惜しい、完全新作と言うには疑問が残る
端的に述べると、僕個人としては非常に新西暦要素が鼻についてしまった感がある。
全体としてみた場合、一也や羅Goなど印象深く魅力的なキャラは多いだけにとても惜しい作品。
高濱作品を通してみても、地の文の密度や説教臭さ、理屈っぽさ、繰り返しといったものは大分緩和されておりすらすら見やすい作風となっていて、Light作品に触れてみたいという人にはお勧め……と言いたいのですが後述の理由故にちょっと難しいです。
ルートとしては翼、しおん、アマネの3ルートですが、しおんルートは事実上のグランドと言う事もあり他2ルートと比べても明らかに盛り上がりや完成度は上です。
かと言ってじゃあ他のルートの完成度がよろしくないのかと言えば、わりとその側面は否定できません。
ただ、それでもルート内の翼は凄くかわいいと思いますし、姉は姉で決して弟には見せていなかった顔などそういったところが深堀されるので魅力はちゃんとあります。以下、ルートやキャラクターについて。
共通ルート
・しおんってどういう子なの?とか石動家ってどんな家なの?とか舞台設定とかが提示されます。
しおんは確かにマガツという絶対者ですが、ただ家庭内においてもそのヒエラルキーが適用されるかと言うと悉くアマネに折檻されたり財布を握られたりとかしていて、そのへんはなんだかんだで外見年齢相応みたいな感じなんだなとしおんにほっこりします。
仙魔教団とか羅Goさんとか、一也君とか登場しますが一也君は初っ端収監されて以降たしか個別√まで出番なかった記憶があります。
姉ルート
・姉の宿痾というか他人と弟で付き合い方に自分の中で明確に一線を引いてしまっているところとか、母から続く愛の重いところとか、そういう部分は凄く印象深かったと思います。(ただあの顔芸は若干プレイしててうおぅってなりました)
ディランさんが報われなかったり、羅Goと灰厭さんは二人は結局跳梁跋扈するんやなと思うと少しだけ主人公たちの将来の安否は大丈夫なんだろうかと思ってしまいます。
翼ルート
・初めに言っておきます。翼くんちゃんの可愛さを見たいなら期待してもいいと思いますが、TSモノとしては期待しないほうがいいです。
TSという題材を扱っておいてこの着地点はさすがに僕はどうなんだろうと思いますし、TSと銘打つべきではなかったと思います。
ただ、それでも翼くんちゃんがルート内で見せてくれる雌顔の可愛さは間違いなく素晴らしいものだと思います。
このルートでは隼人と恵真の対決が大きな見せ場でしょう。
しおんルート
・実質グランド。隼人と亀裂が入って仙魔教団に転がり込んで財力でガチャ回しまくった後に虚無い気分になったり、アマネの小言が無い事に若干の寂しさを感じたり、羅Goに身内を貶されて怒ったりと、しおんのかわいらしさとか人間らしさとかが全面に出ていて素晴らしいと思います。
先生がまさかの森羅を使ったり、一也君が最後の最後で隼人を救ったり(この時の詠唱も素晴らしいと思います)、浩太郎がディランさんを救ったりと本当に見せ場がめちゃくちゃあって飽きません。
ディランさんが最後に灰厭を撃滅ではなく救済という形で向き合ったところは、ある意味確かにマガツを払ったという意味でタイトル回収しているのかなと思います。
羅Goは徹底的に暴れまくって一也君に「お前の術本来の使い方はこうやぞ」とドン引きする使い方を説明したりと、ラスボスと言う事もあって見ていて飽きないクソ野郎だったと思います。
・新西暦シリーズとのつながりについて
こっからが本当に愚痴しかなくなります。
作中、執拗なぐらいに高濱作品の新西暦シリーズのパロディが登場してきます。
段々辟易する人もいるかもしれませんが、その上で新西暦シリーズと明らかにつながりがあるような描写が多々現れます。
そういう作品にするんだったらなぜパロディを登場させまくったんだ?となってしまいますし、何より新規さんからしてみれば頭に疑問符が浮かぶ事だろうと思います。
この作品単品で完結する設定ではないことが、前述のLight作品を触ってみたいという人にお勧めできない理由となります。
・隼人について
隼人についてはナチュラルボーン善人ではあるものの、過去の掘り下げがあまりなく「強烈な過去があってそういう人格を形成した」という人物ではないところが高濱作品としては異色な側面となったでしょう。
それを味気ないとみなすか、好青年と見なすかはプレイしている人に判断が委ねられると思いますが過去と結果が結びついていないと……と思う人にとっては「嘘くさいぐらい善人っぽい」と見えると思います。
話としては盛り上がる部分はしっかり押さえており、また文章のくどさも緩和されておりこの点に関してはライター高濱氏のノウハウが生きていると思うのですが、この作品だけで舞台設定が完結していない事や翼の設定に関しては僕はどうしても減点対象にせざるを得ませんでした。