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isumiさんのゲルニカ ‐蝿の王‐の長文感想

ユーザー
isumi
ゲーム
ゲルニカ ‐蝿の王‐
ブランド
Nightmare Syndrome
得点
80
参照数
2819

一言コメント

「戦争」は終わらない、「約束」はもう永遠に果たされない

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

貴方に、私は救えない。





それはまるで――まるで、真冬の夜の夢のような御伽話。






フリーゲーム インモラルADV プレイ時間4時間(攻略なしの場合。攻略サイトを利用すれば2時間程度で終わると思います)
BLはありませんが、いつもながら女装少年がいます。
2008年の5月に公開された「ゲルニカ」のリメイク作品。
Nightmare Syndrome様の作品では「The Game」が一番知名度が高く、また人気もあるようですが私はゲルニカが一番好きです。
単純に好みだけだと
ゲルニカ、ワルイコダレダ、Game=鬼ガナク、その他の作品
の順で好きですね。ここの作品は救いがなく、容赦のない鬱展開があるものの方が完成度が高い気がします。
それが私がBLが苦手なくせに、ここのゲームをプレイする理由でもあるのですが。


ストーリーなど基本的な部分には大きな変更がありませんので、割愛します。
基本的な部分に関しては旧作の長文感想をご参照ください。(とは言っても信者が褒めちぎっているだけの中身のない感想ですが…)
リメイクの感想では主に旧作との変更点について述べていきますね。
大きな変更点は
新規イベントの追加、個別イベントに若干の修正
立ち絵・既存スチル絵の書き直し、新規スチル絵の追加
システムが以前よりややこしくなった
この3つです。他にも変更点はありますがそれは追々述べていくとして、まずはこの3つから。


まずは若干のマイナス要素であるシステムのややこしさついて。
read meを見てわかる通り、リメイクは旧作のような移動場所を選択して進めていく方式ではなく、それぞれのキャラに対応したチェスの駒を進めてくことで進行します。
最初は面白いと思ったのですが……ややこしいです。特にルーク(馬の駒)は移動できるマスが独特で、イベントを回収するのが面倒臭い。
1、2回でクリアーできる難易度ならば何ら問題はありませんでしたが、そこは旧作でも難易度が高かったゲルニカ。ヒントはあるもののリメイクでもその難易度は保証済み。
コマドリ君は一体何回彼に殺されればいいのでしょうか?もう毒殺EDは嫌です。
自力攻略を目指しましたが、結局攻略サイトを頼るはめになりました。さてさてトゥルーEDの条件は……こんなのわかるわけないよ!!
そしてこのせいで攻略する(トゥルーEDを見る)ことに気が行ってしまい、純粋にストーリーを楽しむということができなくなってしまっているのは……なんだか非常にもったいないし、損をしている気がします。

先にマイナス面を述べてしまいましたが、後の2つの変更点は問題ありません。
立ち絵については旧作の方が若干好みでしたし、なぜか女装っ子が2人に増えてるなど突っ込みたいところはありますが特に不満と言うわけではありません。
(むしろアンネの女装はこれはこれでアリなんじゃないの?と思い始めているあたり、私も大分毒されてきたのかも)
立ち絵について述べたついでにグラフィックについても。
ここの絵は好みが分かれるところでしょうが、私は好きなので高評価しています。
めちゃくちゃうまいっ!!…ってわけでもないんですが、ここのゲームはこの絵じゃないと駄目な気がします。
それにしてもアンネが可愛い。スカートも履かせたことだし、もう女の子でいいんじゃない?

では最後にもっともプラスに働いたイベントの追加について。
マスにイベントを埋め込むことにより、旧作のフラグ立てをしないと同じ会話シーンを延々と見る羽目になるという不満点が見事に解消されています。
また、イベントの追加によって散々コマドリをいたぶってくれた挙句悲惨な最期を遂げたマリアへの心証が少しだけよくなりました。あくまで少しだけですけどね。
他のキャラについても過去回想が増えたことによって、受ける印象が旧作と少し違ってきました。
せっかくなので各キャラの感想を。
・ダフネ
作品中最も優しくて最も脆い子。
彼の「優しい優しい」お兄ちゃんが言葉通りの人であったとは到底思えませんが、それでも最後まで恨み切れなかったのは彼が優しかったからなのでしょうね。
彼のお兄ちゃんについてですが、私はマリアと同じような印象を受けました。
彼のことを見ているようでお兄ちゃんが見ていたものは「弟を守ってあげている優しい優しい自分」だったように思えて仕方がないのです。
それとローリエについて。彼の顔はおそらくお兄ちゃんと一緒なのだと思います。それは彼が依存から抜け切れていないことの表れなのでしょう。

