素晴らしい作品に出会えました。音ゲーという印象がある方は自動モードがあるので問題ありません。丁寧な心理描写が魅力で、シナリオもとてもよかったです。
(※ 感想は作品を進行しながら書いたものです)
■ トルタルート
見た目がそっくりの双子の姉妹トルタとアル。
姉のアルは歌の才能はなかったが料理が得意で、性格はおしとやかで自然に気配りができる優しい女の子。
妹のトルタは歌の才能に恵まれたが反面料理は苦手で、性格はしっかり者で真面目。
主人公のクリスは故郷を離れ有名な音楽学校のフォルテール科に通い、歌の才能があったトルタは同じ学校の音楽科に、才能のなかったアルは故郷に残ってパン屋さんに勤めている。
付き合っているアルとはそのため遠距離恋愛。
中世ヨーロッパ風の街並みに雨が降り続ける街という設定、耳に馴染む心地よいBGM、家に住み着くフォーニという妖精、そして離れた場所に住む恋人との手紙の交換、かなり雰囲気がいいです。
双子の姉妹と遠距離恋愛という設定の組み合わせは個人的にすごくはまりました。
アルもトルタも主人公が好きで、付き合っているのはアルだけどいつでも会えるのはトルタ。
姉妹なのでアルとトルタの仲も親密で、この三角関係がとても丁寧に描かれています。
一つ一つのセリフにキャラクターの心情がしっかりと込められていて、そのテキストとしろさんの原画や背景、そして音楽が見事に調和しているのがたまりません。
クリスは、自分でなんでもできるトルタよりもアルにこそ自分が必要だと感じて恋人になった。
それからアルは恋人、トルタは幼馴染として接するようになっていたが、トルタと卒業公演のペアになり時間を共有するようになって、自分が思っていたほどトルタは強くないこと、そしてトルタのことも好きだったんだということに気づく。
結果として身を引いた形になったアルと別れてトルタと付き合うことになったが、二人に誠実に向き合い、しっかりと考えて自分の結論を出したクリスには非常に好感が持てました。
最後に訪れたアルはトルタと考えるのが妥当でしょう。
トルタのことを考えていながら目の前のトルタに気づかない。
最後まで名前を呼ばれることなく去っていったトルタの心情は複雑ですね。
ラストシーン駅の前で真相を話そうとする場面で終わるわけですが、画面が消えてただ降り止まない雨の音だけが聞こえる最後は、妙に耳に響いてきてプレイヤーの私自身雨に打たれているような気分でした。
■ファルルート
クリスが通う学校の元生徒会長(音楽家3年生でクリスと同年代)
何でもできて先生からの信頼も厚く、おしとやかな印象がありつつも明るく能動的。
話す様子や飲食禁止の練習室でこっそりお昼を食べていることからマイペースな人物なのが伺える。
それでいて約束を軽んじていたアーシノには真面目に注意したり、卒業演奏の相手を決める大事な場面では慎ましい性格がでてくる。
他人のために行動ができる所が目に見えて長所だが、自分の事もしっかり考えて両立している所が本当にすごいところで魅力的な人だと思う。
こんな人が真剣にプロを目指す姿をみればそりゃ応援したくなりますよね。
そしてこのルートでも恋人のアルは離れたところからクリスを想っていて、それでもクリスの意思を尊重するように自分の意思を引かせていきます。
遠距離恋愛は続かないというのは現実でもよく言われますが、これはアルの優しい性格もそれを後押ししていますね。
自分の気持ちは確かにクリスに向いていて恋人という関係なのに、長いあいだ手紙でしかやり取りできなかったためにクリスの真意がわからない。
自分の存在がクリスの枷になってはいないか、そんな風に考えてしまう為、自分を好きでいて欲しいと思っていてもそれを強要されるような内容は書いていない。
アルにとっては、自分の幸せよりクリスに幸せであってほしい、という気持ちが強いんでしょうね。
トルタルートに続きこのルートでのアルの手紙を見て、アルを応援したい、アルに報われて欲しい、という気持ちが一層強くなりました。
(↑全てトルタだったことを後に知る)
そして完璧と思えたファルにも闇がありました。
孤児で育ったファルは、歌うことこそが唯一の希望で生きる目的だった。
そのために彼女は人を利用する。
実績が必要なファルは、クリスのフォルテールの音に惹かれてアーシノを利用して近づいた。
そのアーシノからファルに卒業演奏のパートナーの依頼もあったようだが、断りを入れても信じない彼に、ファルはクリスとキスをする現場を意図的に見せた。
