分はあった。
最後に。個別ルートの内容についても書きたいところではあるが、ネタバレになるので、今は回避。いつか加筆したい。
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システム 3/5 標準レベルの機能あり。
音楽 6/10 ダメというわけではないが、場面を盛り上げるパワーを持ったものは少ない。あとStand in lineは昔の野球アニメを思い出す…。Alive and kickingなども個性的。
グラフィック 8/10 背景はやや弱いが、立ち絵や一枚絵は十分なレベル。
ゲームコンセプト 7/10 舞台はよくあるレストラン・喫茶店ものだが、業務の内容がゲームに充分反映されている。
キャラクター 14/15 好感の持てるキャラクターがほとんど(明日葉だけは好みが分かれるかもしれない)。社会人というか、"大人"が多い。
シナリオ展開 18/20 シナリオ本線は優秀。構成について言えば、中盤にはヒロイン視点の回想が複数挟まれて、プレイヤーが心情的に置き去りにされることがないようになっている。
テキスト(台詞回し) 16/20 会話と心理描写が特によい。一方で状況描写は不足気味で、感動的シーンの余韻形成に失敗している部分あり。
特別評価 10/10 キャラクター+5、シナリオ+5
計 82