突っ込みどころ満載のストーリー、長過ぎる夏休み、そして(ある意味)衝撃のラスト。
色々と突っ込みどころが多い本作。
何がおかしいのかと聞かれれば、これはもうほとんどとしか言いようがないのですが、
キリがないので、いすか編と深夜子編、長過ぎる夏休みに絞って話していきます。
【突っ込みどころ ~いすか編~】
序盤でいすかの祖母・鶴代は前日のことも覚えていない程に物忘れが酷いことが明かされます。
どう考えても認知症ですが、明言はされません。
終盤になり、いすかが生活費を稼ぐために鶴代に隠れて宗教団体の詐欺に加担し、葛藤していたことを告白すると「全部知っていた」と言います。
このシーンは認知症をも超えていすかのことを想い、覚え続けていたとして感動シーンとなっています。
しかしそれ以前に鶴代は、その宗教団体の長である律然をまるっきり信じ、いすかのお金で同じ皿を何度も買ってしまっています。
「知ってるなら買わないでよ」と冷静な突っ込みをしたくなります。
律然のせいとは言え、いすかが隠した通帳を探して使っているのもいただけません。
これに限らず、いすか編中盤までとそれ以降の鶴代は別人と言えるほど記憶力が異なります。
中盤までは前日にいすかと約束したことすら忘れていたのに、後半は何もかも覚えていると言っていいほどの落差があります。
また、律然は宗教者として島民から絶大な信頼を集めています。
その信頼たるや、認知症の鶴代が島民を騙しているという無理のある妄言を無条件に信じるほどで、もはや盲目的と言ってもいいでしょう。
一方で、都会の100円ショップで売っているような量産品を、神の加護が宿った唯一無二の物として高値で売り捌いています。
主人公はそれらを仕入れている現場を撮影し、島民にそれを知らしめ信頼を失墜させます。
それだけであっさり解決するかねという真っ当な疑問はさておき、これは島民が「一つしかないはずのものが複数ある」ことを知らない前提があってはじめて成立します。
では律然はどのように島民に勘づかせなかったのか。
簡単に言うと、壺などを所定の位置から動かしてはいけないという指示をしてそれを防いでいます。
が、実はこれより前に律然から買ったものを「一つしかない」と島民が路上で互いに自慢し合うシーンがあります。
意味不明な妄言を信じるほど盲目的な信者が、果たしてこんなことをするでしょうか。
そもそも自慢し合っていたら狭い離島のこと、絶対にどこかでバレていたと思うんですが……
主人公がバラすまで誰も知らなかった、という前提自体も非常に怪しいものがあります。
どの角度から見ても矛盾してしまいます。
【突っ込みどころ ~深夜子編~】
「二人で読書するのは初めて」と言いつつ、少し後の回想で二人で読書してるシーンがあるなど序盤からカッ飛ばしてくれる深夜子編。
それはそれとして、深夜子の父・邦衛のキャラクター像に強烈な違和感があります。
一言で言うと、真逆の性質を持ち合わせているのです。
基本的には、堅物ながらも人情家として描かれています。
故郷の島に対する恩義を忘れず、両親を亡くした主人公を気遣い世話をすることを厭わず、代議士として国民の幸せを第一に考える。
しかし深夜子を都会に連れて行く立場の人間となるとそれが一変します。
島を「好きでも嫌いでもない」と露骨に無関心、島を離れたくない深夜子に協力する友人達の友情を理解できず狼狽と、人の情というものがまるでないありがちな小物キャラへと変貌します。
邦衛には立場上仕方なくやっている面もあるので、前述の人物像と多少矛盾するのは仕方ありません。
家のしきたりと父親としての気持ちの間で葛藤する姿を描きたかったであろうことも理解できます。
それにしてもこの二つのキャラクター像にちぐはぐなものを感じずにはいられません。
前述の鶴代と併せて考えると、展開によってキャラクターの設定や性格を都合よく捻じ曲げてるだけなのでしょう。
ですが、それによって違和感が生まれては意味がありません。
なお深夜子は、自分を連れ戻そうとしているのが祖父(=邦衛の父)の意思で、邦衛はそれに従わざるを得ないという事情を最初から知っています。
にも拘らず、邦衛に徹底して辛辣な態度を取っていることにも疑問を抱きます。
邦衛に島に残ることを許可された途端父の立場を心配する辺り、なかなか現金な娘です。
【長過ぎる夏休み】
本作は個別ルートに相当するものがなく、
プロローグ→いすか編→汐浬編→凪編→深夜子編→真実
と一本道です。
しかし、普段ゲーム中の時間の流れを気にしない私が終始首を傾げるほど、本作はおかしなことになっています。
はっきり言ってしまうと夏休みがおかしく、特に時期と期間が異常です。
まず時期についてですが汐浬編の初日に「夏休みを毎日だらだら過ごすだけだ」という台詞があります。
しかし、その翌々日に「都会はまだ春」という台詞があります。
春とは暦上は2~5月の頭、気象庁では3~5月末とされています。
この時期に夏休みに入っているのはいくらなんでも早すぎます。
本作の舞台が常夏の島とは言え、夏休みの時期がそんなにも一般的なそれとズレるものでしょうか?