アーシノには諦めさせるために、クリスには自分の全てを知ってもらうために。
正直驚きましたが、人を利用するという考えは変わらない、クリスに近づいたのもクリスではなくクリスの奏でる音が好きだから、それでも包み隠さず自分の悪い部分を知ってほしいという気持ちは少なくともクリスという人間に対して好意が芽生えたからだと思います。
ファルは何も非人道的なことをしたわけでもなく、ただ自分に正直で、クリスに誠実であろうとしただけだ。
クリスの奏でる音が必要で近づいた気持ちと、人として好意を持った気持ちはどちらも本物で、その結果が自分の考えは変えられないけど全てをクリスに知ってほしい、という結論になったのでしょう。
恋はその人の全てを知るところまで、愛は全てを知った上でそれを許していくこと(某月に寄りそうゲームのみなとんのセリフですね)
完璧な人なんていない。
相手に自分の理想を押し付けて悪い部分から目をそらし、本当のその人を受け入れられないというのは愛ではない。
このルートではそれがよくわかります。
クリスに受け入れられたファルは、クリスの前では自然体で過ごすようになり、ED後の最後のシーンでは
「愛してる、クリス。あなたも、あなたの奏でるフォルテールの音も」
と言っている。
クリスの音が好きという意味合いが強かった気持ちが、それからの日々で好意の意味合いが強くなっているのが分かります。
こんな幸せもあったっていいよね。
■ リセルート
楽しそうに歌を歌う姿と、内気で自信のないところが昔のアルに似ていることからリセに関心を持つクリス。
リセの事情を知らず他の生徒に避けられる現場を作ってしまったことについて、トラットリアでファルと話す場面で、やはりファルは無理にクリスをパートナーにしようとはしていないし、気遣う優しさや忠告をする正直さがあることが再確認できてよかった。
貴族で有名な音楽家であるグラーヴェに孤児院から拾われ、フォルテールの教育を受けていたリセは、ファルとアンサンブルで歌を歌っていたことで躾と称して虐待を受け、声が出せなくなっていた。
そんなリセを守るため、クリスの家で共に生活をすることになるのですが、リセは本当に初々しくて可愛いですね。
思っていたよりも芯は強い子だなぁと思いました。
クリスの相手が定まるといつも消えるフォーニとの別れもこのルートで三度目ですが「これなら、安心してクリスを任せられそう」というセリフはクリスとの関係性がうまく表現されていて妙に感慨深かったです。
トルタはトルタでフォーニとはまた違いますが、クリスを見守る姿には本当に優しさが込もっていていい女の子だとしみじみ感じました。
一緒に街を出ることを決意した二人だが、最後に思い出の楽譜を屋敷に探しに行くとその曲はグラーヴェがリセの母の送った曲だと聞かされ、(言葉の上では)反省した態度で戻ってくるように言われるリセ。
それでもクリスと一緒に出ていく決心は揺るがず、卒業演奏での出来次第でグラーヴェもそれを認めると言うが何ともきな臭いです。
そして卒業演奏後、グラーヴェを疑いもせず楽譜を取りに言ったリセは歌えない状態になってクリスに引き渡された。
故郷の病院で言葉もまともに喋れない状態のリセを通いで看病しながら思い出の曲をフォルテールで引き続ける日々。
そんな日々を繰り返してリセにも笑顔が戻ってきた。
愛する人と共にいてその人のために演奏をするだけでも幸せだと感じるクリスに、懐かしいリセの歌が聴こえた。
かすれた声と最後まで嬉しそうに歌うリセの笑顔がとても印象的でした。
■ トルタルート(al fine)
視点がトルタに変わることで、引っ越し前日に交通事故によりアルは怪我を負い意識不明、ファルは鼓膜の損傷とその時の記憶を失ったことが分かった。
ずっと雨が降っているのはファルの中でだけ、そして手紙の相手はアルではなくトルタだった。
al fineに入ってすぐに明かされたこの真実を知った上でトルタルートを思い出すとピースが組み合わさるように頭の中で話が再構築されていきました。
いや、これまででかなりこの作品を評価していたんですが、一層物語に引き込まれましたね。
真実が分かったことで、本編でトルタが交わした会話や行動の意味が分かってくる。
それがシナリオの質を引き上げていました。
アルのふりをして手紙を書くことで好きなクリスを支えることができる、でもクリスを支えているのは自分なのにそれを隠して欺き続けなければならないトルタの葛藤。
