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isumiさんの無限夜行の長文感想

ユーザー
isumi
ゲーム
無限夜行
ブランド
ウミユリクラゲ
得点
82
参照数
2432

一言コメント

夏休みこども劇場でやってもいいような作品ですが、ある1点だけ、どうしてもその1点だけ許せませんでした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

失くしたもの、忘れたもの、忘れちゃいけないもの


ちなみに原作は原画家さんのHPで公開されたweb小説だそうです。
ここの他の作品『だれかのよどみ』はよくわからないまま終わる(いい意味での)雰囲気ゲーでしたが、こちらは誰でも楽しめる作品だと思いますよ。

うだるような暑い夏の夕暮れ。兄と二人で田舎に向かうために列車に乗った悠太。
しかし2人は「無限夜行」と呼ばれる奇妙な列車に乗ってしまいます。
しかも切符泥棒に切符をとられてしまい、行き先が思い出せなくなってしまうのでした。
切符を取り戻すため、失った記憶を取り戻すため、彼らは偶然その列車に乗り合わせた幼馴染の少女と不思議な市場へ行くことに。
果てさて彼らは無事に切符を取り戻すことができるのでしょうか。そして失ったものを取り戻すことはできるのでしょうか。



とにかく伏線の張り方がすごい。
おおっと感心するものではなく後から読み返してみてああーと納得する類のものですが、序盤からあちらこちらに張り巡らされていて、プレイ時間も割にとても濃い時間を過ごさせていただきました。
中盤からのネタばらしもそれまで抱いていた疑問が一気に晴れるような爽快感があり、夢中で読み進めました。
そして何より綺麗なんですよね。
澄み切った小川のように清々しい、例えばそう蛍が生息できるような……そんなイメージ。
中盤からラストにかけては本当に綺麗で、そして切なくてグッとくるシーンが盛りだくさんで馬鹿みたいにボロボロ泣きました。
普段鬱ゲーを好んでプレイしている人間ですが、この綺麗さ(言い換えるなら素直さ)にはやられました。
旅行先で感じるような知らない場所なのにどこか懐かしい、そんな気分も味わえて本当にいい作品です。

しかし、ただ1つだけ。
私はとある人物に対して最後まで違和感が拭えませんでした。
(こういうと語弊がありますね。正確には中盤から最後に掛けてです)
全体的にはとても綺麗でいい作品なのですが、この1点だけが私の中でシミになっているといいますか。
人間の汚い部分を扱ったお話は大好きなのですが、この作品は最後まで綺麗でいて欲しかったとそう思ってしまいました。
我ながら勝手な人間だと思います。


とは言えシナリオもグラフィックも雰囲気も全て高レベルなので、プレイして損はないですよ。
と言うか、是非プレイしましょう!
プレイ時間も2時間程度と短いですし、短編小説を読むような感覚で暑い夏の夜にサクッとプレイしてみてはいかがでしょうか。

点数の内訳:基本点85点、違和感-3点の82点(再プレイ後思うところがあったので点数をアップしました)

以下、ネタばれ感想























許せない人物=悠太
中盤でみせた表情が今までのイメージと合わなくて違和感を抱きましたが、まさかそんな子だとは思いませんでした。
確かに千夏を結果的に死なせたのは啓介なのかもしれませんが、それでも悠太のしたことは子供だからと許されるレベルではありません。
悠太の両親も悠太の言うことだけを鵜呑みにして啓介を責めるのも引っかかりました。
まぁね啓介に非は無いとは言いませんよ。啓介がもう少し普通の子供だったらこんなことにはならなかったわけですから。
それでも、それがイコール悠太は悪くないにはならないと思うのです。
蛍の辻での感動とかラストの切なさがこのせいで1割減になった気がします。

ちなみに私は中盤まで兄は川に飛び込んで既に死んでいるものとして読み進めていました。
なのでネタばらしされた時にはやられた~と思いましたね。
ミスリードに引っ掛かったのか、それとも私の早とちりだったのかは……ミスリードに引っ掛かったということにしておいてください。
他にも無くなったカード、お父さんは写真下手あたりは真相を知ってうまいなぁと感心しました。