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kuroJrさんの車輪の国、向日葵の少女の長文感想

ユーザー
kuroJr
ゲーム
車輪の国、向日葵の少女
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
94
参照数
515

一言コメント

シナリオ9点 取り巻く世界観9点 シチュエーション9点 グラフィック9点 音楽10点 キャラ(ヒロイン10点 主人公10点 脇役10点) エロ8点 その他10点  時間は人を変える。でも変わらない想いもある。人の弱さが唯一、社会に抗う力なのだと分かった。あと、伏線を途中で見抜けた人はすごい。Σ(゚Д゚;エーッ!と、画面の前でなったwww

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ネタばれは控えます。
ネタばれでもいいという方は下の方へ行ってください。

(ネタばれ自重編)

●シナリオ:9点

全体を通して、山と谷がはっきりしている作品でした。
起承転結がはっきりとしており、特に章ごとの「転」と「結」は逸材。
なかなか、オチが読み切れなかったが、王道の部分はきちんと王道を貫いており
ユーザーにとっては安心してプレイを楽しめる。

非常にまとまった作品でしたが、終わり方が好きではなかった。
どれも、私が求めていたENDはなく、エンディング自体は
他のギャルゲー、エロゲーと大して差はなかったことが残念。

●取り巻く世界観:9点

我々が生きている日本とは似て非なる日本。
現実的で、他のゲームのようなご都合主義とは無縁。
正しいことは弱い、社会とは理不尽なことだと、よく思い知らされた。
これは、私達が生きている社会にそのままあてはまる。

弱い者は搾取され、強いものだけが得をする。
「知る」ことができる人間とそうでない人間が
どれほどの力の差を生むのか。
そういう、教訓もこの作品の随所に盛り込まれており
非常にためになる。

ただ、こういう説教臭いのが嫌いな人には受け付けない作品だろう。


●シチュエーション: 9点

回想シーンと現在のパートが交互にあり
物語を理解する上で効果的だった。

各キャラ別にいえば、「結」の部分とそれに至るまでの過程
……こう表現したら起承転結すべてな気もするが、まあ素晴らしいのだ。
キャラの心情や思い等を想像すると面白い。

わずかずつだけど確かに変わるヒロイン達
人の心は移ろいやすいけど、そのほんのわずかの差異を
感じ取ることができればこの作品は名作へと変貌するだろう。


●グラフィック:9点

最近のハイクオリティなCGよりもこちらのほうが落ち着く
2005年、06年あたりが私にとってベストです。

ただ、このゲームに限れば、画質的には満足ですが
CG数が少なめだったことが残念。


●音楽: 10点

言わずと知れた名曲。「紅空恋歌」
片霧烈火さんの曲の中で二番目に好きです。

一番はG線上の魔王のOP「Answer」です。


●キャラ:30点

ヒロイン:10点

一人一人に個性があり、みんな魅力的です
各ヒロイン達は問題を抱えています。
その問題は「義務」という形で法の下罰せられており
その「義務」が彼女達の魅力をしばる枷なのです。
詳細は(ネタばれ編)で語ることにします。


主人公:10点

反則的な完璧超人で、こういう人になりたいと思って
おいそれとなれるようなものではありません。

強い精神と強い肉体。
冷静な判断力と大胆な行動力。

相手の心のうちに上手に飛び込むテクニックは
ホストというよりもむしろ詐欺師に近い。

相手を自分の意のままに操る話術なども見ものです。

脇役:10点

主人公の上司の方が、これまた反則的というよりもはや反則、チートです。
主人公以上に冷徹に目的を果たそうとする強い意志。
手段を選ばない合理主義さと、主人公ですら手のひらで転がす先読み力。
圧倒的で、味方にも敵にもなってほしくはない存在です。

もう一人、主人公のクラスメイトで友人。
少しばかりメンヘラですが、実はすごく頼りになる男です。
時々、妖精サンと話すなど飛んじゃっている感もしますが
物語の要所、要所で外すことはできないキーマン。

●エロ:8点

あまりエロはいらないと思いますが、純愛的でいいと思います。
CG自体は少なめですが。
エロ目的で購入しなければ大丈夫です。

●その他:10点

全体を通して、複線の嵐。
どうして気付けなかったのか悔しいです。

途中で引っかかる点はたくさんあったはずなのに
考えもつかなかった。
これも固定観念に支配されていた結果なのだろうか。



ここからはネタばれです。
プレイしてない方は引き返してください。
プレイしてない方でもいいという方は下へGO!


