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kurageさんのWHITE ALBUM2 EXTENDED EDITIONの長文感想

ユーザー
kurage
ゲーム
WHITE ALBUM2 EXTENDED EDITION
ブランド
Leaf
得点
90
参照数
641

一言コメント

令和最初のエロゲー批評。自分だったら千晶を選ぶ、その理由と本編批評。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【はじめに】
高校から大学、社会人になるまでを3章で描く青春群像劇。
昔の恋を引き摺りまくり、浮気や三角関係に陥ってからがスタートとなる修羅場ゲーの第二作。
個別販売された前編、後編、外伝が全て収録されたこの完全版が初プレイ。

プレイしての主な感想は、下記4つの通り。


・春希は本当に最低な主人公だが、White Albumシリーズにおける役割を踏まえて創られたキャラクター
・Intro(1章)とCoda(3章)はかずさがヒロインで、春希と雪菜のW主人公という構成のメインストーリー
・Closing(2章)は他二つと地続きであるが、春希の単独主人公と4人のヒロインという構成のサブストーリー
・自分だったら千晶を選ぶ


【物語について】
一般的なヒロイン攻略型の美少女ゲームであれば、共通ルートを通じて知り合った子から一人を選び、個別ルートで関係性を深めていく。本作は1章の時点から2人のヒロインの間で揺れ動き、登場人物が出揃った時点で三角関係の状態からのスタートとなる。そこから物語が始まる時点で、一人のヒロイン単独との関係性構築や掘り下げはあり得ず、否応なく複数のヒロインを巻き込んだ人間関係を前提にしたドロドロの物語になっていくこととなる。

それこそが、White Albumの物語である。雪が降っている間は美しくても、溶けると泥濘でドロドロの世界観である。


-美少女ゲーム史上稀に見るクズ男、春希-
その中心となる主人公となる春希は女性関係においてクズでなければWhite Albumの物語は成り立たない。
具体的には気のない相手には断りを入れて、一人のヒロインと真摯に付き合うということがとにかく出来ない。
春希の場合は皆に本気になってしまう、特にメインの二人(かずさ、雪菜)に対してだが、それに加えて2章以降他のヒロインにも粉をかけていくのだから質が悪い。
真面目でお節介でしつこい優等生という割には、女性関係に関してはクズであまりにも迂闊で行動に一貫性がなく、彼個人をキャラクターとして好きになることは難しく、むしろWhite Albumで与えられた主人公の役割をこなすとこうなるのかという像として捉えている。


-雪菜の、3人でいることへの望みと呪い-
1章から3章にかけて、この物語の本筋はメイン二人との三角関係にあって、その根幹は特に雪菜が強く願った「3人でいること」への望みであり、呪いとなる。学生時代のもっとも美しく、もっとも楽しいひと時を3人で過ごした。その関係性を永遠に続けたいという思いが3人の人生を縛る。
放っておけばお互いに好意を寄せあう春希とかずさが付き合ってしまう未来を察した時に、雪菜が置いてけぼりにされないように行動して待ったをかけた。そこが歪でドロドロした関係性の起点となる。


その上でデフォルトの恋人となる雪菜の存在が全章に横たわり、春希とヒロインの二人の関係性だけでなく、雪菜との関係性が物語を大きく左右する点が本作の特殊性として挙げられる。
2章においては雪菜ルート以外では雪菜との離別と、他ヒロインとの掘り下げを春希の選択を通して主体的に行うことが出来る(=サブストーリーとして完結している)


しかしながら、一本道である1章や、3章では主人公以上に雪菜の行動こそが物語を決定づける。その意味で、雪菜は一人のヒロインというよりはもう一人の主人公として捉えることが出来る。
同じく1章、3章に登場するかずさはそれとは逆に、あくまでも主人公たちの行動ありきで受動的であり、物語の決定権を持たない。その意味ではかずさは攻略対象ヒロインの枠から出ず、雪菜とは対称的な位置づけからは動くことはない。


