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humimasaさんの景の海のアペイリアの長文感想

ユーザー
humimasa
ゲーム
景の海のアペイリア
ブランド
シルキーズプラスDOLCE
得点
89
参照数
388

一言コメント

終わり方が秀逸

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

SF要素や叙述トリック要素についてはそちらのマニアの方々の感想があるので、恋愛シミュレーションとして見た場合について。

 本作の終わり方をどう評価しようか非常に悩ましい。悪い見方をすれば、アぺイリアが恋を知ったかどうかわからず、どのヒロインが選ばれたのかもはっきりとしない尻切れトンボの終わり方(有名どころのゲームで言えば『ハピメアFD』の前半のような感じ)で突然観測箱が出てきて閉幕である。しかし、よくよく考えてみると、「強いAI」が恋を知ることができるかという問題には、そもそも自身が強いAIであった主人公及び久遠・ましろが恋を知ることができたのだから、それよりもさらに高位のAIであるアぺイリアもいつかは知ることができることは自明であり、明確な回答をシナリオ上において示す必要はなく、むしろそこを示してしまえば蛇足であるというのが私の感想です。
 最終的にどのヒロインが選ばれるのか明示しないというのも、この作品のように主人公がルート分岐ではなく一本道を通って唯一のエンドに辿り着くタイプのゲームでは仕方がない終わり方だとは思う。私はこのゲームをプレイした際に、このゲームの恋愛面は『ハピメア』に似ていると感じた。『ハピメア』も主人公がすべてのヒロインルートを経験したうえでtrueendに辿り着くタイプである。ただその終着点の取り方は大きく違っており、『ハピメア』では「清算」するのに対して、こちらは「放任」する。しかしここはどちらが劣っているというわけではなく、プレイヤーの好みの問題だと思う。この好みが合わない人は『アぺイリア』が気に入らないのではないだろうか。私はどちらの方法も嫌いではないので、アぺイリアにも高得点を付けた。

 終わり方でもう一つ問題なのが最後の観測箱だが、私はあれを「プレイヤーが『景の海のアぺイリア』を観測している」という演出だと理解した。しかし、あの描写だけでは「美羽の世界(ゲーム内における「現実」)も実はシミュレートされたものである」という解釈も成り立ってしまい、そちらの解釈をとると薄気味の悪いエンドになってしまう。ここのところに関しては、プレイヤーの解釈に任せずに、もう少し演出意図を明確にしてほしかった。私にとってこの演出はこの作品最大の減点ポイントになってしまった。

 ところで、私は持論として、恋愛シミュレーションゲームのシナリオというのはあくまでキャラクターに肉付けをするために存在するのであって、シナリオから逆算されたキャラクターが配置されただけのゲームや、ライターの哲学のためにキャラクターが配置されたゲームというもは、いくらシナリオが練られていてもエロゲーとしては0点だと考えている。この見地から見て、本作はシナリオ重視であるがキャラが逆算の結果ではない稀有な名作だと思う。(シンカーなどの非ヒロインキャラは逆算だが、それは構わない。)考えてみていただきたい。本作の終盤において、「観測者」は美羽だったということが明らかになるが、もし美羽が観測者でなかったとしたら、美羽ルートにおける恋愛描写には何か大きな違いが出ただろうか?美羽は自身が観測者であることを示唆するセリフを吐くためだけの「伏線マシーン」だろうか?プレイした方ならお分かりかと思うが、そうではない。ほかのヒロインについても同様に、シナリオから逆算された機械的な個性ではないということがわかるだろう。

 ここで少しおかしなことを言うが、本作はSF仕立てである必要があったのだろうか?SFファンで本作を評価されている方々には申し訳ないが、私はこの作品にとって蛇足なのはSF要素だと思う。作中で二十スリットやらなにやらについて長ったらしい説明が入る場面が多々あったが、このゲームに低評価を下している方たちの大半が批判しているのはまさにその部分である。私が思うに、恋愛シミュレーションとして見た場合、この部分は蛇足である。二重スリットやらタイムパラドクスについて述べる尺があるならば、アぺイリアと過ごした一年間の描写を細かくした方がよかったのではと思えてならない。試しに二回目のプレイではシンカーや美羽がSF要素について御託を述べる場面はすべてスキップしてみたが、そうするとテンポがよくなり一週目よりも話全体の流れがかえって理解しやすくなると感じた。
 
 以下は完全に私個人の意見だが、このサイトも含めエロゲー批評・考察が全般的に「伏線至上主義」になっているのは非常に残念だ。本作の評価されるべき点はシナリオによって肉付けされたキャラクター自体であると個人的には思っている。