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k.tucumoさんの天色*アイルノーツの長文感想

ユーザー
k.tucumo
ゲーム
天色*アイルノーツ
ブランド
ゆずソフト
得点
40
参照数
431

一言コメント

この設定で純愛を貫くのは無理がある

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

女学園の男性教師とその生徒。
その関係性にエロが絡めばどうなるか。現代日本で過ごしていれば、それがインモラルであると即座に理解できます。
なので、この関係性を題材にしたエロ系統の作品は、インモラル故の背徳感等を煽るものが殆どです(女生徒に誘惑されて快楽に流される・女生徒を篭絡する鬼畜男性教諭等)。
何故かというと、そうせざるを得ないから。
生徒に手を出した時点で、手を出した男性教諭(今作では主人公)は道徳観の欠如した糞野郎であることが決定するからです。そこにどんな言い訳を挟もうが無意味な事は、皆さん当たり前に理解できるはず。
愛を言い訳にしても、“教師と生徒”という関係が概念としてタブーなので、どうあってもそこには胸糞要素が残る。

……のですが、あろうことか今作はその糞野郎主人公がいっちょまえに教師としての責任感だとか、優しさだとか、そういう“教師”としての道徳観を前面に押し出してしてくる上に、作風としても『これは純愛ハートフルなんだよ!』を貫こうとします。
この主人公への評価は『屑』ではなくあくまでも『格好いい先生』なんですね。
ここに致命的なズレがあるんです。

無 理 だ よ !

共通部分は、ご都合主義な展開もあるもののラブコメとしてしっかり楽しめます。
自分(主人公)を慕ってくれる女生徒たちに振り回されながらも、頼りにされる。そんな、男の認証欲求を十二分に満たしてくれる。
が、個別パートに入った瞬間に見る価値も無い汚物へと変貌してしまう訳です。
まぁこんなのはプレイしなくたって予想できる事なのですが、共通部分で築き上げてきた信頼や親愛といった、ある種綺麗な優越感が、個別に入った瞬間に完膚なきまでに叩き壊されてしまう。
だって、手を出しちゃうから。

シチュエーションを変えて考えてみましょう。

養子(女の子)を引き取ったあなたが、その子の成長を見守り続け、反抗期を乗り越えつついい人を見付けて結婚する所までを涙ながらに送り出す。
そんなあなたを見てその子もまた、今までありがとう、と涙を流す。
それを見届けた貴方は、一抹の寂しさと、何よりもその子が幸せになった事の充足感で胸がいっぱいになる……そんな物語。想像するだけで感動ものの世界じゃないですか。いい話です。

でもその直後に、成長したその子に劣情を催していきなり襲い掛かる!
……最悪でしょ?
いやいやいや、さっきまでの感動と幸福感返せよ!ってなるでしょ、普通に。
そういう事です。

このズレがとにかく気持ち悪くて世界に没入できない。
ゆずソフトが得意とする、“優しい世界”としての作風に設定が真っ向から対立してるんです。
それをやるなら最初から抜きゲーとして作るかインモラル物として作らないと無理なんですよ。感情が衝突事故を起こして訳が分からなくなってしまう。

ゆずソフトともあろうメーカーが、シナリオの選定間違えちゃったんじゃないの?という感じです。
相変わらずキャラの一人一人は文句なしにカワイイだけに、実に勿体ない……。