家事だって料理だって今はできるようになったけど、それもアルとしてしかクリスに見せることができない。
トルタとしての決別を決意し、アルとして会いに行った日のトルタの心境も、その後のトルタをどう思っているのかという手紙の返事を待っている時の心境も、アルへの姉妹愛とクリスへの愛情で揺れる姿は本当に辛そうで見てられませんでした。
答え合わせのように同じシナリオを、視点を変えて進めていくこのルートは本当に素晴らしかったです。
そして分岐から変わるグッドエンドでは、ニンナさんの助言でクリスを試すことはせず、ありのままトルタの姿で会いに行くことで、クリスにも自分の会っていたアルがトルタだったことが分かる。
全ての真実を打ち明け、故郷のアルに会いに行くも奇跡などなく、アルの亡くなる日時は変わらない。
既に亡くなっていたアルの葬儀を終え、二人でアルを送るため思い出の曲を鎮魂歌として奏でるラスト。
トルタはよく頑張ったよ。
■ グランドエンド
大切な人を失う夢を見たクリスはそれにフォーニを重ね、フォーニを想って思いついた楽想を楽譜として形にし、フォーニとの交流を深めていく。
素直で明るく子供っぽく拗ねたり照れたりするフォーニは本当に癒しですね。羽をパタパタさせたり足をぶらぶらさせてるところなんて愛らしいペットのよう。
これまでのルートですでにかなり愛着ができていましたが。
できた曲にフォーニの考えた歌詞を載せていき、修正を入れ、二人の歌を完成させていく。
卒業演奏をのことを気にかけながらも楽しくアンサンブルしちゃうフォーニの様子なんて微笑ましいですね。
その後も練習をしないで歌作りを進めるクリスに、フォーニは学校までついていくことに。
音楽の理論やレッスンに興味があるかもしれないからもっと早く学校に連れていけばよかったね、というクリスに対し、
「…ううん。私はいいんだ。それはトルタの役割だから」
というフォーニ。
アルを感じさせるこのセリフで、フォーニは意識不明になっているアルの意思があったりするのかな?なんて思いましたが性格は大分違いますね。
少なくともアル自身ということはなさそう。
でもファルを見守っているところとかアルの立場と考えると妙にしっくりきます。
アルが意識不明でずっと生きながらえていたのが、フォーニが消えてから数日後に亡くなっているのも辻褄が合いますね。
一向に卒業演奏の練習を進めようとしないクリスだったが、その真剣な想いを聞いてフォーニもその意思を尊重する。
コーデル先生からパートナーの紹介を受ける前日ぎりぎりまで学校でフォーニとアンサンブルをして過ごし、いざ紹介の日になるとフォーニの歌声が学園の人に聴こえていたことが判明。
フォーニの歌声が周りに聴こえるかもしれないという希望を胸に、クリスはパートナーをフォーニにすることに決めるが、それを聞いたフォーニは受け入れられず、トルタと組むまで出てこないと姿を消してしまう。
それでも家に留まり悪夢を見てうなされるクリスを見たフォーニは、クリスには自分が必要で、また自分もクリスを必要としていることが分かり、パートナーになることを承諾した。
卒業公演ではいないはずのフォーニの歌が響き渡り、その演奏が評価されて無事卒業。
フォーニと共に故郷のアルの元に帰ると、眠っているフォーニはアルの身体に吸い込まれるように消え、アルが目を覚ました。
フォーニとしての意識はアルの中にも残っているようですが、やっぱり歌の能力は残っていないようです。
生死を彷徨うアルの魂が、クリスを心配する未練から形を変えたものがフォーニといった感じですかね。
最後にアルが報われるハッピーエンドが見れて本当によかった。
アルが亡くなるのは他ルートでは1/20の朝9時頃ですが、このグランドエンドではフォーニがクリスと卒業演奏に出ているのでアルの意識が消えずに持ちこたえ、クリスとアルの魂でもあるフォーニが病院に会いに行ったことで奇跡の条件が整ったのだと個人的に解釈しました。
本当にいつまでもプレイしていたい素晴らしい作品でした。
どのキャラクターにも愛着が湧き、恋愛描写(心理描写)はとても丁寧で、最近の恋愛ものを手掛けるライターさんにはぜひ見習って欲しいと思いました。
歌も、記憶に残る素晴らしいメロディーとキャラクターの心情が載った繊細な歌詞は、思わず口ずさんでしまうような軽快さと胸に残る重厚さがあります。
シナリオ・構成も文句なし。
こういった作品がもっと増えて欲しいですね。