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k.tucumoさんの百千の定にかわたれし剋の長文感想

ユーザー
k.tucumo
ゲーム
百千の定にかわたれし剋
ブランド
エウシュリー
得点
60
参照数
578

一言コメント

所詮架空のお話。されど御話は御話。リアルではなくリアリティを大切にして欲しい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

今やエロゲ界隈では希少となってしまった遊べるエロゲの生き残りであるエウシュリーの新作。
個人的にはこれからも末永く続いて行ってほしいと思いながらも、やはり気になるのはエロゲにありがちなリアリティの喪失。
例えば冒頭の主人公とその仲間、それからヒロインとの遭遇時の会話。こんな冒頭数分の時点で嘘臭さが滲み出ていてなんだかなぁ~と感じてしまう。

例えば冒頭一発目のこの発言。
「別に、このくらいならお前にもできるだろ──ルイリ」
前後を考えればこのルイリなる人物と主人公は獲物を求めて森まで入り込み……つまり先程から一緒だった相手に対して急に説明的に名前を呼んだ事になる。
名前を呼び合う仲であれば「別に、このくらいルイリにもできるだろ」で問題ないのに、今会話している相手が誰なのかを紹介する為だけにライターの都合でわざわざこんな嘘くさい会話をしている。
こういう嘘くさい会話が積み重なると、あらゆる場所でテンポや、そこに含まれる意味合いがどんどんと薄くなっていってしまう。
それは例えばこのシーンのこの会話。
 手に持っているものを滅茶苦茶に振りすものだから、一応はまだ致命傷を受けていない。
 魔物はじりじりと距離を詰め、今にも命を奪う寸前に見えた
「女の子だ。……この辺りでは見かけない子だね」
「悠長に言ってる場合か!」
~15行に渡る悠長な会話~省略
ようやく戦闘開始!

嘘くせぇ~!
この悠長な会話の中ではぐだぐだと女の子が傷つくよりは自分が傷ついた方が~とか、それで自分が傷ついたとしてもかい?とか、そんな“主人公は熱血漢でお人よしですよ”という事を説明する為だけに存在するシーンにそぐわない会話が続きます。
今、正に目の前で女の子が襲われて、しかも命を奪う寸前だとか思ってるくせに走りながら悠長に会話している。
この矛盾は一体何なのか。
主人公の人間性を誰かに説明させたいのなら、とりあえず女の子を助けた後で「毎度のことながら無鉄砲だね」とか「相変わらず自分の事より他人の事を優先するね」とか、場面が落ち着いてから今の行動について会話させれば良いだけなのに、どうして今その場で悠長に会話してんだよみたいな事が全編通して多すぎる。
特に戦闘中に刃向け合ったままだらだらと話を続けるのって、この手の作品でよくある嘘だと思いますが、そこから嘘臭さを抜くために打ち合いながら問答したり、そもそもいざ抜刀前に説得という体で問答したりとか、どうにかこうにか棒立ちで剣構えてる時間を少なくするために工夫がされるもんですが今作はその工夫が無い時間が多すぎる。
戦闘中に棒立ちで会話してんじゃないよ!そのくせ死を覚悟したとか危なかったとかモノローグされても嘘吐けとしか思えないって!

一事が万事この調子で、めちゃくちゃ嘘くさい会話が終盤までずっと続く。
別に地の文や心の声がダメな理由なくないですか?少なくとも、変に嘘くさい台詞言わせるよりも思ってる事を地の文で示してユーザーに説明してくれた方がよっぽどマシだと思いますが。
よくあるダメな会話として、電話で「何?買い物してきてくれ?牛乳とトイレットペーパー?それも二つも?」みたいな、そんな会話電話でしねぇだろ誰と喋ってんだよっていうあるじゃないですか。
アレです。アレがずっと続く。

なんというか、エロゲのシナリオライターの皆さんももうちょっとこう、色々な作品に触れて勉強して、何が良くて何がダメなのかちゃんと考えたほうが良いと思う次第です。
シナリオというかテキストのクオリティをもっとどうにかしないと、ゲーム部分が面白くてもダメだと思うんですがね……