例え全てを犠牲にしても、手に入れたいものありますか?
これは理想の世界に魅入られた愚かな男の物語
そしてそれぞれの時代で懸命に生きていた、名も無き花たちの物語
いやーいい作品でした。もう本当に待ってて良かった!って感じです。
ここの作品は一見すると少女マンガのように甘くてふわふわしているのですが、実際プレイしてみるとピリッとスパイスが効いているところが魅力的なんですよね。
今回もたっぷりスパイスが効いていましたよ。
ちなみに本作以外はフリーで公開していますので、機会があればそちらも是非プレイしてみてください。
お勧めです。
始まりは完全な世界に魅入られた男から。
彼は子供のころから夢見ていた理想の世界に行くためにタイムマシンを開発しました。
ただしそれは一方通行で、理想の世界を見るためには今の地位も、生活も、そして妻子も捨てていかなければいけません。
ちょっとここの葛藤があっさりしすぎかなと思いましたが、子供のころから思い描いていた夢がついに実現する日が来たら、しかもそれが自分が努力した結果のものだったら私もそう思うのかもしれません。
そして男は全てを捨てて理想の世界を探す旅に出かけることになります。
構成はプロローグから始まって、8つのエピソード、そしてエピローグで締め。
8つのエピソードは8つの章とremenbrance mode(tipsみたいなもの)からなっています。
それぞれの時代お話は独立しているようで、どこかで少しつながっています。
プレイしていくうちにその繋がりを見つけ出せると少し嬉しかったですね。まさかここであの時代と繋がっているとは!という驚きがありました。
内容も科学から哲学、厨二病と多岐にわたっていて、中でも科学の発展によっていつか起こるかもしれない問題を扱った『abandoned』が印象的。
またいくつかのエピソードはハッピーEDではなくグッドED(敢えてバッドEDとは言いません)だったのも嬉しい誤算でした。
奇跡を使えばいくらでもご都合主義展開に出来るのですが敢えてそれをせず、だけどただ鬱なだけではなく「僅かに」希望のある終わり方というのは個人的に大好きです。
特に『Dear』はどんな時でも希望を持ち続けていられる人の強さといいますか……これ以上ふさわしいものはないっていうくらい素晴らしい終わり方でした。、
そしてエピローグは予想していたとはいえ。
ED後の回想シーンは胸が締め付けられます。
始まりはささやかだけど大きな夢だったはずなのに、どうしてこうなってしまったんだろうと。
ただ、これに関しては少しだけ思うところもあります。詳しくは下のネタばれ感想で……。
グラフィックも綺麗(特に背景の加工がとても素敵)、各エピソードは多少のばらつきはあるもののどれも素晴らしく、何より程よい「苦み」のある作品でした。
点数は基本点85点、ラストの余韻で+2点の87点。
値段の割にボリュームもたっぷりで大満足。
画面演出によってはメニュー画面(特にバックログ)が見にくいという欠点もありましたが、そこを差し引いてもあまりあるものがありました。
入手するまでにいろいろありましたがそれでも買って良かった。
そしてこんな素晴らしい作品を生み出された制作者の方々にお礼を言いたい気分です。
今のところ入手手段が自家通販しかないようですが、通販が再開されたら是非プレイしてみてください。
最後に
世界は不完全だからこそ、完全に近づこうと発展し維持していくことができるのだと思います。
どこか欠けているから、そこを埋めようと努力していけるのだと思います。
もし世界が完全なものになってしまったら、それ以上発展する必要がなくなってしまったら……それ以降は滅びていくしかないのでしょう。
プレイ後にそんなことを考えてみました。
以下、特に印象に残ったエピソードの感想と各エピソード間の繋がり(激しくネタばれ)
多分8章はもう一つの未来(if)なのでしょうね。
ハッピーEDで終わるエピソードもですが、グッドEDで終わるvivid、lost、dearは特に8章が切ないです……。
また全体を通して見てみると主人公以上に陽子が救われないですね。
夫は自分たちを捨てて理想の世界を探しに行ってしまうし、周りに追いつくために頑張っていたのに自分が開発した薬のせいであんなことが起こってしまうし、ヒロも自分の元から去っていってしまうし……。
・abandoned-人間の死、機械の死-
日常描写ならこのエピソードが一番好きですね。大人げないおっさんのやり取りはみていて楽しかったです。
このエピソードのテーマは「機械の死は人間の死と同列なのか」でしょうか。
これはロボットが人に近づけば近づくほど、現実でも問題になってくるのかもしれません。
私はたとえ大量生産品であっても、それが持主にとって大切なものであるならばそれは死であると思います。
それと最後までブルーが主人公をお父さんではなくおじさんと呼んでいたのが、自分は大量生産品ではないというと主張しているようで印象に残りました。