・カンダタ
家族が増えるよ!!やったねた○ちゃん!!
身勝手な大人に弄ばれて壊された、本作中1番悲惨な子供。
彼に救いが見出されるとしたら、おそらく母親は彼を最後まで守っていてくれた、それくらいでしょうか。
大人に絶望していますが、コマドリと普通に接している辺り、彼はどこかで大人に対してまだ希望を持っているのかなとも思います。
彼の時には容認されていたことが現在は異常であるというのも救いっちゃあ救いですかね…。

・メイ
癒しキャラその1でおぞましいもの大好きっ子。何気に重要な情報をポロっと漏らすあたり侮れない子ですね。
コマドリとの会話シーンがいちいち可愛くて、ああもう可愛いなぁ…とニヤニヤ。
そして個別のラストがやはりいい。過去回想の追加でより良くなりました。
そういえば高校時代に「過保護と過干渉の意味を履き違えるな」と現代文の先生に言われたことがありますが、(確か何もしなくてもご飯が出てきたり服が洗濯されているのは「過保護」、いちいち自分の行動に口出ししてくる場合が「過干渉」とかそんな話だったような…)この場合の母親の行動は過保護ではなく過干渉だったのかな。…ってだからどうした?と聞かれればそれだけなんですが。

・アンネ
ああもう可愛いなぁ。癒しキャラその2
過去回想からはそれほど悲惨な印象は受けませんが(それは現在の彼の言動のせいなのかもしれませんが)、人の役に立つことに執着する理由やあの口癖の意味を想像するとボディブローのようにじわじわ効いてきます。
解釈の仕方はいろいろとあると思いますが、彼が「許した」と受けとるならば、それがこのゲームにおける唯一の救いなのかもしれません。

・マリア
旧作では散々コマドリをいたぶっておいて無様な最期を遂げたマリアですが、イベントの追加により見方が若干変わりました。
旧作ではその自己中心的さはメイに一方的な愛を注ぐだけのものだと思っていましたが、実は彼の自己中心的にはもう一つの意味があったんですね。
マリアの愛情は独善的で自己中心的。無償の愛だなんてとんでもない。アレの名が「アガペー」なのは皮肉なのでしょうね。
ただ順序はどうであれ彼がメイを愛していたことには変わりなかったのではないかと思います。
少しばかり相手のことが見えていなかっただけで…。
と言うか彼ら親子(メイ、マリア、母親)は誰一人としてお互いが見えていなかったんだと思います。
マリアはメイを通して母親の愛情を見ていて、メイは誰も見ていない。
そして母親もメイだけを見ているようでいて、それが一方的な愛情の押し付けのように見え、実はメイすらも見ていなかったような印象を受けました。
何と言う負の連鎖。

・コマドリ
無力で無能な唯一の大人。
何もできなかったのは、彼が大人になってしまった故。
ところで彼のエピソード、私は「蜘蛛の糸を登りきってしまったカンダタの話」に思えるのですが、実際のところそれを意図して書かれたのでしょうか。


他の細かな変更点については、何と…既読スキップが実装されました!!
それがどうした?と思われる方が多いと思うのですが、ここの作品は今まで既読スキップがなく、未読でも問答無用ですっ飛ばされていたんです。
あの繰り返しプレイ必須なのに既読スキップがないGameなんて、Enterキー長押しで未読部分まですっ飛ばしてバックログで戻ったことが一体何回あったことでしょう。
時にはバックログで戻れないところまですっ飛ばしてしまい、泣く泣くロードし直したこともありました。
他の作品でも同様です。
それが……ついに…ついに既読スキップが実装されたんです。こんなに嬉しいことはありません。
ま、未読スキップは他のゲームには普通に実装されているものなので、全く点数には反映していませんけどね。
でも嬉しかったので真っ先に書きました。
また、トゥルーED後にすべてのエピソードを見られる絵本が追加されたのもとても親切。
こういう短いエピソードを読むことで進んでいくゲームにはありがたい機能ですね。
あのややこしいシステムをもう一回やる気はありませんし、お気に入りのイベントでセーブしていたらすぐに足りなくなってしまいそうですし。
ここはちょっと加点。
何と言うか……今までがプレイヤーに対して不親切だったのかもしれないのですが、今回プレイヤーにえらい親切でちょっとびっくりしました。
攻略難度の高さは相変わらずでしたけどね♪
あとは…あーどうでもいいことですが、主人公のコマドリ君の顔が出るシーンが多くなりましたよ。
たからってどうってことはないのですが、旧作ではトゥルーEDで手のみ出ていただけですので、それから考えるとずいぶん出世したんではないかと。
他にも細かな変更点はあると思いますが、気づいたのはそれくらいです。