夏休みが体感的に長過ぎるのも気になりました。
最初はどこかで翌年の夏休みに時間が飛んでると思ったほどです。
あまりにも長過ぎたので、具体的にどれくらいなのか計算してみました。
夏休みはいすか編の途中からスタートします。
そこからいすか編終了までが最低15日、汐浬編がちょうど24日+6日(汐浬編と凪編の間の時間)、
凪編が最低21日、深夜子編で”とある”台詞がある日までちょうど10日です。
つまり、最低76日です。
なお、これは「数日」など曖昧な時間経過の表現を0日としてカウントした数字であり、実際はもっと多くなると思われます。
深夜子編の”とある”台詞とは「夏休みも、もう半分近くしか残ってない」「半分近く終わってる」というもの。
この日数は彼らの夏休みの半分程度でしかないということです。
よって76×2の152日、つまり5ヶ月前後が夏休み期間ということになります。
高校の夏休みの長さじゃないですね。
個人的に一番の突っ込みどころは長さそのものではなく、滅茶苦茶な長さなのに日数や季節感の表現が作中にやたら多いことだと思います。
そのせいで余計長さとおかしさが浮き彫りになってるという……
余談ですが、島での季節感が都会と異なる表現として、「この島には春と夏の間にもう一つ季節があるのではないか」と主人公が語ります。
この語りは汐浬編と深夜子編で登場します。
汐浬編では主人公の考察による大発見としているのに対し、深夜子編では「~と言われている」と一般論として語られています。
精々2ヶ月程度しかないこの間に一般論になったとは考えにくく、ここでもまた矛盾を感じます。
【真実】
私はこうも思いました。
「ありえない。何かの伏線ではないのか」と。
本作は主人公の回想という形で話が進みます。
故に、語られている内容が必ずしも真実とは限りません。
夏休みが長過ぎることを考えると、ループしている、主人公の記憶が偽りなど、想定されるケースは様々ありますよね。
そして深夜子編の後、真実編でついに真相が明かされます。
主人公の記憶が間違っていたことも明らかになります。
ここで私は少なからず高揚しました。
このどんでん返しにより私の違和感が解消される可能性が出てきたからです。
……しかしその間違いは真実編に入ってからの部分であり、プロローグ~深夜子編については全く問題がないそうです。
つまり、私がこれまで述べてきたことは何かの間違いではなく、夏休みは5ヶ月というワケです。
これが正常という現実と小規模すぎるどんでん返しはなかなか衝撃的なものがあります。
どんでん返しの伏線がその直前とプロローグの冒頭部分だけというのも地味に酷い気がします。
さて、以上の点を踏まえて本作の内容について言えることがあるならば……考えるだけ無駄ということです。
【グラフィック】
少々癖があり男キャラは全体的に微妙ながら、ヒロイン達については独特の透明感がある、魅力的なグラフィックだと思いました。
また、各編冒頭ではモノクロの線画が使われています。
これがまた良く、カラー以上にイラストレーターさんの持つ世界観がダイレクトに伝わってきます。
凄くモノクロ映えする絵だなぁ、としみじみ思いましたね。
ただ一つだけ非常に気になるのが、女性キャラが目を閉じる立ち絵やCG。
まつ毛がかなりギザギザしており、それが絶妙な位置にあるせいで、薄目に見えてしまうことが多々あります。
目を閉じている時のまつ毛の艶のせいで薄目に見える、というのは他のゲームでも多々あることですが、本作にはそれら以上に強烈な薄目感があります。
それ以外は全く問題ないクオリティなだけに余計この点が目立ってしまっています。
以前私は他のゲームの感想で「背景がおかしいならメッセージウィンドウだけ視界に入れればいい」と言ったことがあります。
しかし本作の薄目は美麗なグラフィックの中に突然現れるのでこの方法は執れず、不意打ちでダメージを受けます。
諦めましょう。
ちなみにCGは88枚です。
本作と連動キャンペーンを行っていた姉妹ブランドの『銃騎士Cutie Bullet』はCGが少なかったと記憶していますが、こちらは問題ありません。
まあ、Hシーンはヒロイン4名に各2回とあまり多くない上に薄いのですが……
【まとめ】
傾向としてはシナリオ重視ですが、真面目に読めば読むほど損をした気分になるゲームです。
様々な突っ込みポイントを乗り越えても、あまりに小規模すぎるどんでん返し、最終的に「奇……跡……?」と困惑する超展開とご都合主義のハーモニー、Hシーンとエピローグ以外に選択ヒロインの個別イベント皆無という現実に顎が外れそうになるだけです。
適当に突っ込みを入れて、薄目から目をそらしつつ絵を堪能するのが一番かなと個人的には思います。
絵は基本的に良いですし、各ヒロインもそれなりに可愛い一面があるのが救いでしょうか。
感想は以上です。拙い長文ではありましたが、読んで下さりありがとうございました。