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houtengagekiさんのEver17 -the out of infinity- Premium Editionの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
Ever17 -the out of infinity- Premium Edition
ブランド
KID
得点
100
参照数
1430

一言コメント

巧みなトリックと構成の妙で、読み手を作品世界にこれ以上ないほど引きこんでくれる名作です。トリックに驚き、キャラたちの生き様に感情移入し、作品構成そのものの美しさに感動しながら最終シナリオを読み進めれば、最後に待つのは、終わるのが寂しいと感じてしまうほどの圧倒的な読後感の気持ち良さ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 この作品は、プロローグの後、「倉成武」と「記憶消失の少年」のどちらかの視点を選択し、
海中のテーマパークという閉鎖空間において、4人のヒロインのルートを巡っていくことになります。
この4ルートも、ヒロインの背景がしっかりと掘り下げられていき、充分に面白い。
そして、それらが全て終わったあとに、最終ルートが開放されるのですが…

 やはりこの作品において最高に面白いのは、最終シナリオでしょう。
それまでの個別ルートと始まり方は同じながら、それまでには無かった、
謎に迫っていくようなテキストと選択肢があからさまに追加されているから、
核心に迫っていくルートなのだという気配が序盤からビンビン漂っていて、
これからどんな真相が待っているのかドキドキさせられます。
個別部分で伏線がばらまかれ、多数の謎が残ったままの状態だっただけに、
それをどう回収するのか気になっているプレイヤーは、
この時点で、最終ルートの展開の先がものすごく気になってしまうことでしょう。

 そして、謎だった部分がどんどん明らかになっていく過程はまさに怒涛。
この物語の中心に据えられている、ゲームでしか表現できない内容のトリックが、
ユーザーに最高のインパクトを与える瞬間は、本当に息を飲むくらいの驚きがありました。
説明されるのではなく「気付かされる」形でトリックの正体が現れるので、
自分の内側から衝撃がせり上がってくるような感じで、これまでのゲームにない強烈なドキドキ感がありました。
自分はまんまと騙されましたが、これは非常に気持ちいい騙され方でした。
もう、悔しいとか感じる以前に、ここまで見事に騙されると本当に気持ちいいんですよね。

 しかも、仕掛けが一回だけでは終わらず、次から次へと連鎖的に驚愕の事実が明らかになっていく過程は絶妙で、
何かが明らかになるごとに、プレイヤーは身を乗り出して先の展開を追い求めることになります。
最初の衝撃の余韻が残っているところへ、さらにこうやってたたみかけるように驚きが襲ってくるのですから…
プレイヤーを楽しませるための展開の持って行き方が、半端じゃなく上手いです。


 このように、最終ルートが突出して素晴らしいのは確かなのですが、
その前提として、そこに到るまでのヒロイン個別ルートも印象的な出来になっていたのも大きいと思います。
この作品のシナリオは、プレイヤーを引っ掛けるための大きなアイデアを根っことして組み立てられていますが、
それを最大限に活かすための肉付けの役割として、各ヒロインの抱える事情が語られる個別ルートが
とてもいい役割を果たしています。
二人の主人公の立場から、四人のヒロインと絆を深めていくそれらのルートでは、
ぶっちゃけて言えば最終ルートのための伏線作りの意味合いが大きいものの、
どのヒロインもそれぞれ重要な役割を演じつつ、一個の人格として魅力あるキャラに描かれており、
絆を深めるのと同時に語られるヒロインたちの背景事情は作り込まれており、それぞれが一本のシナリオとして面白い内容に仕上がっています。
特に、倉成武の視点で攻略できるつぐみ、空の両ヒロインルートは閉鎖空間サスペンスとしての緊張感も
存分に味わえる展開が待っており、どういう結末を迎えるのかドキドキしながら読み進めることができました。

 そして、最終ルートにおいて各ヒロインの事情がすべて一つに繋がることで、各ルートでの感情移入が一気に収束するため、
最後に隠された真相が明らかになる過程の楽しさが、最大限盛り上がるような構成になっている。
全てが終わる頃には、すべてのキャラクターに対して大きな思い入れと愛情を抱くことができる。
これは本当に見事な構成だと思います。
このゲームの最終ルートは、単に伏線が全部回収されるってだけじゃなくて、
それまで辿ってきたルートが全部「繋がる」っていうのが凄い。
最終ルートが固定されている作品っていうのは、お話が収束していくことが快感に思えるものですが、
この作品はその醍醐味が極限まで追求されていると感じます。
Ever17という作品の魅力を語る上で、まず最初に挙げられるのはもちろんトリックですが、
この「構成の素晴らしさ」も、それに並ぶ大きな魅力でしょう。