(ネタばれ編)

物語は主人公こと森田賢一がかつての故郷で行われる
特別高等人の最終試験のため7年ぶりに訪れる。


そこは向日葵が咲き乱れる美しさと残虐な過去を併せ持つ土地だ。

その向日葵畑の中、たった一人立ち尽くし少女が一人。

7年ぶりの再開

出会った場所は同じでも両者は過去とは違っていた。

賢一は特別高等人として苦難の日々を耐え抜き
夏咲は数々の支えを失い、光をかけた生活を送っていた。
ただ、主人公が戻ってくることだけを唯一の支えに。

時間は人を変えるいい例だと思う。
どんな人間だろうと変わらないなんて
ありえないことなのだから。

でも夏咲は変わらない。
表面上は変わったかもしれない。
でも、4章の最後

「私はけんちゃんが大好きです」

この言葉、この思い。なんら7年前と変わっていなかった。

変わりやすい世の中だからこういう変わらないものは
美しいと私は思う。


ここで、ストーリー的には2章、4章はガチです。

2章のさちとまなの別れ、4章の夏咲の「大好きです」には
久々に号泣してしまった。

3章の灯花と母との確執の雪解けも見事。
泣きはしなかったけど

「私は一生子どものままでいい」

には、鳥肌がたった。ここだけとり出したら
ニートみたいな発言ですけどね(笑。

これを言うまでの過程を知れば、これほどまでに
強さを表現できる言葉はありません。


ここまでの1章から4章は言ってしまえば
とっつあんの手の上で転がっていたもの
作られた演出、作られたシナリオ。
けんもこれに踊らされていたに過ぎない。

最終章でとうとう、けんととっつあんの勝負になります。

とっつあんは引きずる足
けんはケムリ(薬)

お互いに最後の最後まで奥の手は隠し持っていた。
相手の裏をかく読み合い


でも、やはりというかさすがは法月のとっつあん

一度は敗れたものの街の外への脱出先で待ち伏せとはやるな。
冷血非道な法月サンもけんの父とは友人だったのだと思わせる
優しさを最後の最後で……いや、けんを拾った時に
優しさはもう見せているのかな。

物語の続きが本当に気になるところだ。FDもしようかな……。

後、伏線のことだが、最終章まで気付かなかったな。

お姉ちゃん、まさかの登場。

実は最初からいたなんて……。

たしかに、さちの部屋のシーンと灯花の教室のシーン
京子の誰かサン発言に、主人公の独りごとの多さ
伏線はいろんな所にあったし、私も不審には思っていたのだが
ただ、姉の持つ極刑の意味を知らないと分からないか。

もう一つ伏線で伏線のまま納得いかぬまま終わったことなのだが
夏咲の言った京子と灯花の似ているという発言

灯花はたしかに京子の弟の娘だが、その弟は養子なはずで
京子とは血は繋がっていなかったはず。
にも拘らず、二人は似ている。

夏咲の言ったこの言葉
伏線のまま回収できぬまま終わってしまったように思えて仕方ない。


PLAY時間は一日で終わる。
暇な大学生の春休みなので朝の8時から夜の11時まで
ぶっ続けでやって終わりました。


最後にこの作品についてですが
名作といわれるのはよく分かった。

ではどういったところが名作なのだろうか?

クロチャンのような閉鎖的空間の中に起きる
極限状態の人の葛藤、謎を多く残す難解なシナリオ

または、クラナドのような人を泣かせるポイントを
上手につかみ感動を与えるような内容

名作になり得た作品は各々、理由は異なるが
結局のところ、未来において各々の作品を
思い返すかどうかだろう。


この車輪をプレイし終えたのは昨日だからまだ名作とは
言えないかもしれない。でも、この作品には私が名作と
感じている作品と通ずる点がいくつもある。

きっと、近い未来にでも思い返しこれは名作となるであろう。

社会の理不尽さとどうしようもないことはあるということ
どうしようもないことに抗おうとする強さ

そんなことが知れた作品だった。