「………オジサンは、………ワタシのたったひとりのカゾクだよ」
・vivid-そして世界は崩壊へ向かう-
THE厨二病
プロローグ見た瞬間バトロワ!?と思いました。が、本筋はバトルではなく友情もの。
人間らしさを失った少女たちが全力で人間のふりをする1週間のお話でした。
ラストはエピソード中で1番好きです。
感動よりも喪失感が得られるこういうEDはやっぱり大好き。
「ねぇ、貴方の私に対する友達っていう想いが、………私を殺すのよ」
「私の代わりに貴方は、いきなさい」
たぶんこの「いきなさい」には2通りの意味が込められているのだと思います。
・innocent-真っ白な悪-
エピソードそのものよりも、とある人物のその後の話が印象的でした。
ハッピーEDではないけれど、彼女にはその結末が視えていても、それでも最期まで2人は幸せだったとそう信じたいです。
「………………誰にも許してもらえない罪を」
「………もう、許して下さい………」
このセリフは一体誰が言ったのでしょうか。
最初は紅かなと思っていましたが、改めて見ると教祖(マゼンタ?)のセリフのような気もします。
・lost-忘れたもの、忘れてはいけないもの-
あまり良くない意味で印象に残ったエピソード。
ただただ惜しい!設定はいいし、終盤でのネタばらしも面白い。
その見せ方さえもう少し良ければ……。
こういう展開にするには読み手に中盤で疑問を抱かせるようなシナリオ展開にしないと、ネタばらしの時の驚きが薄くなってしまうと思います。
セリフやテキスト等から違和感を感じさせてこそ、この展開は輝くと思うのです。
生かし切れていないキャラクターもいてもったいないなぁと感じました。
また話の構成上仕方ないこととはいえ、既読スキップで飛ばせるシーンが多いのでボリューム面でも今一つでした。
ただ、終末感は好み。それだけに不満が残るエピソードでした。
・dear-親愛なるこの世界へ-
総合ではこのエピソードが一番好き。最後にプレイしたからというのもありますが。
これはとある家族のお話。歪でも、血は繋がっていなくても彼らは確かに家族であったと思います。
そしてラストがたまらない。絶望なんだけど僅かに希望が残されていて……。風船を飛ばすシーンがとても綺麗でした。
それ故に8章の日常は幸せすぎて泣けてきます。
………ひとりじゃなければ、私は、………もうそれでいいよ。
私はただ、誰かと、一緒にいたかったよ。
・epilogue-素晴らしき不完全な世界-
後味が悪い……ですがこれで終わりではないような気がします。
一方通行のタイムマシンなのに過去を見ていることから、まだもう1つ仕掛けがありそうですが現状では情報がないので保留ということで。
私は彼のしたことは間違っているとは思いません。一つのものに全力を注ぎこめる人間を否定するなんてことはできません。
ただ、大事なことにもっと早く気づくべきでした。そういった意味では彼は愚か者であると思います。
良い話に突っ込むのは野暮ってものですが、一つだけ。
foreverのエピソードは個人的にありえないと思います。
こういう実験は最悪の状況を想定して何かしらの対策はしているはずなので、被曝することはまずないと言っていいでしょう。
もし事故が起こったら大問題になりますし、しかもあれだけ設備の整った大学ならなおさらです。
各エピソード間の繋がり(メモ代わりに書いたものなので不確定情報が満載です)
〈abandoned〉
ヒロ(緋色)→foreverの緋依と顕二の息子
ヒロのおばさん→陽子
〈vivid〉
紅い薬の開発者→陽子
紅い薬を飲むと超能力を得られる→circularのマゼンタもこの薬を飲んだ?
紅たちを助けた人物→ヒロ
これ以外にもvividはmelancholyよりも未来であることを匂わせる会話あり。
〈circular〉
マゼンタの処刑理由→闇のために殺人を犯したから?
21世紀末の大予言→lostに出てくる預言書
〈innocent〉
百合と玄兎→abandonedのユリとゲント
ヒロの奥さん→紅
教祖様→マゼンタ?
久々宇さん→abandonedに出てきた人は血縁者?
〈lost〉
預言書→マゼンタの予言
ユグドラシルの根差す大地に在った学校→緋依達が通っていた大学?
緑青校長→そこの出身者?
〈dear〉
lostのその後の世界
〈forever〉
蒔元くん→主人公
melancholyは特に他のエピソードとの繋がりはなし。
foreverやvividでEACカンパニーについては会話に出てきたこともありましたが、このエピソードは独立しているみたいです。
他にも小ネタですが緋依達の見ていた『365』が映画化して、そしてさらにはゲーム化までしていました。
どんだけ人気あるんだこのドラマ。
緋依が不老不死の薬を陽子に渡したため、最後は蒔元が永遠の命を手に入れた陽子と未来で再会して終わるだろうと予測していましたが、良い方向に裏切られました。
私の予測した方がハッピーエンドですが、これではあまりにもご都合主義過ぎますから。