”物語”というものの良さを再確認できたおとぎ話のようなSF
久しぶりに、「ああ、いいなあ」と素直に感じることのできた作品であったかなと。
どういうことかというと、それだけシナリオライター(七星電灯氏)のやりたいように作っているといえばいいのか、細かいところまでこだわりを持って作っているといえばいいのか、まあつまりは作り手が作品に対して愛情をもって作っているというのが非常によく感じられたというわけでございます。
作り手として何かモノを作る以上、それを感受する受け手のことを考えないわけにはいかないわけで、そうなるとどこかで受け手の好みを取るか、作り手の好みを取るか迷う瞬間が現れてしまうと思うんですね。
無論、別にどちらを取っても間違いではないし、受け手の求める需要を的確に取り入れて結果的に名作になった作品も多くあるわけで、どっちが良いとか悪いとかそういう話はしません。しかしあまりに受け手の好みを取りすぎると、作品全体が受け手に対しての媚び諂いみたいになって、良くも悪くもまあどこかで見たような工業生産品的な作品が出来上がってしまうと、まあ個人的にですがそう思うのです。
しかしこの『BETA SIXDOUZE』という作品は、前作の『ALPHA NIGHTHAWK』同様、徹頭徹尾作り手の好みが反映されていて、しかも作品に対してものすごい真摯に向き合って作っているなあと。
「自分の関わった数ある作品の一つ」ではなく、「自分でしか産み出せないものをこの世に出そう」という心意気と言ってもいいかもしれません。
そういった”心意気”があったからこそ、受け手であるこちらも、素直に作品に没頭でき、楽しめることが出来たと、そういう意味で「ああ、いいなあ」と感じたのかなあと、そう思った次第でございます。
そりゃまあ、例えば田中ロミオ氏や瀬戸口廉也氏、同ブランドで言えば希氏のような巧みで魅せる文章というわけじゃありませんし、同じSFで言えばマブラヴシリーズみたいなとんでもなく壮大なスケールのお話というわけじゃないですし、演出面もあそこまでビュンビュン動かしたりはしていません(というか予算やスケジュール的に無理)。
どちらかというと、そういう作り手の技術のすごさに感心する作品というより、作り手の純粋性、良いと思ったものを素直に作品に投影している姿勢とか、そういったものを楽しむ作品でありました。
こんな風に書くと、じゃあ思いがあるだけでレベルが低いのかと勘違いされるかもしれませんが、いやいやそんなことはありません。
むしろ企画、シナリオ、原画と三足のわらじを履いて、きっちりとまとまりのある物語を二本にわたって作り上げるとか、よくやれたなあというか、逆に原画、シナリオを両立したからこそ作品全体に一貫したものを感じることが出来て、前述のような感想が出てきたことを見ると、七星電灯氏の才能には目を見張るものがあるといってもいいのではないかと、そうも思うわけですね。いやはや、いつも思いますけど、ライアーさんはどこからどういうコネでこういう人を連れてくるんだろう。
惜しむらくは、宣伝というか、知名度のなさでしょうかね。こういうどちらかというと硬派な作品は、昨今受けが悪い(らしい)ので、どうしてもマイナーになりがちなんでしょうが、作品のレベルの高さから考えると、もう少し売れてもよさそうな気もするのは贔屓目に見ているからでしょうか。それにしてももう少しライアーさんは広報に力を入れた方がいいんじゃないかと。(おそらくまあ人材がそこまで足りないんでしょうけど)
作品の具体的な中身に関しては、ほかの人がおそらく語ってくれると思うので私は書きませんが(というかここまで書いてだいぶ長くなったので省略)、一つ言えることは「”物語”を楽しむのが好きな人なら買って損はない」と思うので、検討している方は体験版をやって、とっとと買いましょう。
その時は前作の『ALPHA NIGHTHAWK』も忘れずに。