 キャラクターの魅力、人間ドラマとしての面白さ、トリック、緻密な構成、
それらが相互に良さを引き出し合う、各要素のスパイラル的なプラス作用が物語を最大限に盛り上げ、
その結果、ラストで最高の読後感をプレイヤーに与えてくれます。
ラストシーンでは、このEver17という物語世界から去ることが非常に寂しく思えてしまい、
終わったあとは虚脱感と充実感に包まれて、その心地よさといったら、
数時間なにもする気が起こらず、余韻に浸りながらぼーっとしていた程でした。
こんな思いができるゲームはそうそうない。


 似たアイデアの作品は他にないわけではないのですが、
(特に、とあるプレミアエロゲとの類似性をよく指摘されますし)
ビジュアルノベルのシステム、仕様まで逆手に取り、プレイヤーの常識と思い込みを最大限に利用したトリックは
発想として空前絶後のもの。一度しか使えないような究極のネタとも言えます。
そして、そのアイデアへ肉付けされた要素の質の高さと、構成の素晴らしさにより、
エンターテイメントとして最上級のものに仕上がっています。
アイデアを最高の作品へと昇華させ切った、この作品のスタッフさん達には
最大限の賛辞を贈りたい。
思いついたアイデアを最高の形で活かしきるということは、そうそうできることではありませんから。
しかも、複数ライターでここまで一本筋の通った作品に仕上がっているというのは驚異的なことです。


 あえて欠点を挙げるとすれば、共通部分が多少間延びしているということでしょうか。
海中の施設に閉じ込められてしまっているというのにイマイチ緊迫感が無いのが原因かな。
あそこらへんを、「まーた打越さんはこんな電波書いてしょうがないなこの人は」
とかそんな風に楽しめるのは、よく訓練されたKID信者だけでしょうし
普通はちょっと引いてしまったり、退屈に感じてしまうかもしれませんね。
でも、ああいう部分もキャラの掘り下げ、うんちくや伏線のばら撒きにうまく使われていますから
無駄な部分と切って捨てることができないのですが…

 まあ、とにかく名作です。こういうADV系のギャルゲーの中では、
エンターテイメントとしての出来は最高級と言っていい作品じゃないでしょうか。
自分はKID全盛期には殆どの作品を買い集め、熱中してプレイしていたのですが、
この作品は、その中でも一番面白いと感じたゲームでした。
発売当時、ネットの掲示板で、クリア報告をする人が軒並み発狂したように熱い感想を投稿してたのは
すごく記憶に残っています。
自分はPS2版、DC版、そしてこのPCで発売されたバージョンの3つをプレイしましたが、
いくつかビジュアル面での追加要素があるので、このPC版以降のバージョンがオススメですね。

↓以下、森博嗣氏の某作品を引き合いに出してのネタバレ込みの感想。


































 本作は、森博嗣氏の小説の影響を強く受けているのだと思います。
そう思う理由は、このゲームのライター陣がこのEver17を作る直前に
『すべてがFになる』のゲーム版のシナリオを担当していたことと、
『そして二人だけになった』という作品と内容的に共通する部分がかなり多かったため、自分はそう感じたわけですが。
まずトリックありきの作品作りがなされているあたり、コンセプト的にも似た感じがしますね。

 しかし、単に影響を受けて似たようなシナリオに仕上げたような安易な作品ではなく、
ギャルゲーとしても質の高いものに仕上げてあり、キャラクターに感情移入しやすくなっているし、
そして何よりも、『そして二人だけになった』のトリックそのままではなく工夫が加えられており、
ゲームでしか表現できない内容の展開を作り出し、
プレイヤーに新鮮な驚きを味わわせてくれる作品に仕上がっていることなどから、
元ネタの作品とは違った面白さが植えつけられた、素晴らしい作品に仕上がっていました。

 この作品、元ネタである『そして二人だけになった』と比較して、万人向けの後味を持つ作品になっていますが、
思うに、元ネタの展開を見て、こうしたらもっと後味のいい話になるのでは、みたいな考えが
Ever17のライター陣にはあったんじゃないですかね。
そんなふうに感じられるアレンジ具合だったので。
 でも、『そして二人だけになった』も、あれはあれで違った後味を持つ面白い作品なので、
このEver17が気に入った人には、読んでみることをオススメしたいです。
舞台装置やトリックを始め、さまざまな部分を比較して楽しむことができると思いますから。