【ヒロインについて】
・千晶:魅力的で都合の良いガールフレンド、その正体は演劇の天才。


冒頭にも述べた通り、もし自分が春希であり全ての選択肢を自由に取れるとすれば私は千晶を選ぶ。
彼女に関する物語において、彼女の演劇とその役に病的なまでに傾倒する様は非人間的であることが終始強調される。春希との関係を深めて1章の三角関係を劇のネタとして磨き上げていくことが彼女の目的であり、最終的にはそれを衆目に晒す(高校が同じ関係者であれば事情が分かる)という意味で本作中でも繰り返し悪質である、宇宙人であると言われる。しかしながら、少なくとも本作においては周りの人間を振り回す、傷つけるという結果をもたらす登場人物は春希自身を始めとして、雪菜や小春などヒロインの中にも多く、異常と批判されるほど際立った異常さは感じられない。


また、彼女自身は春希に都合の良い女友達/彼女という演技をしつつも、彼女の行動の全てが虚飾であるとは言えない。自分の本心を隠すという意味では他の登場人物たちにも共通しており、最初から騙す意図があったにしろ、最終的にお互いがハッピーエンドにまで至る可能性があるのであれば、関係性の始まりが演技であったことは些末な問題のように思えた。


彼女が登場するタイミングというのも重要である、かずさにしろ雪菜にしろ、2章冒頭においては春希が求めるタイミングで、求める行動を起こすことが出来ていない。だからこそ2章に登場するヒロインたちが必要で、1章から2章冒頭までの重い人間関係の過去からは、脱却した未来を主人公が求めても何ら不思議ではない。
演技で近づいてきたにせよ、2章冒頭の傷を癒していたのは他ヒロインではなく千晶で、個人的にはあまりにも重い過去(メインテーマではあるが)とは離別した未来を掴んだ二人の人生こそが、最も魅力的に感じられた。


・かずさ:春希の初恋の相手であり、孤高の天才ピアニストのメインヒロインの一人。


雪菜がいなかったら、もっと穏やかに二人の関係を育んでいけたかもしれない正統派ヒロイン。だが本作はそうはならず、雪菜との三角関係の中において、傷つきあうことで磨き上げられていくという不遇な運命を背負っている。圧倒的なビジュアルと才能を誇りながら、破滅的な対人関係の下手さによって、主人公以外は必要とせず一切靡かないという設定により、愛が重くて大変魅力的なキャラとして描かれている。挙げたような本人固有の設定からすると主人公と結ばれるための必然性が高いが、そうは簡単にいかないところにこそ本筋の魅力はある。


・雪菜:元凶であり、すべてのルートを横断する正妻ヒロイン。もう一人の主人公。


物語の項目でも先述した通り、彼女は本編そのものと深く繋がっており、White Albumの物語を構成する上では主人公と並んで欠かせない一人。1章において、人生で最も楽しかったひと時を過ごした3人でずっと一緒にいたいという希望がそれぞれの運命を縛り付けるが、その原因であるという自覚があり、責任を償おうとする姿が2章以降では描かれる。その責任感が強いというレベルが度を越しており、春希のクズさに引けを取らない程、常人では考えられないような発想と行動でプレイヤーを驚かせる。


また、春希と付き合っている状態において、タイミングが彼女との関係性を続けられるかどうかを左右する。お互いに想いが残っていたとしても、このタイミングというボタンを掛け違えると、その後の人生を共に進むことが出来なくなる。雪菜自身が1章の学祭後の音楽室でタイミングを逃さないように行動に至ったことで春希との恋人関係を確立して他ヒロインよりも優位に立つが、それによって2章以降は常に追われる=タイミングを外せなくなる立場になってしまうという運命にあり、むしろ2章以降で本人の強さが描かれることとなる。


・麻理:過去とは決別して仕事に打ち込んだ場合のヒロイン。


主人公の初恋の相手に雰囲気が似ており、かつ別の恋人と付き合っている間で身体を求められてしまうという悲劇のヒロイン。2章冒頭までのトラウマから離れるために打ち込み始めた仕事上の尊敬する上司であるが、他の学校関係の登場人物とは距離があり、彼女を選んだ場合は過去とは最も距離のあるところで人生を送ることとなる。


・小春:過去の人間関係に疲れ果てた先で救いの手を差し伸べてくるヒロイン。


関係者が多く在籍する高校の後輩であり、彼女とのルートは周りを傷つけてまでも一緒にいるという本作でも最も破滅的な道として描かれる。しかしながら、これは中学時代の雪菜のトラウマの補完でもあり、当時は大喧嘩したとしても時間と共に関係の再生は可能という希望を示す。
千晶同様、2章では重い人間関係からは解き放たれるという意味で、タイミングよく救いの手を差し伸べてくれる可能性のある未来の一つ。