「人生には過程しかない」
「人生には過程しかない」
一言で言えば主人公がプロットに振り回される話。
ゲーム的なギミックも多くなく、演出も少なめなので、シナリオ一本のタイトルという印象。
システム面は程よく快適で可もなく不可もなく。
なので、ここでもシナリオに重点を置くことにする。
世界観はよく練られていて破綻も見られない。この点は同年代のゲームでも頭一つ抜けている。
単独ライターということもあって、人物描写にもブレは見られなかった。
お話も緩急が豊富で読んでいて飽きない。
登場人物たちの掛け合いもテンポがよく、シリアス気味な展開を良く中和していた。
次々に起きる出来事に振り回される主人公も見ごたえがあった。
本人にはどうしようもない物事に振り回されるのは同情を誘う。
ここまでは好印象。
評価が割れるのは次のポイントだろう。
個人的にはどれも気にならなかったが、間違った読み方をすると、途端にマイナス要素になりうると思う。
主人公と同じく翻弄されるならまだマシだが、シナリオの着地点を探るような(作中の問題がどのように解決されるのか)読み方をすると、大きく裏切られることになる。
本作のストーリーは「問題の解決」や「伏線の回収」に重点を置いていない。
問題解決の転換を迎えたような描写はあるが、「結果」が描かれないので上手くいったという保証もない。
・主人公が無能
主人公は決して有能ではない。
それどころか、作中の断片的な情報を鵜呑みにして、思い込みで行動するシーンが多くある。
しかも、やることなすことが裏目に出てばかりいる。
壺を壊すわセクハラするわコロニー崩壊のトリガーを引くわと、行動の結果だけ見たら褒められるところはない。
作中の最大の課題である「タイムリープ」でさえ、
解決のカギは主人公になかった。
誰かが作った機械を借りて時間を行ったり来たりしているだけだった。
表面的な態度はヘラヘラしていて軽薄な印象を受けるのに、
作中で何か出来事が起きるたびに態度がころころと変わり、
その実、何一つとして作中の問題を解決できていない。
主人公の活躍を期待すると失望する可能性が高い。
・お話の盛り上がりは遅め
シナリオ全体としてミスリードが多い。
「Aという事実はBと思わせておいて実はCだった」という展開が多用される。
その構造の関係で、枝葉末節に話が流れてしまうことがたびたびある。
特に夏蓮・沙羅のルートで顕著。
そんな調子でお話が進んでいくので、
作中である事実が判明しても、
「どうせ後からひっくり返されるんだろう?」
と疑心暗鬼に陥ってテキストに入り込めなくなる恐れがある。
どんでん返しがある程度収まって、
物語の目的がハッキリするのはほとんど終盤になるのだが、
冬編までにドロップアウトしてしまい、
その一部を見ることすら出来なかったプレイヤーも少なくないのでは。
実際、浦島の住人が推測した内容は大部分が限られた情報からの推測でしかなく、
桃香の登場によって大部分が覆されることになる。
最終的に明かされる事実と矛盾する事象は一つもないのだが、
シナリオを読み進める中で枝葉末節に囚われると、
「このシナリオの面白さって何?」と疑心暗鬼になりかねない。
そんなわけで、次の項目と重複するが、
明確な結論を求めて読み進めると肩透かしを食らう可能性が高い。
・「起」「結」のないシナリオ
さて、作中では様々な出来事が主人公を襲う。
しかし基本的に無能なのでなすがままにしかならない。
作中の出来事はほぼすべてそれで終わる。
ループを繰り返す世界観で、大きな勘違いに気づき
ループ脱出のきっかけを見つけて、
ようやく大問題を解決するための旅に出る……そこでゲームは終わる。
このゲームに明確な結論はない。
よく考えてみれば、物語(ループ)の始まりも描写されない。
起承転結の「起」と「結」が、すっぽり抜け落ちている。
作中では延々と主人公が翻弄される過程を見せつけられることになる。
そこが本作の魅力ではあるのだが、
普通は「作中の問題を解決したカタルシス」とか「伏線を綺麗に片づける」とか、
そういったものが求められるように思う。
つまり「綺麗な結論」が求められる。
しかし、このゲームでは描かれない。
そこでも読み方を間違えると、モヤモヤした気持ちになると思う。
以上のように、間違いなく魅力的な作品ではあるのだが、
読み方を間違えると、一気につまらなくなってしまう、
取扱いに難しいゲームだといえそうだ。