と、結構な褒めちぎってきましたが、気になるところもやっぱり有ります。
1番は整合性が怪しいところ。前述の通り今回各キャラのイベントはチェス盤に埋め込んであります。
そのため進め方を間違えると整合性が取れていない部分が出てきてしまいます。
主人公(=プレイヤー)が知らないはずのことなのに何故かコマドリが知っていたり、旧作の瞬間移動がまだあったり…。
プレイヤーが知らないことをコマドリは知っているというのは、このゲームの構成上有り得ることなのかもしれないよね~などと好意的に解釈しようと試みましたが(すいませんこのゲームの信者なもので…)、そうすると設定の段階(王国に入ると記憶が~のところ)で狂うのでやはり無理でした。
ただ整合性まで考慮するとここのゲームはとんでもないバグが発生しそうなので、まーしょうがないのかなと割り切るしかないのかな。
それともう一つ重大な欠点が…これはいつも通りですね。バグです。
さすがに極楽のような頻発するバグではないのですが、どうやら駒を選択したまま(駒選択時の赤い枠が出たまま)セーブすると止まります。
終了してから再起動すれば支障はありませんが、地味に腹が立ちます。
バグにも腹が立つんですが、気を付けていたつもりなのにそのタイミングで何度もセーブしてしまう自分の学習能力のなさにもです…。
他にも誤字脱字がちらほら見受けられます。これもいつも通りですね。


さすがに旧作で受けた衝撃に及ぶはずもなく、粗も見えてしまったので旧作よりも若干低めにつけました。
しかしそれでも高得点を付けたのは、やはりトゥルーEDの救いのなさが好きだからです。
あの知らなければ救いがあるように見えるけど、知ってしまえば救いが無くなるEDがたまらなく好きです。改変されていなくて本当に良かった。
もし改変されていたら多分70点くらいに下がっていたことでしょう。それくらいあの救いのないEDは大好きなんです。
やはりここのゲームは鬱ゲーがいい。
どうやら次回作、次々回作は割とライトなものになるようですが(よだかは展開次第で鬱ゲーになりそうだけど、ここの連作は微妙だからなぁ)、またワルイコダレダやゲルニカのようなどん底に突き落とされるようなゲームを気長に待っています。



最後に
繰り返す絶望の中で見出したわずかな希望を胸に生き続ける少年と、過去の過ちを悔いながら王国を去った青年―――彼らが再び出会うことは、もう二度とない。
全ては現実だったのか、それとも青年の思いが見せた真冬の夜の夢だったのか。


以下、疑問点
















・結局「オトナ」とは何だったのか?
戦争が終わっているのなら本物であるはずがなく、全てはギフトが見せている幻であるように思えるのですが…カンダタの個別を見るとどうなんだろうなという疑問も。
そもそもこの王国がアンネの望んだ子供のための王国であるのならば、カンダタをぐちゃぐちゃにする必要がないと思うのです。
旧作では城下の子供は成長して大人になると言っていたので、城に攻め込んでくる大人は成長した城下の子供たちであり、かつて大人に傷つけられた子どもと現在大人に傷つけられている子どもの戦いではないか?と思ったのですが…今のところその旧作で見たイベントに遭遇していないので何とも。
アーカイブでそのイベントの有無は確かめられるんですけどね。全部見るのが大変で、今少しずつ読み進めているところなので、また書きなおします。

・未完成の王国
つまりはネバーランドなのではないのかと。そしてアンネ達はピーターパンでおともだちはティンカーベル。
彼らは冬(多分あの戦争~彼らが生きていた時が冬だったのではないでしょうか)とそれ以外を繰り返しながら永遠に生き続けます。
ところで、コマドリが紛れ込んだのはいつだったのか?
コマドリは一体何度同じときを繰り返していたのか?
(おそらくプレイヤーが介入しない限り永遠に繰り返していた気がします)
そして最大の疑問。いったい何時になったらアンネ達はこの無限ループから解放されるのでしょうか?

・蛾
アンネ復活イベントや他のイベントで出てくる蛾には何か意味があったのか。
サブタイトルを蠅の王にするか蛾の王にするのかで迷われたそうなので、意味はありそうなのですが…。